ULTIMATE YAMATO PROJECT

SCENARIO of YAMATO

第一話

シャトル

 無数の星をちりばめた漆黒の宇宙空間が広がっていた。
突然空間の一部が揺らぎ始めた。すると何も無い空間に一隻の宇宙船が現れた。
ワープ・アウトしてきた宇宙船は、全長百メートルほどの小型の連絡用シャトルだった。
ワープ機関を搭載できる最低限サイズの旅客用宇宙船で、武装しているところを見るとどうやら軍用のようだ。
 乗客は二人だけだった。窓際に座っている男は帽子を目深にかぶって軽い寝息を立てている。
その横に座っている女性はひざに置いている端末のキーを、慣れた手つきでたたいている。
男は三十代後半ぐらいだろうか、髪はボサボサで無精ひげを生やしている。
お世辞にもきれい好きではなさそうだ。宇宙軍の人間であることは軍服を着ていることでも分かる。
ただ筋肉質でかなり鍛えられているらしく、服の上からでもはっきりと分かった。
女性の方は二十代後半と思われる美人で、ストレートのショートヘアが似合っていた。
彼女も軍の人間であることは着ている服で分かった。上官と部下。そんな感じに見えなくも無いが、
男のだらしなさが気になるが、二人がつけている階級章で男が上官であることを裏付けている。
 キーボードを走っていた女性の指が止まった。左手首にしている通信機内蔵のクロノグラフをチラッと見た。
時間を確認し、横で眠っている男の寝顔を見て、フッと笑った。
 男の寝顔越しに窓の外を見た。いつのまにか逆光を背に巨大な小惑星がシャトルの進行方向に見えてきた。
女性は端末の蓋になっている液晶部分を閉じ作業を中断した。どうやら目的地に着いたようだ。
「副長、着いたのか?」
男が訊いた。
「あら、リョウ起きてたの?」
男は帽子をかぶり直し、倒していたシートを戻し窓越しに外を覗いた。
「エンジンの音が変わって、出力を落としたのが分かったからな」
男は軽いあくびをしながら答えた。
「それに俺は艦長だよな」
「ウフフ・・・いいじゃない、誰もいないんだし。あと少しでドッキング・ベイに接岸するわ」
リーズはいたずらっぽく笑いながらいった。リョウはそんなリーズの笑顔を見てから窓の外に視線を移した。

小惑星はすでに視界いっぱいに迫っていた。
  そしてシャトルは制動をかけながら、誘導ビーコンに船体の軸線を同調させてゆっくりと、
小惑星をくりぬいて造られたドッキング・ベイに入港し、接岸した。
  小惑星の大きさは長径二千五百メートル、短径千メートルほどの卵を横にしたような形をしていた。
見た目はただの小惑星だが、中をくりぬいて宇宙艦の建造ドックとして利用されている。
表面は強固な岩盤のため防御面はもちろんのこと、カモフラージュの役目もしているため
宇宙軍ではよく使われている方法である。そしてこの小惑星型建造ドック、通称<D-3>でも
極秘裏に宇宙艦が建造されていた。

