01. すべてのはじまり、旅立ちの朝



 ”魔王”が死んだ。

 詳しくは知らない。村に立ち寄った吟遊詩人が言っていた。
 ”魔王”と言う存在自体、よく解らない。滅多に聞く名前じゃない。
 死んだ、って聞いた村の人達は、一斉に嘆いた。


 世界の何処かに“魔王”が居た。
 “魔王”は千年に一度、世代交代を繰り返す。
 復活の時には、禍をもたらす――


 ――そういう言い伝えが、世界には、ある。


 嘆きは、つまり絶望を意味していた。
 来るべき”厄災”について。


 “魔王”だから厄災を起こすのか、厄災を起こすから“魔王”なのか。
 それは世代交代の時期だけで、残りの数百年“魔王”はどうしているのか。
 理由を誰も知らなかったけど、千年に一度、人間の数が激減するのは事実。




 あたしは村外れの谷の、村を見下ろせる丘の上にいた。辺りは白い朝靄に包まれて、差し込む金色の光を反射させている。ちょっと寒い。
「怖いね」
 隣には相棒のルオ。真っ黒くて大きな犬。すべすべの頭を撫でる。
「怖いよ」
 彼はピンと耳を立てて、ちょっと鼻をひくつかせて風の匂いを嗅いでいる。返事は無いけれどちゃんと解ってる。あたしの心。村での出来事。
 魔王。
 幼馴染みのユノイ。
 1週間前から行方不明。
「あたし、何処に行くんだろう」
 独り言を続ける。
 解り切っている答えを見つける為の儀式。
 あたしは答えを知ってる。
「迷ったらね、風と同じ向きで歩けって、じいちゃんが言ってたんだ」
 今は南風。
 だから。
 北へ向かおう。
 彼を捜しに。
「行ってみるよ」
 ルオがぺろりとあたしの手を舐めた。







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