不滅の花 09




 転属の報は突然だった。
 攻属魔法士殿の新しい任地はここより更に北方らしい。
 寒いのは苦手なんだよね、と彼女はポツリと呟いた。


「でも、こんな急に」
「よくあるよ」
 彼女はあっけらかんと答える。
 確かに攻属魔法士の絶対数は少なくて、何処の戦場でも欲しているのは事実だ。彼女の居たこの4ヶ月の間に、この地方の勢力図は完全にひっくり返った。先日の降霜の朝の襲撃は、自軍の勝利の駄目押し決定打のようなものだった。
 此処での仕事は終わったからさっさと他所へ行って働けと言う事か。
 結局、戦場においては”道具”に過ぎないのか。
 シュナの矢傷はまだ癒えてもない。

 着任期限は1週間後。それまでに到着しなければ処罰が待っている。1週間はギリギリの数字だ。のんびり喋っている暇は無かった。急いで荷造りをしなければならない。出立は翌朝。

「あ」
 戻ってきた自室の前で、彼女は不意に声を上げる。
「あれ、あげる」
「は? 何ですか?」
 尋ねるシュナを尻目に、彼女は部屋へ入っていった。許可を貰ってないのに一緒に入るわけにはいかないシュナは待ちぼうけだ。ややあってカーテンを捲って出てきた彼女が掴んでいたのは、軟らかく膨らんだ紙袋。
「はいこれ。煙草」
「……賭けの、ですか?」
「うん。全部返すね」
 はいと返事し掛けて、シュナは口を半開きにして止まる。
「ぜ、全部?」
「あたし、吸わないから」
 それは知っている。彼女が喫煙しているのをシュナは一度も目にしていない。
 でも、全部? 4ヶ月分?
「もしかして今までの勝ち分、取っといてある、んですか?」
「うん。捨てるの、勿体無いじゃない」
 湿気てんじゃないだろうか。
「皆に配ってね」
「……ありがたく戴きます」
 吊ってない腕で袋を受け取る。


 早朝。初冬の綺麗な青空が頭上に広がっていた。あと1週間この天気が保つと良い。
 見送りはシュナ1人だった。なのに背後に沢山の気配と視線を感じる。昨夜、返却された煙草に皆一様に苦笑していた。
 そして来た時と同じように彼女は1人で出立する。
「軍曹」
「なぁに?」
「また、お会いできますか?」
 きょとんとした目で見られ、シュナはたじろく。場違いな事を言ってしまっただろうか。
「あんたが生きてたらね?」
 至極真っ当な事のように言われてしまった。
 この人は自分が戦死するなど微塵も考えていない。おそらく怪我1つなく除隊するのだろう。
「軍曹も。お元気で」
「誰に言ってンの?」
 シュナは踵を打ち揃え敬礼する。
 今度は直ぐに返礼が来た。

 一般志願兵の最低従軍年数は10年。シュナは17で入隊したから除隊まで後4年。
 この戦争が除隊前に終わったとしても、また新しい戦争が起こらないとも限らない。



 ――生きていられるだろうか。









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