不滅の花 06




「それは戦闘も、って意味?」
「はい」
「うーん、考えた事、なかったなぁ」
「どうして攻属魔法士になったんですか?」
「職がなかったから、かな。端的に言うとね」
 でも彼女ほどの実力なら……
「師匠がさ、死んじゃったんだよね。流行り病で。あたしまだ子供でさ。別の誰かの師事受ける気もなくて、つっても独立できるほど大人じゃなくて。お金もないし、師匠、貧乏だったから。それで、手っ取り早く稼げる軍隊に志願したってわけ」
 それって。
「あんたと似てる、でしょ」
「え、はい。あ、っと、何で――」
「部下の経歴くらい、入れとかなきゃね」
 頭を指差して、悪戯っ子のように笑う。
「まぁ、人殺しに抵抗ないかって訊かれれば、そりゃあるよ。あたしの魔法で人がバタバタ死んでく、ってのはね、いくら敵だっつってもね、やっぱ慣れないよ。戦場暮らし長いけどね」
 霜の降りた、踏むとさくさくと軽い音を立てる土に、杖を突き立てる。
 上部から3分の1ほどの位置を、両手で握り締める。
 彼女の姿が陽炎を纏うように揺らめく。
 マントが翻る。
 2、3度波打ち、ふわりと元に戻った。
「でも嫌じゃないの」
 呟く。
 風の隙間を縫うように。
「大きな魔法を、思う存分使える事。利害関係は一致してるのよ。あたしは魔法を使いたい、軍は敵をやっつけたい。ね。おかしいかな。狂ってるかな。人を殺してるってのにね。でもホントはね、目の前で起きてる事なのに、実感がないの。……うん、実感がないなら、慣れるわけないんだ」
 彼女は掠れる声で、吐き出すように喋った。
「……軍曹」
「楽しいかって? 楽しくないよ。全然。こんな仕事。全然楽しくなんかない。楽しい訳ないじゃん」
「軍曹!」


 何をやっているのだろう。
 彼女を追い詰めているだけではないか。
 自分から話題を振っておいて受け止める事もできない。
 彼女を苦しめたいわけではないのに。
 最低だ。


「申し訳――」
「良いよ別に。ね、あたしみたいなのが戦ってて良いと思う?」
 一転して声のトーンが落ちつく。
「少なくとも、我々には貴女が必要です」
「そう言って貰えると、ありがたいわ」
 彼女は一瞬泣き笑いのような表情を見せ、地面から杖を引き抜いた。
「じゃ、あたしも訊こう。シュナは何で兵隊なんてやってんの?」
「金が貰えるからです」
「人を殺して?」
「そうです」
「他にも金儲けの方法はあるでしょう?」
「手っ取り早く稼げるからです」
 シュナも敢えて答える。
「お金が貯まったら?」
「辞めます。除隊までに命があったら、ですが」
 こんな心構えで生き残ろうなどと、図々しい。今までもよく死ななかったというくらいだ。
「辞めたら何するの?」
「そうですね――何処か、鉱山ででも働くのでしょうね」
 鍛えた体を活かせられるとしたらそれくらいしか思いつかない。
 実家が今でもシュナの送金に頼っているのは事実。昔ほど貧窮してはいないが、今の給料よりも少ない職につけば家族は困ると訴えるだろう。
「――あんたと、こういう話ができるとは思わなかった」
「自分もです」
「部屋だってお隣なのにね」
 戦闘中は勿論、非番の日に食堂で休憩したり、今のように巡回に出たりしても、私的な事は殆ど話さなかった。
「ああなんかすっきりしたなー」
 杖を持ったまま、蒼穹に向けて思い切り彼女は伸びをした。
 無防備なその姿を見ていると、戦場で起こす爆炎が嘘のような気がした。
「そろそろ帰ろっか。お腹空いた」
「はい」



 基地までの帰り道、残り3分の2ほどの頃に、それは来た。









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