小瓶の中の少年
旅に出よう。
僕は小瓶を用意した。コルク栓で閉じるやつ。透明で中身の見えるやつ。
コルクは水が入ったら大変だからで、透明なのは外が見えなきゃツマンナイ。
紙に文字を書くのは苦手。ペン先が紙に引っかかってインクが滲むから。
でも小瓶に石版は入らないから仕方ないよね。
お手紙を入れたら、波止場に行こう。
海の向こうには色んな国があるんだって。
教会の絵のような、見渡す限り、草原だったり。森だったり。
信じられない。
カモメが沢山飛んでいる。
口笛を吹くと、一羽が降りてきてくれた。
事情を話すと、快く引き受けてくれた。
呪文を唱えよう。
小さくなぁれ♪
カモメは小瓶に僕を詰めた。そして小瓶を咥えて、波止場を飛び立った。
海へ。
大波小波。日照りに嵐。凪に大風。
コルクの蓋の小瓶なら、心配ご無用。
一日目。
カモメが着いて来てくれた。
二日目。
イルカが挨拶してくれた。
三日目。
トビウオが飛んだ。
四日目。
…誰にも会わなかった。
五日目も。
六日目も。
七日目の月夜の晩に、岩に引っかかった。
…どうしよう。
フジツボが一生懸命見守ってくれる。
けれど彼らでは助けれられない。
一晩中、空を見上げていた。
八日目の朝が来た。
* * *
「パパ、何か光ったよ」
女の子が走ってきます。
一生懸命に手を伸ばして、磯から小瓶を救い上げました。
中に、何か入っています。
「手紙だ!」
コルクの栓はとても堅くて、女の子はパパに開けて貰いました。
ちょっと湿った紙を広げると、ヘタクソな文字が書かれていました。
『ともだちになってください』
小瓶には、まだ何か入っています。
やっぱりちょっと湿った木彫りの人形でした。
「蝶ネクタイをしているから、男の子だね」
女の子は、手紙をもう一度読みました。
この子には友達がいないのでしょうか。
だから小瓶の中に入っていたのでしょうか。
でも、大丈夫。
「あたしが、いるからね」