D-3

  二人は足早にシャトルを降り、ドックのコントロール・ルームへと向かった。
男の名はリョウ・タカギ、三十八歳で階級は大佐。この<D-3>で極秘に建造されている新造戦艦の艦長に
任命されやってきた。女性はリーズ・ハミルトン、二十八歳で階級は大尉。
副長としてリョウと同じく新造戦艦に乗り込むためにやってきたのである。
  コントロール・ルームへと続く連絡通路はドックの外壁に沿って作られているため、
通路に設けられた窓からドック内が一望できた。
「うん?もう完成しているみたいじゃないか」
リョウは足をとめ、窓からドック内を覗き見た。そこには一隻の戦艦があった。
作業員があわただしく作業しているのが見える。クレーン等の大型作業機械が動いている気配はなく、
リョウの言うとおり外見からは完成しているように見える。
「組立作業は終わっているはずよ、今は最終チェックの最中だと思うけど。 予定表に目を通 してないの?」
リョウは頭をかきながら話題を変えた。
「他の乗組員はどうなっている?」
「すでに乗り込んで各部署で最終チェックをしてるはずよ。 後はエンジンの始動テストと、
外洋での航行テストとワープ・テストを行うことになってるみたいね」
リーズは呆れた口調で受け答えしているが、その表情からはいつものことのように、特に困惑しているようには見えない。
「詳しいことはここの責任者に訊いたほうが早いわよ」
「そうだな・・・」
リョウはばつが悪そうに頭をかきながら歩き出した。が、気にしているそぶりはまったくなさそうである。
そんな後ろ姿を見て笑みを見せながらリーズはリョウの後ろにつき、二人は再び歩き始めた。
  通路の突き当たりにコントロール・ルームはあった。 入り口に立っている警備の兵士に敬礼され、二人は中に入った。
中はそれほど広くはなかったが、壁の一面は窓になっていてドック内が見渡せるようになっていた。
他の壁面一杯には多数のモニタが埋め込まれ各部所の様子が分かるようになっていた。
オペレーターが数人モニタを監視していた。その内の一人が部屋入ってきた二人に気がつき近づいてきた。
  メガネをかけ白衣を着た、見るからに科学者風の細身の男だった。
「艦長が一番遅い到着じゃ、まずいんじゃないかリョウ?」
「まぁ、そういうなよデニス」
「二人は知り合いだったの?」
「まぁな。士官学校時代の同期で、俺はパイロット、でデニスはエンジニア志望だったな。
名前を聞くまでは気がつかなかったが、ここの所長だったとは知らなかったな」
「好きでなった訳じゃないがね。たまたまお前さんが艦長をする艦のエンジンが特殊なやつで、
俺が中心に研究、開発していた関係で責任者に選ばれた。て訳だ」
「エンジンってメインエンジンに使われている対消滅推進機関のこと?」
二人の会話を聞いていたリーズが訊いた。
「ああ。ただ俺は最初反対したんだけどな・・・」
デニスはなぜか表情を曇らせて答えた。そして重い口調で続けた。
「こいつはまだ開発途中で、実用段階にはまだなってないんだ・・・・だが今回の作戦には
このエンジン以外選択肢が無かったのも事実だしな」
「まぁ、出来る限りのことはするが。あとはお前さんの腕しだいだ」
重い口調で話していたデニスが突然明るい口調に変わり、リョウの肩をポンと叩いた。
「おいおい、そんなやばいエンジンが積んであるのか?」
「作戦立案書に書いてあったはずですけど艦長?」
リーズが呆れ顔で横槍を入れた。
「いや、読んだことは読んだんだけどな・・・」
「ハハハ・・・相変わらずだなお前は。苦労しているようだね副長?」
「ええ、それはもう・・・もう少ししっかりして欲しいんですけどねぇ」
「分かった、分かった・・・リーズ勘弁してくれ」
「ハイ、ハイ」
三人は同時に笑った。コントロール・ルームが軽い笑いに包まれた。
「だけどそう心配することはないぜ。充分テストはしてあるし、現段階ではそれなりに安定している。
ただ本来の性能を百パーセント引き出すまでにはなってないだけだからな。
それに従来のプラズマ・エンジンではこの<ヤマト>の性能を発揮することは不可能だしな」
「それにしても今回の作戦はかなり厳しいことになりそうだが、よく乗組員が集まったな。
ま、命令とあれば仕方ないかもしれんが」
「それに関しては、それほど心配してませんでした。旧乗組員全員が志願してくれましたから」
リーズが答えた。
「ほう・・・それは凄いな。リョウの人望か?」
「それはどうかしらね、リョウ?」
「まぁ、乗組員には感謝してるがね」
照れくさそうに答えるリョウだが、まんざらではなさそうなところから、乗組員からは慕われているようだ。
「今回の任務が決まって、それまで辺境星域で作戦行動していた時の乗組員が、
全員そのまま異動しただけで済んだので、配属とか手配は助かりましたね。」
とリーズが付け加えていった。
「辺境でのゲリラ戦で、かなりの戦果を上げていたみたいだからなリョウの艦は、
それを見越して上層部も決めたのかもな」
「いや、俺は軍の中でも問題視されているから、厄介払いができて喜んでいるんじゃないか」
「ハハハ・・・そうかもな」
和やかに会話をしていた時だった。突然呼び出し音が鳴った。

