妖精の言霊
雪片が降り積もる。
視界を白に染め上げて。
大丈夫、とキミは言った。震えるのを必死に押し隠しながら。
御免ね、知っていたよ。だけれども震えているのはお互い様だったから、言わなかった。でも多分キミも知っていたよね。
吐く息が絡み合うほど肩を寄せ合って、頬をくすぐる髪に笑いあった。そうしていたら少しは震えも収まったから、わざと面白い事を言った。
不謹慎だったかな。
良いよね。
他に聞いている人なんて居ない。ううん、居てもかまわなかった。きっと誰も気にしない。
こんな片隅の密やかな戯れなんて、些細な出来事だろうから。
それでも静寂は蝕むように訪れた。
ねえ。
何か喋って?
声を聞かせて。
名前を呼んで。
笑って――。
視界の端を、何かが過ぎった。
音無く羽搏くは透明の。
儚げに、哀しげに、憐れんで、首を巡らしその双眸はあまねく見渡していた。
何を思うのだろう。
何を嘆くだろう。
幽かに唇が動く。
『 』
声は聴こえなかった。
やがて融けるようにソレは消えた。
涙が落ちた。
埋もれた幻。消された慟哭。隠された吐息。
蠢くすべての物は、間もなく厳かに平らかに動きを止める。
握り締めたキミの手。
繋いだままで。温もりを感じていると錯覚したまま、傍に。
残り僅かな時間。
なお雪片は降り積もる。
この世界が朽ち果てても。