鵜野和夫

 

 

 

 

 

不動産の評価、権利調整と税務

  平成18年11月 改訂

 

本書は日本不動産学会から平成8年度・実務著作章を受賞しました。

 

概要  [土地・建物の売買・賃貸からビル建設までのコンサルティング]

    ■最新時点にたち、だれもが知りたい地価の評価方法、税金の仕組み、

    土地の有効利用の仕方等の知識を網羅し、コンパクトな形で解説。

 

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主要目次:

1編 一般の土地売買のときの評価と税務のコンサルティング
1章 妥当な土地価格をコンサルティングするために、どのように土地を評価し、当事者に納得させるか
1節 土地評価に公示価格を利用できるか。そして公示価格とは
2節 公示価格等を利用して、土地評価をする簡便法を会得する
3節 相続税路線価および評価通達付表を利用して、土地評価をする簡便法を会得する

2章 土地・建物を買う人や贈与・相続を受ける人への税金のコンサルティング
1節 土地・建物の取得に関する贈与税・相続税対策のさまざま
2節 土地取得に関する印紙税・登録免許税・不動産取得税・固定資産税・都市計画税・消費税
3節 住宅を新築したり、住宅を購入した場合には、「住宅ローン控除」の適用で、税額が安くなる
4節 非居住者や外国法人からの土地・建物の購入には源泉徴収

3章 土地・建物を売る人への税金のコンサルティング-個人が売った場合
1節 所得税の構造を明らかにし、そのなかで、土地・建物の譲渡は、どのように取り扱われているかを把握する
2節 土地・建物の譲渡所得と税金の計算の仕方
3節 特別の場合で土地・建物の譲渡に関する所得税が軽減される場合
4節 土地・建物の譲渡が事業所得・雑所得になる場合

4章 土地を売る会社への税金のコンサルティング―法人の場合

2編 借地に関する種々の権利とその評価と税務
5章 借地権とはどういうものか。借地に関して、どういう権利関係があり、それらの価格はどうなっているか
1節 借地権とこれをめぐる権利調整
2節 借地権以外の土地使用権
6章 借地に関連して、どのような税金が課せられているか。そして、その節税方法は
1節 借地等をめぐる税務は
2節 親族・同族会社等の特殊関係者間の借地の税務

3編 建物を建築して土地を利用するときのコンサルティング-そのときの貸家と借家権の法律と税務-

7章 貸アパート、貸マンション、貸ビルのコンサルティング
1節 貸アパート、貸ビル等の事業計画と税務
2節 貸家と借家権の法律と評価
3節 マンション・ビル等を建設して賃貸したときの相続税

8章 共同ビルの基本形態、運営、権利調整、評価、税務のコンサルティング

9章 等価交換方式による賃貸マンション、ビルの権利調整、評価と税務のコンサルティング

 

平成17年版の序

                 (一)

 地価は回復し広がって行くのか。それとも,二極化現象の山と谷の差が拡大

して行くのか。

 平成173月に発表された公示価格(価格時点11)では,大都心を含

めての地域ごとの平均では下げ幅を縮めつつあったが,全体としては低落傾向

にあった。しかし,東京都の千代田区,中央区,港区,渋谷区では,住宅地,

商業地では僅少な幅ながら上昇に転じていた。

 さらに,9月に発表された都道府県の基準地(価格時点71)では,

の地価上昇が点から面へと広がり,東京都の近郊地域,関西,中部の大都市圏

等に波及しつつある。

 しかし,地方圏の地価に目をやると,依然としての下落を続けている。

                 ()

 都心における地価上昇の要因として,建築規制の緩和により,都市再開発が

進んだこと,また,つくばエクスプレスが開通したことにともなう沿線の整備

開発など,社会資本の整備が進展したことなどがあげられている。

 さらに,不動産投資信託(:本文31ページ以降参照)の安定的な高利回り

が魅力となって普及拡大し,その信託不動産を調達するため優良な物件が買わ

,東京都心の一部ではミニバブルの到来もささやかれ,その崩壊による悪影

響も懸念されている。

 また,住宅の都心マンションヘの回帰現象も,都心の地価上昇の要因である

,それが裏腹に地方の住宅地の地価低落の間接的な要因ともなっている。

かつての高度成長期とは異なり,土地に対する有効需要が限定されているこ

とを前提とし,世界経済における日本経済の景気の動向,そして,それの都市

ζ地方への影響の差などを観測しつつ,今後の動きを判断していかなければな

らない。

                 ()