襲撃

  それはリーズが腰に着けている携帯端末からだった。
「ごめんなさい、アタシだわ・・・」
ハッとしたリーズが腰に着けていた携帯端末を取り外し、通信してきたのが
<ヤマト>のメイン・ブリッジからなのを確認してからスイッチを入れた。
リーズはそのまま端末を耳にあて通話を始めた。
「リーズです・・・」
「あら、マーシャ。え、艦長?・・・ええ、いるわ」
そう返事をするとリョウの方をチラッと見て、通話を続けた。
「何かあったの?・・・ええ、・・・そう、分かったわ。それで現状は?・・・」
デニスと喋っていたリョウは、リーズの話し方からただならぬ様子を感じたのか、通 話内容に耳をかたむけた。
「分かったわ、艦長とすぐ戻るわ。それまでに乗組員を全員乗艦させて、各部署の最終チェックを急がせて。
特に機関長には補助エンジンだけでも始動させられるように伝えて。
そう、出撃準備を始めておいてちょうだい!ええ、そう・・・艦長命令で発動させてかまわないわ、お願いね」
「おいおい、出撃って・・・」
それまでリョウと一緒にリーズの通信を聞いていたデニスが詰め寄ろうとしたのを、
リョウが手で制止しリーズの前に歩み寄った。
「どうした副長?」
「今マーシャからなんですが、近くの基地のレーダーサイトが重力波の異常キャッチしたとの連絡があったそうです。」
「重力波の異常?・・・奴らか?」
リョウの目つきが今までとはうって変わって鋭くなった。
「おそらく間違いないと思います。<ヤマト>の亜空間ソナーとディメンジョン・センサーには
まだ反応はないようですが・・・」
「どれくらいでここへ来る?」
「遅くても一時間以内には」
少しばかり考え込んだ後いった。
「分かった。副長はすぐにブリッジに行ってくれ!俺もすぐに後から行く。出撃準備を急がせておいてくれ!」
「了解!」
聞くより早くリーズはコントロール・ルームを駆け足で出て行った。
「おいおい、待てよリョウ。どういうことだ?・・・まだ<ヤマト>は出撃できる状態じゃないぞ!」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃなくなったようだぜ、デニス。間もなく奴らがここを襲撃に来る!」
今までのだらしなかったリョウからは感じられない毅然とした口調に変わっていた。
「奴らって、まさか・・・しかしどうしてここが分かったんだ?」
「さぁな・・・俺が知るか。で、<ヤマト>はどうなっている?」
「あ、ああ燃料の注入をしている最中だが・・・」
デニスは一人のオペレーターに訊いた。
「作業の進行はどんな状況だ?」
「注入作業は一時間ほどで完了します。それ以外の搬入作業もまもなく終わります」
「よろしい。とにかく作業を急がせるよう伝えろ」
「了解」
  突然、警報が響き渡った。壁面のモニタに非常事態を知らせるALERTの文字が表示されている。
あちらこちらで赤い表示灯が激しく点滅している。デニスがモニタに駆け寄り、
キーを操作して警報の確認をしている。 コントロール・ルームと言ってもここはドック内の作業を
監視するセクションのため、非常事態に備える司令室はここではなかった。
「何だ!どうした?」
デニスは司令室に取り次いで、モニタに出た部下に状況を確認した。
「あ、所長!突然<D-3>の周辺を取り囲むように未確認の宇宙船が次々と出現してきています」
「ワープ・アウトしてきてるのか?」
「いいえ!ワープトレーサーには何も反応はありませんでした。いきなりレーダーに現れました!」
「無理だ。奴らの空間転移は俺たちのワープとは違う。ワープとレーサーでは捉えられない」
リョウが驚いた様子も見せず答えた。
「よく知ってるな」
「俺は何度となく奴らとやり合ってるからな。少しばかり対策を以前から考えていたからね。」
「くそ!やはり奴らなのか」
振動が伝わってきた。爆発による振動だ。敵が攻撃を開始してきた。
「攻撃してきやがった。防衛システムを作動させて迎撃!それから近くの基地に救援を打電しろ!」
「駄目です!強力なジャミングによる通信妨害がされていて出来ません!」
「何てこった!」
デニスは計器版を叩いて吐き捨てるようにいった。
「俺は艦に戻る。<ヤマト>でドックの外に出て迎撃するしかない」
デニスたちのやり取りを見ていてリョウがいった。
「だが、テストもまだ終わってないんだぞ。リョウ」
「なぁに補助エンジンが動けば武器は使える。奴らを片付けた後でゆっくりとやるさ。それよりもこっちは大丈夫か?」
ドアの前で走りを止め、振り向きざまにリョウは笑って答えた。
「頑丈が取り柄だから、しばらくは持ちこたえる事はできるだろう」
「分かった、じゃあな」
リョウはすぐにコントロール・ルームを出て行った。その後ろ姿を見届けてデニスは命令を続けた。
「第一級非常事態発令!作業員を急いでシェルターに非難させろ!」

