不滅の花 03




 そうして、戦場では1人で奮闘し、基地内でも彼女は孤立していた。
 基地に来てまだ日が浅く、知り合いも居ない。総司令官とシュナの他、殆ど喋らない。食事は皆と同じように食堂で摂るが、端っこの目立たない席で――本人そのものは大目立ちだ――黙々と済ませていた。
 話し掛ける者も居ない。
 皆、恐れをなしている。齢20の小娘に。彼女と同い年も大勢居るのに。


 彼女はさほど気にしたふうもなく過ごしていた。
 シュナにはそう見えた。
 本当は、若き攻属魔法士は、とても気にしていたのだ。


「何してんの?」
「げ。まま魔法士殿……っ!」
 地べたに車座に坐った兵士達の前には、草臥れたカードと、掛け金代わりの煙草が散らばっている。
 賭け事は軍規で禁じられている。
 それでも暇潰しに度々行われた。喧嘩沙汰は即刻営倉送りだから兵士達も平和的に行う。何より田舎に娯楽は少ない。上官もそれを知っているから見逃す。
 が、実際に見つかるのは避けたいのが事実だ。
「え、え――っと……」
「混ぜて貰って良い?」
 隙間に攻属魔法士はちょこんと座り込む。
「はぁ?」
 呆気に取られて全員が注目する。
「あ。えっと。途中から入るのは、駄目だよね? じゃ、次のから入れて貰える?」


 背後に立ったシュナは頭を下げる。
 一緒に廊下を歩いていて、不意に彼女の視線が物陰に向けられた。
 彼女はちょっと立ち止まり、どんどん歩いてきてしまった。何とか止めようとした。兵士達が何をしているか解ったから。


「いえ! 今からでも結構です……」
「ほんと? ありがと」
 兵士の一人が中央のカードの山から適当に数枚拾う。それを彼女に渡す。
 受け取ったカードを、彼女は見様見真似で掌の中で広げる。
「ポーカーではないの?」
「は。ち、違います。えーと……」
 一通りレクチャーを受け、勝負は再開(?)された。
 兵士達のつっかえつっかえの説明を把握できたのか定かではないが、飛び入り参加のギルフォード魔法士は――掛け金代わりの煙草はシュナが出した――不器用な手付きでカードを捲る。
「……あの」
 息苦しいほどの無言の中で、ぽつ、彼女は喋る。兵士達は思わず緊張する。
「貴方達のお仕事、取っちゃって、御免ね」
 兵士達は、何を言われたのか、すぐには意味が掴めなかった。
 戦闘の事だと、遅れ馳せながら気づく。
「言い訳じゃないんだけど、ちゃんと杖使うと、どうしてもああなっちゃうの。だから、驚かないで欲しいんだ」
 ぽい、とカードが捨てられる。
 誰かが遠慮がちに拾う。本当に必要なカードだったのかは解らない。
 魔法の知識はない。
 法則も何も知らない。
 彼女の台詞を、聞いたままに、噛み砕くようにして彼らはどうにか飲み込んだ。


「揃ったよ」
 裏返されていたカードが表に向けられる。
「――えっ?!」
 揃っているのは、ダイヤの10、J、Q、K、A。
 控えていたシュナは全部見ている。順番が巡って来る度に揃っていくのは驚愕だった。
 イカサマではない。
 魔法使いは手品師とは違う。
 それに彼女は爆砕魔法は使えても、予知や透視の類はからきしの筈だ。
「……は、はい」
「じゃ、あたしの勝ちね?」
 そう言って、少しだけ口角が上がる。
 笑ったのだと気づき、兵士達に一様に動揺が走る。
 ずっと笑わなかったのは、後で知った事だが、緊張していた為らしい。

 その後もゲームは続いた。
 全勝、だった。
 凄腕の攻属魔法士殿は、賭け事にも異常に強かった。

 あっという間に基地内に広まった。

 ……笑うと可愛い、とも。


 その後、場を見かけても、彼女は積極的には参加しなかった。
 加われば勝ててしまう可能性が高かったし、それでは勝負的に面白くない。
 うっかり目が合ってしまったとか、やる事がなくて物凄く暇だったとか、そんな時だけだ。
 むしろ誘われる事の方が多かった。
 配給されたばかりの煙草を全部獲られても、兵士達は嬉しそうだった。


 北方の短い夏に、真新しい南風が来たような雰囲気だった。









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