 平成17年度の税制については,中古住宅についての登録免許税,不動産取得

税の特例や住宅ローン控除の対象などについての適用要件が緩和されるなど税

負担が軽減される面もあったが,不動産登記法の改正にからんで中間省略登記

による節税が封じ込められて不動産業界に衝撃を与えている。さらに,住宅ロー

ンの控除率の引下げ,消費税の免税点や簡易課税の対象の引下げ,青色申告特

別控除の簡易な簿記による45万円控除の廃止等々,前年前の改正で実施に移さ

れた事項も多く,また,親などからの住宅資金贈与の特例など今年末で廃止され

るものもあり,細かいところまで目を配る必要がある。

 また,定期借地権の設定時の一時金のうち,一括前払賃料に相当するものに

ついての税務の取扱いが明らかにされ,これに関して定期借地権の新たな活用

法も話題になっている。

 

平成17年10月17日

                             鵜野 和夫

初版本 (昭和53年、1978.6.10) の「あとがき」

                  ()  

 筆者は,ここ10年くらい,建設会社で,PC工場の工務課長代理,一戸建プレハブ住宅部門の販売課長都市開発室の企画課長などの仕事をしてきた関係から,土地を売買する人・ビルを建設する人に対するコンサルティングをすることが多く,現在は,開発統括部という部門で,そういうコンサルティング専門の課長をしている。

 こういう形でコンサルティングをしていると,どういう質問が飛び出すか予想もできないもので,「私は税金の専門家ですから,評価のことはわかりません」などといってすましているわけにはいかない。たとえば,借地をして木造2階建店舗兼住宅を建てて暮らしている人から,中高層ビルに建て替えたいと相談があると,借地権とはどういうもので,どれくらいの権利があって,借地条件を変更しようとすればどういう手続きをすればよいかという「借地法」という法律の説明から始まって,その場合の借地条件変更の承諾料をいくら払えばよいかという「鑑定評価」の問題,この事業にからまってどういう税金が発生するかという「税務」の相談などがある。

 ところ.,従来の解説書は,借地法の本なら法律のことしか書いていないし,鑑定評価の本なら評価のことだけというのが多い。税務に至っては,所得税,贈与税,法人税,固定資産税とさらにバラバラになっており,所得税はかからないと思って安心していると贈与税をとられたり,全く思いもかけなかった法人税のほうで課税されたりで,一つの質問に対しても何冊かの本を調べてみないと答えられないというのが現状である。

 この法律と評価と税務との三つの問題をテーマごとにまとめた本があって,この本を持ち歩いていればどんな質問が飛び出してきても,そのページを開ければ簡単に回答が見つかり,明解に説明できれば,コンサルタントとし実に便利であろう。                                       

,そういう本はないかと探し廻ったが,本は書店に汗牛充棟もただならないほど積まれているのに,ついぞそのように便利な本は見当たらず,そういう虫のいいことを夢みているよりも自分で書いたほうが早いのではないかと思いついたところ,それは面白いと,清文社の編集部が取り上げ,世に出るようになったのがこの本である。

                  ()

 法律と評価と税金とを,テーマごとに一冊にまとめる場合,それぞれの専門家三人が書いてまとめるという形もあるが,それでは一つの箱にバラバラのものを押し込めただけであり,この本の特徴の一つは,その三つを有機的に結びつけようとしたことである。それから,そういう過程で気がついたことだが,この三つは微妙にからまり合った関係にあり,(一)で例示した借地条件変更承諾料という法律上の権利は,それが何円であるかという評価をして始めて具体性を帯びてくるものであり,また,その評価額は借地条件の変更を求めることのできる法律上の権利の強弱ともかかわり合ってくる。さらに,この承諾料にどういう税金がかかるかということは,この承諾料が法律上のどういう権利に基づいて授受されたのかということがわからなければ解明されないし,その承諾料の額が税務上も妥当であるかという問題は,評価とはなれては論じることはできない。そして,地主の手元に残るのは税引後の金額であり,権利の調整をしょうとするとき,税金をいくらとられるのかということを抜きにしては話が進まない。

 法律と評価と税務とは,このようにからまり合って存在するのであるが,これを三つのそれぞれの面を通して他の二つを観察すると,一つ一つバラバラに取り上げて観察したときと違った新鮮な姿をして現われてくるのに気づいた。本書では,そういう面から問題にアプローチするように努力したが,必ずしも満足のいくところまではいっていない。これは,今後つきつめてみたい問題と思っている。

                  ()