YAMATO

 リーズは連絡通路を走っていた。<ヤマト>のエアロックに繋がっているドッキングパイプの手前まで来た。
突然警報が鳴った。
「!」
足を止めたリーズはドック内を思わず見渡すように見上げた。非常事態を促すアナウンスがスピーカーから聞こえてきた。
間もなくして爆発による振動がドッキングパイプをかすかに揺らした。
爆発の衝撃で天井から埃に混じって壁の塗装やらが剥がれてパラパラと落ちてきた。
「・・・攻撃が始まったようね」
そう呟くと再びリーズは、エアロックに向かって走り出した。
  入り口に立っているクルーがリーズに気づき敬礼した。
「急いでください!副長」
「乗艦状況は?」
足を止めたリーズが訊いた。
「は!後は艦長だけです」
「そう。・・・艦長が乗艦したらすぐに全エアロックを閉鎖、気密チェックをして報告をいれてちょうだい」
「了解!」
そう言うとリーズは足早に乗り込み、ブリッジへ続くエレベーターのあるセンターホールに急いだ。
艦内は乗組員があわただしく行き来している。
  <ヤマト>は全長四百メートル、全幅百メートルの宇宙艦である。
銀河連合宇宙軍が保有している戦艦クラスの中ではむしろ中型になる。
しかし今回の特殊任務のために新造された<ヤマト>はその仕様が著しく異なっている。
突撃砲艦として建造され火力、出力は軍の宇宙艦の中でも最大規模を誇る。
それを可能にしたのがメインエンジンとして搭載されている対消滅推進機関である。
これは宇宙艦用エンジンとして次世代のエンジンとして、研究・開発されているエンジンである。
補助機関として搭載してあるエンジンは、現在主流になっているプラズマ・エンジンで、
通常はこれが主機関として艦に積まれている。<ヤマト>はこれが補助エンジンとして四基積まれているため、
搭載火器を使用するには十分過ぎる出力が出せるのである。ただし同クラスの戦艦に比べて質量 が大きいため、
補助エンジンの出力だけではワープ機関を作動させられない。
そのため対消滅推進機関のメインエンジンを始動させることが出来なければ、本来の性能を発揮できないのである。
  艦内はいくつものブロックの層に分かれている。艦内通路はお世辞にも広いとは言えない。
これは軍艦である。客船のように居住性は犠牲にされていても当然だった。
天井は手を伸ばせば届くほど低く、あちらこちらにパイプやらメンテナンス用のハッチ、
艦内通話用のインターホンなどの端末がむき出している。
通路には細かく隔壁用の扉が設けてあり、ブロックごとに閉鎖できるようになっている。
メイン・ブリッジの真下に中央エレベーターが二つあり、どの階から乗り込んでもメイン・ブリッジに行ける
ようになっている。もちろん階段や梯子もブロックごとにあるから、エレベーターが使用できないときなどは
歩いて行き来は出来るようになっている。
  リーズは並んでいるエレベーターの一つに乗り込んだ。ドアが閉まると、
「ブリッジ」と口にした。その声に反応しエレベーターが動き出した。
ワイヤーではなくリニアモーターで駆動しているため、ショックは無く軽いGだけを感じてブリッジに瞬く間に着いた。
ドアが開ききるのももどかしくリーズはエレベーターを降り、自分のシートへと向かった。
メイン・ブリッジはかなり広く、最前部には電気的に透明度を変更調節できる特殊硬質ガラスの窓になっていて、
艦の外を見ることが出来る。天井には大型スクリーンがあり、さまざまなデータや映像を表示できるようになっている。
さらに両側は通常、舷側の視界を映し出すモニタになっているが、
ここにも各種の情報を表示することが可能である。
 メイン・ブリッジのクルーは艦長を含め全員で10名。艦長を除くクルーが持ち場についているのを
リーズはシートに向かいながら確認した。 シートにつくなりコンソールにあるメインパワーのスイッチを押し、
全ての計器をスタンバイ状態にした。幾つもあるモニタに艦のステータス状況が表示された。
リーズは副長の他に<ヤマト>の全火器管制を統括・管理している砲術長でもある。
そのためモニタには火器関係の状況を中心に映し出されている。その姿に一人のクルーが気づいた。
「副長!」
「ルイ。状況は?」
女性はルイ・モーガン、航法士でレーダーを担当している二十六歳の女性。
さらにコンピューターなどの電子機器に詳しく、情報解析には欠かせないクルーでもある。
赤毛でショートカットのボーイッシュな性格で、ときおり男勝りの行動を見せたりする。
「出現している起動兵器の数は六十。<D-3>を取り囲むように展開してます。
