「オンリーワン」 劇団スイセイ ミュージカル
演出/西田直木、吉田潔 台本/高橋由美子 音楽/八幡 茂
振付/中川久美、荒巻 正、吉田 潔

ミュージカルに限らず舞台の作品は如何に本が大切か、
この作者は充分に知り尽くしてこの作品に臨んでいる。
しかも日本のミュージカルである。
これだけ外国のミュージカルを公演しながらミュージカルの作り方を
未だに演劇関係者が理解していないのは何故か?
私もかつて神社庁の永職会というところに頼まれ
ミュージカルで「スサノオ」というのを制作したが、スタッフに出した条件は
オーバーチュアがブロードウェイのように華やかに。
歌の中に台詞があるように。
ダンスはめりはりつけて。
そしてメロディは客が帰りに口ずさめること、と。
どうしてブロードウェイでもロンドンでもプレビュー公演があるか?
それは作品の手直しができるからであるし、悪くすれば辞められるからだ。
今回の公演は劇団スイセイは客演なしの劇団員だけの公演、
それだけに互いに補いながら舞台が出来上がるということは少々期待薄であった。
しかし、本が救ってくれた。
初舞台を目の前に死んでしまった幽霊が、ミュージカルのコンテストに
急に参加することになった新婚夫婦の高校の先生の奥さんの
体の中に入り込んで夢を達成する。
そこに愛と夢が、そして希望がテーマで物語を進めていく。
物語の進行がリズミカルでいい、本がそう書いているからだ。
本がしっかりしていなかったら演技者の粗が目立ってきてしまう。
作者はこの辺はこの劇団を知っていて書いているか心得ている。

本番に向け、物語は進行。その過程で希望、愛、友情というものが描かれる。
この辺りは作者が元劇団四季で、劇作術を身に付けているだけに、
「夢から醒めた夢」とか、「コーラスライン」とかのフィーリングを
巧みに取り込んでいるのが面白い。
歌の中で歌謡曲風な感じで歌うところがあるが、うまい作り方だと感心した。
日本のミュージカルなのだから、これは目新しい。
「ファントム・オブ・ジ・オペラ」だって歌の中味は歌謡曲だ。
この辺の手法が今後の日本のミュージカルのテーマかもしれない。

幽霊の真夏を演じる佐藤志穂と、新婚の新婦の冬子を演じる藤森裕美が
頑張っているが、少々力不足。
二人とも劇団の中心人物だ。
もし、ここに力量のある演者がいたら、かなり舞台も変わったであろう。
つまり愛とか、希望と夢とかが演じきれていないからである。
各人個性があるようでいて似たもの同士だけに、
人物の性格が浮き彫りにならないのが残念。
しかし、本がしっかり書けているだけに真夏の思う心も、冬子の心も
見ていて理解でき、最後で感動を客に与えるところが見事。
演出、出演者がきちんとしていたら、更に盛り上がった舞台になったであろう。
見ていて、某ミュージカルを公演している劇団の役者は
何かクローン俳優が舞台で演じているみたいで、
この劇団スイセイは雑ながら人間が芝居をしているという妙な感じを受けた。
つまり未完ながら舞台には統一されない個人個人がそこにある。
ごく自然な当たり前のことなのだが、俳優が統一された劇団の舞台を見ることで
見る側もマインドコントロールされ、人間を個性を忘れて、
それに気付かなくなってしまっているのかもしれない。恐ろしい。

振付・中川久美、吉田潔、荒巻正のダンスがワンパターン気味で、
まとまりがなく平面的。
真夏と冬子とのダンスももっと夢と愛を見せきるめりはりが利いたものが欲しかった。
音楽はもう一つ心に残るメロディがあればよかたのでは?
ああ、ミュージカルを見たという満足感を客に与えれるためにも。
主役でなくても舞台を支える脇の役者の大切さを改めて感じた。
作者の高橋由美子さんは力を入れて書いた作品だといっているが、
もっと広々した気持ちで演出したこの作品が見たいものだ。
  
  2002年11月30日  大阪近鉄劇場  ちゅー太
 
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