さらにディメンジョン・アウトしてきて数を増やしてます」
「・・・小型だけ?戦艦クラスは?」
「いえ、反応ありません」
「・・・」
おかしい。小型の起動兵器だけでこの<D-3>を破壊できるとは思えない。リーズの直感だった。
「副長!機関長からです」
考え込んでいるリーズに別のクルーが、連絡を伝えてきた。 通信士のマーシャ・ナカモト、
二十四歳のオペレーターで、先ほどリーズに端末で連絡してきたのも彼女だ。
ブロンドのロングヘアーで普段は無口でおとなしい女性だ。
  リーズはその声にそれ以上考えるのを止め、シートに備え付けてある艦内通話用のインターホンを取り、
点滅して保留されている通話先のスイッチを押した。
「はい、リーズです。機関長?」
ブリッジの天井にある巨大なメインスクリーンに小さな別画面が表示され、
一人の男が映し出された。機関士でビル・マール、五十四歳で、機関長を務めている。
クルーの中では最年長である。腕は確かだが、職人気質で少々頑固な一面もある。
「・・・艦長はまだか?」
「ええ」
リーズは笑って答えた。
「しょうがない艦長だな、・・・まぁいいか。メインエンジンはまだだが、
補助エンジンは間もなく最終チェックが終わる。チェックが終わりしだい、上に上がる」
「了解です」
映像が切れ通話は終わった。そしてすぐさま別のクルーを呼んだ。
「ハリス。ドック内の作業員の退避状況と燃料の注入作業はどうなってるの?」
「退避の方は後十分ほどで、燃料の注入は間もなく完了するようです」
整備士のハリス・シード、三十五歳で整備班の班長を努めている男で科学者としても手腕を振るっている。
「了解。艦長の乗艦と作業員の退避を確認しだい、ドック内の空気を抜いて。各デッキ閉鎖。
各部保安チェック。発進シークエンス・フェイズ2へ入ります」
「了解」
答えたハリスは計器版に向き直り発進準備の作業に戻った。
  エレベーターが開き、機関室から戻ってきた機関長がシートに着いた。
それを見て確認したリーズが指示をだした。
「機関長、機関スタンバイ」
「了解、・・・加速器始動。出力十パーセント。リアクター、プレヒート。圧力プレッシャー回転開始・・・」
ビルは機関室と連絡をとりながら、コンソールのスイッチやレバーを次々と操作して補助エンジンの始動準備を始めた。
「ギャリー、キース。火器管制システムのチェックはどう?終わってる?」
「左舷火器管制システムはチェック完了!いつでもどうぞ副長」
答えたのはブリッジ最前列左端のシートに座っている、左舷火器管制担当のキース・ベリー、二十五歳の砲術士だ。
射撃の腕はまぁまぁだが、楽天的な性格でブリッジのムードメーカーでもある。そして・・・
「右舷火器管制システムもOKです、副長。艦首プラズマ・キャノンを除き全て使用できます」
同じく右舷火器管制を担当している砲術士のギャリー・スコール、三十歳、キースの反対で右端のシートに座っている。
射撃の腕は宇宙軍の中でもトップクラスで、天才的なセンスを持っている。
リーズの信頼は厚く砲術士のチーフを務めている、キースとは正反対の冷静でクールな感じの男だ。
  そしてその二人のシートの間にさらに二つのシートがあり、主操縦士のハリー・ノートン三十二歳、
副操縦士でロブ・ビックス、二十五歳の二人のパイロットが座っている。
ハリーはリョウの後輩にあたり、パイロットとしての腕を見込まれた。
彼自身リョウをパイロットとしての目標としているぐらい慕っている。
ロブは大柄な体格には似合わず細かいことに気配りが出来る男で、ハリーとは息の合ったコンビである。
「フライトコントロール、チェック完了」
ロブがコンソールのチェックランプが、全てグリーンに点灯したのを確認していった。
「艦長がたった今、乗艦されました!」
マーシャの報告が入った。
「作業員の退避、燃料の注入作業完了!艦内の気密確認。ドック内のエアー抜き開始します!」
ハリスの報告が続いた。
「了解」
それを聞いたリーズはインターホンを取った。
「全クルーへ、本艦はこれより発進シークエンス・フェイズ3へ入ります。各セクション・スタンバイ!」
リーズは艦内放送で出撃準備の最終段階に入った事を伝えた。
「ドック内のエアー抜き完了。各デッキ閉鎖確認」
ハリスが報告を入れた。
「各セクション・スタンバイ確認。全艦、発進準備完了!」
ハリーが全ての準備が完了したことを告げた。
「了解。現状のまま待機」
それを聞いたリーズが答えた。あとは艦長を待つだけだ。

出撃準備

「すまん、遅くなった」
いつのまにかリーズの後ろの最後尾にある艦長席に、少し息を切らしたリョウが立っていた。
振り向いたリーズにリョウがいった。
「副長、作戦図!状況はどうなってる?」
間髪いれずにリーズはメインスクリーンに、<D-3>を中心に敵影の配置を図式化した映像を出した。
「<D-3>の応戦で現在の敵起動兵器の数はおよそ五十。・・・現在ディメンジョン・アウトは確認されてませんから、
これで全部と思われます」
現状をリーズが報告した。
「・・・戦艦は?いないのか」
リョウも疑問に感じているようだ。
「亜空間ソナー及びディメンジョン・センサーには反応ありません」
ルイが半球状の立体表示スクリーンの横にあるモニタの観測結果を、見ながら答えた。
「ふん、レンジ外に隠れているのか・・・」
リョウが独り言のように呟いた。
「機関長、エンジンのごきげんはどうです?」
「メインエンジンはチェックがまだ終わっておらんで無理じゃな。補助エンジンはいつでもいいぞ」
「了解。では補助エンジン接続、始動!船台ロックオープン。ガントリー・ロック解除」
リョウの命令で補助エンジンが始動された。今まで感じていた爆発による振動とは明らかに違う振動と低い唸りが、
艦全体を包み始め乗組員の緊張がさらに高まった。
 <ヤマト>の両側にあった作業用の船台がドック内の床に敷設されているレールに沿って後退移動し、
艦体を固定してあったジャッキのロックが解除された。 と、そのとき。
「敵、戦艦クラスがディメンジョン・アウトしてきます!」
レーダーを監視していたルイが驚きの声を上げた。
「えっ!」
「数は?」
リーズとリョウが同時に声を上げた。驚いたリーズに対してリョウは、あたかも予想していたように平然と訊いた。
「三隻です」
「こちらが動くのを待っていたのか・・・」
どうにも不利な状況だった。敵の行動に対してどうしても後手に回らざるを得なかった。
だがドックを出ないことには形勢を逆転するのは困難だった。
 そして事態はさらに思わぬ方向に進んでいた。
「敵戦艦に高密度のエネルギー反応!」
さらにルイが叫んだ。敵戦艦が主砲を発射したのだ。立て続けに何条もの光線が浴びせ掛けされた。
いかに頑丈さが売りの小惑星を改造したドックといえども、いつまで敵の攻撃に耐えられるのか疑問だった。
事実、頑丈な岩盤が少しずつ剥ぎ取られていった。
 何度目かの攻撃を受けた直後、今までに無い激しい衝撃が襲った。普通の爆発ではなかった。
突然ドック内が真っ暗になった。照明が落ちたようだ。普通ならすぐに非常用の照明が点くはずだった。
しかし・・・いつまでたっても照明が点く気配は無かった。
「艦長!ドックの司令室より連絡です」
マーシャがドックの司令室からの連絡を取り次ぎ、メインスクリーンにデニスの顔が映し出された。
「リョウ!すまん・・・今の攻撃で動力炉がやられて吹っ飛んだ。おかげでゲートが開けられなくなった!」
「なっ!」
リーズが絶句した。他のクルーも同様にデニスの映っているスクリーンを無言で見つめていた。
これでは閉じ込められたのも同然だ。ブリッジが重苦しい空気に包まれた。
  通常なら発進準備が整う前にゲートの扉は開けておくのが手順なのだが、敵が侵入してくる可能性がある以上、
開けるわけにはいかなかった。それが裏目に出た。
「まいったなぁ・・・修理できないのかデニス?」
「完全に破壊されて修理するどころじゃないんだ。防衛システムもいくつかダウンしている。・・・すまん、
自力でなんとかしてくれ」
画像がかなり不安定だ。電力の供給が安定していないようすが、はっきりとわかる。音声にもノイズが入っている、
通話は手短に済ませたほうがよさそうと、リョウは判断した。
「・・・わかった」
それで通信は終わった。後ろを振り返ったリーズは艦長を見て唖然とした。
そこには頭をかいて髪をさらにぼさぼさにした、緊張感の無いリョウの姿があった。
険しい表情のデニスに対して、明らかにリョウは他人事のようだった。二人の会話を聞いていてリーズは思った。
 この人はまったく・・・どういう神経してるのかしら、本当に・・・ ため息をついた。
でも不思議となぜか安心感があった。それはほかならぬリョウを信頼しているためだったからなのだろう。
だがその間も敵の攻撃は途切れなく続いていた。ブリッジの揺れも少しずつひどくなってきてるようだった。
ドックの天井から落ちてくる鉄骨などが艦体に当たる音が聞こえる。

最後の手段

  リョウは何か考え込んでいる様子だったが、自分をじっと見ているリーズに気がつき口を開いた。
「うん?どうした」
「え、・・・いえ。何でも・・・」
しどろもどろでリーズは答えた。
「・・・主砲を使いますか?艦長」
そんなことをしても無駄なことだとは自分でも分かっていたが、思わず口にしてしまった。
貫通力のある主砲ならゲートの扉を撃ち抜くことなど造作も無い。
だが<ヤマト>が通り抜けられるほどの穴が開くはずも無かった。熱による破砕力のある反応弾なら可能だ、
しかしこの距離で発射することは密閉されているドック内ということもあり、自殺行為に等しい。
ふとリーズは最後の手段で、一つだけ方法があったことに気がついた。
しかしそれは現時点では不可能な選択肢だった。だがリーズの問いに答えたリョウの返事はまさにそれだった。
短い沈黙の後、リョウがいった。
「副長」
「は、はい・・・」
「プラズマ・キャノン、スタンバイだ」
他のクルーも一斉に艦長を見た。
「え!で、でも・・・メインエンジンがまだ・・・」
「副長、・・・急いで準備してくれ」
リーズが聞き返す間もなくリョウがさえぎるようにいった。しかしその口調には優しい物腰が感じられ、
口元にはかすかな笑みが彼女には見えた。
「了解」
リーズにはそれで充分理解できた。誰もがあきらめかけていた状況に、この人は可能性を見出そうとしていたのだ。
でもどうやって・・・
「機関長!補助エンジンのリアクターからプラズマ・キャノンのジェネレーターへバイパスして、
直接チャージすることはできますか?」
艦長という立場のリョウではあるが、年齢的なこともあり機関長のビルにはつい敬語で話してしまう。
「・・・可能じゃよ。じゃが補助エンジンの出力でのチャージは、時間がかかるかもしれんぞ。いいか?」
「かまいません、お願いします」
「分かった。少し時間をくれんか」
その命令を予想していたのか、すぐ機関室へと連絡を取り作業に取り掛かった。
その間リーズは自分のシートでプラズマ・キャノンの発射準備をしていた。けわしい表情でキーを操作している。
それも当然であった。
 
プラズマ・キャノンは<ヤマト>の艦首に装備されている兵器で、従来のプラズマ・エンジンを遥かに
上回る出力の対消滅機関だからこそ、考案された兵器である。だからメインエンジンを始動させることが
出来なければ使えなかった。兵装の中でも最大火力を持っているプラズマ・キャノンは、
手順を間違えば艦の内部で大爆発を起こしかねないほど、危険度もまた大きい<ヤマト>の切り札である。
これほど大規模の火器を操作するのは、リーズにも初めてであった。操作マニュアルは頭に叩き込んでいたつもりだった。
手順を確認しながらキーを操作していった。
 敵の攻撃は激しさを増していた。ドック内の天井の一部や、壁が崩れ落ちてきた。
さらに大きな衝撃とともにクレーンの一部が甲板に落ちてきた。ドックの内部はほとんど瓦礫の山と化していた。
だが幸いのことにドックの空気は抜いてあったため、火災は発生していなかった。
「よし・・・副長、いつでもチャージできるぞ」
機関長のビルがリーズに告げた。
「了解です。・・・バイパス確認。プラズマ・キャノン、チャージ開始します」
その連絡を受けたリーズがキーを押した。エネルギーの充填状態を示すゲージが表示され、
ランプが一つ二つとゆっくりと点灯し始めた。
「発射まで後、十五分」
充填が開始されたが、メインエンジンからの供給ではないためかなり遅い。
「誘導砲身へ動力伝達。電磁ライフリング加電。・・・電圧最大、回転開始」
キーをすばやく、しかし確実に押していくリーズ。
 作動音とともに艦首のプラズマ・キャノンの砲口にある防御シャッターが開き始め、
そして砲口内部が赤く輝き始め、その輝きはゆっくりと回転を始めた。
「チャンバー内、圧力上昇。発射まで後、十分。各セクション、対閃光防御」
ブリッジ前部の窓が透明度を落とし暗くなった。ドック内はすでに照明が落ちていて真っ暗なため、
見た目にはほとんど変わらないが。
「プラズマ・キャノンでゲートをぶち破ると同時に、補助エンジン全開。ドックを出たら直ちに砲雷激戦用意。
艦首ミサイルは多弾頭弾を装填、弾幕を張る。ランチャーは反応弾を装填、待機。
主砲は敵戦艦だけを狙え、ザコには目もくれるな。メインエンジンが使えない以上、回避運動がとれない。
無駄なく狙えよ」
「了解」
ギャリーとキースが同時に答えた。
 リーズはプラズマ・キャノンの発射準備に追われているため、リョウの指示にはギャリーとキースが
復唱しながら攻撃準備を始めた。
「プラズマ・キャノン発射準備完了!」
そう叫ぶとリーズは艦長を振り返った。
「発射!」
リョウは無言でうなずくと命令した。
「発射!」
リーズは復唱し、コンソールのトリガーを押した。 眩い光が艦首の砲口からほとばしった。
ドック内は一瞬目もくらむほどの光に包まれた。そしてその輝きは放電しながら一筋の光となりゲートにぶち当たった。
一瞬扉に遮られたと思われたが、光線は何重もの鋼鉄の扉を紙のようにぶち抜いていった。
あいた穴は熱でさらに溶けて広がり、<ヤマト>が通るには充分な空間が出来た。
 ゲートを抜けた光線は<D-3>の外に待ち構えていた敵の戦艦を一隻、衰えることのない勢いで船体を貫き撃沈した。

発進

「<ヤマト>発進!」
四基ある補助エンジンが全開で噴射された。通常ドック内で推力を百パーセント にすることなどあり得ない。
そんなことをしたらドック内はめちゃくちゃになってしまう。だがすでに敵の攻撃で、
ドックは使用不可能のほど破壊されている。セオリー通り発進する必要はなかった。
 そして<ヤマト>はゆっくりではあるが動き始め、ドックから出口に続く通路に入っていった。
艦首の発射管が開き、ミサイルが次々と撃ち出された。無数の弾頭に分かれたミサイルは、
開いたゲートに侵入してきた敵の起動兵器を次々と撃破していった。激しい応戦にドック内への侵入をあきらめたのか、
入り口の周りを固める体勢をとった。それでもゲート入り口から撃ち出せるミサイルに数を減らしていった。
減ったといっても起動兵器の数はまだ三十機近くは残っている。始めは意表をつき数十機を撃破できたが、
しだいにミサイルの追尾を巧みにかわされていった。
 状況を確認したリョウはインターホンを取り、格納庫に連絡をとった。
「マークか?レッドタイガー隊スクランブルしてくれ」
「やっと出番か。待ちくたびれたぜ」
「待たせてすまんな、ドックを出ると同時に発艦、ザコを片付けてくれ」
「了解した」
通話に出たのはマーク・ストライカー、三十八歳。<ヤマト>搭載の多目的迎撃戦闘機レッドタイガー隊の編隊長を
している。リョウの仕官学校時代の同期で、常にトップを争うライバル同士だった。
 格納庫では待機していたパイロットたちがレッドタイガーに搭乗、発進準備を終えた機体からフライトデッキに
エレベーターで運ばれていった。フライトデッキはブリッジの後方にある艦載機の離発艦用のカタパルトで、
格納庫から上がってきた機体を二機同時に発艦できる仕組みになっている。
 <ヤマト>がいよいよゲートの出口にさしかかろうとしていた。残った二隻の敵戦艦は、
ゲートから出てくるところを狙い撃ちしようと待ち構えていた。先ほどのプラズマ・キャノンの破壊力を恐れてか、
プラズマ・キャノンの射線上には入らないようにしていた。
「副長、プラズマ・キャノンはまだ撃てるか?」
「無理です!・・・推力が不足してしまいます」
メインエンジンが使えない以上無理だった。ただでさえ、補助機関の動力を兵装にまわしている状態のため、
まともに加速出来ないのだから。
「分かった。・・・ランチャー、スタンバイ。反応弾発射!」
リョウが間をおかず叫んだ。
「発射!」
指示を受けて、リーズがトリガーを絞った。上部甲板の艦橋基部にあるロケットランチャーから、
反応弾を装填した二十基のミサイルが一斉に発射された。ゲートの出口から勢いよく飛び出したミサイルは、
敵戦艦を追尾するように大きく弧を描きながら突き進んで行った。不意をつかれた敵戦艦は、
回避行動を取り始めたが遅かった。全てのミサイルが二隻に命中、巨大な火球が次々と戦艦を包み込んでいった。
だが敵戦艦の装甲はその熱エネルギーに耐え、表面を少し溶かしただけで破壊できなった。
 そんなことは初めから計算に入っていた。もちろん撃破できればそれでよし。ではなぜ・・・。
敵戦艦がミサイルに対して回避行動を取り、主砲を発射するタイミングを遅らせる。
そこに出来た一瞬の隙をリョウは狙ったのである。敵戦艦が新たに発射体制に入ろうと立て直した時には、
<ヤマト>の主砲はゲートから現れてすでに照準を合わせていた。
<ヤマト>はその姿をゲートからまだ半分ほどしか現してはいなかった。だがそれでも主砲を撃つには充分だった。
三連装電子砲が一斉に火を噴いた。<ヤマト>を挟撃しようとしていた二隻の敵戦艦を、幾筋もの光の矢が貫いた。
敵戦艦は一瞬にして爆発四散した。
 ゲートから姿を現した<ヤマト>のフライトデッキから、次々とレッドタイガー隊が発艦して行った。
戦艦を撃破され指揮系統が乱れたのか、敵起動兵器はレッドタイガー隊の敵ではなかった。
瞬く間に撃墜されていった。そして戦闘はあっけないほど、あっという間に終わった。


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