 それはともかく,この本は,建設会社やデベロッパーの企画営業,コンサルタント営業を担当している人,設計事務所,不動産業者などの実務に携わっている人を読者として想定して書き出したものである。そのためには,なるべく専門的ないいまわしを避け,'日常用語で平明に書こうと努力した。そして,書き上がってから読み返してみると,この本自身が一人のコンサルタントになっており,土地売買やビルを建設する当事者自身が読んでも,わかるようになっている。

 また,わかり易く解説しようとすると,かえって事物の本質に肉迫するものであり,そういう意味と,(二)で述べたように,法律・評価・税務というものがからまり合っているという意味で,それぞれの専門家,弁護士・不動産鑑定士・税理士の先生方が読んでも,専門分野と違った分野についての知識を得,それを媒介として自分の専門分野を見直せるという意味で,十分に役立つであろうと思っている。

                  ()

 本書を書き終えて,最後に振り返ってみると,まだまだ荒削りで,不十分な面も目につく。第2編の借地に関する問題,特に第3編の共同ビル,等価交換方式ビルについては,新しい問題でもあり,研究成果も未だあまり世に現われてもいないこともあり,筆者のドグマに近いところもあるかもしれない。

 こういう場合に,あの大数学者ガウスのように,せっかく発見した非ユークリッド幾何学を世に発表することなく,死ぬまで推敲を重ねるのも一つの生き方であろうし,多くの研究成果を待ってから完全な体系をつくりあげて,おもむろに発表し,哲学者ヘーゲルが『法哲学』の序説で述べたあの有名な科白をまねて,「学問の来ることはつねに余りにも遅すぎるのである。現実がその形成過程を完了してしまった時期に,学問ははじめて,世界の思想としてあらわれる」。

すなわち,「ミネルバ梟は夕暮れになってはじめて飛翔する」のであるとうそぶくのも一つの方法であろ

う。

しかし・実務の問題の解決は夕暮まで待ついてはくれない。そういう意味で,本書は,特に後半は,日の明るいうちにさ迷い出た梟のように,間の抜けたところがあるかもしれない。このヨタヨタ歩きの梟臭に諸賢の鋭い批判の矢が浴びせかけられることを待つ心は切なるものである。

 

昭和53年3月3日

                           鵜野 和夫

 

 

平成16年版の序
 
                 ()
  これを羊頭狗肉というのか。減税と見せかけ,実は増税。
  これが平成16年の不動産税制の改正の実像である。
  まず,土地建物の短期譲渡の税率は引き下げられている。しかし,この恩恵
にあずかれるのは,土地建物を売って譲渡益が出たときの話である。ここ5
以内に買った土地建物を売ったら損が出るのがふつうである。
 長期譲渡でも,ここ20年ぐらいに買った土地建物を売ったら損が出るだろう。
 これまで,土地建物を売って赤字が出れば,他の所得・・・給与所得や不動産
所得や事業所得の黒字と通算して,少しは損失の穴埋ができ,それでも赤字が
残るとき,青色申告をしていれば,その赤字を3年間にわたって繰り越して控
除することもできたが,今回の改正で,他の所得との損益通算や繰越控除は,
居住用の土地建物で特定の条件をそなえた,極く限られたものの譲渡損を除い
ては,いっさい認められないこととされた。
 また,かなり昔から所有していた土地建物を売って利益が出たとき,従来は
譲渡益から100万円を控除する制度があったが,これも廃止された。それから,
買換特例を適用して差金をもらったり,居住用財産の特別控除などを引いて差
額が出たとき、それが優良住宅地の造成等の優遇税率の特例の要件をもそなえ
ていたときは,所得軽減の特例と税率軽減の特例も併用して受けられることに
なっていたが,これの併用も認められなくなった。
 
                 ()
 これらの改正は不動産税制の構造的な変革であり,充分な期間をおいて広く
論議し検討をへてなされるのが,民主主義の原則と思われるが,この政府案が
示されたのは昨年12月の下旬であり,今年の11日以後の譲渡から適用する
という,まさに「寝耳に水」という仕打ちであった。
 これについて,せめて,一定の経過期間をおいて施行すべきだという民主党
の主張もあったが,多勢に無勢といったとこで,強引に押し切られてしまった。
 もっとも,本書は,租税政策を論ずる本ではないので,実務的にどう対応す
べきかということを解説しなければならない。その他にも注意しなければなら
ない改正も多々あり,それらを盛り込んで改訂をした。
 
           ()
一方,地価のほうは,大都市圏では下げ止まりの傾向,特に東京都の中心部の一部ではミニバブルの兆候が伝えられる反面,地方では依然として下落が続いている状況にある。
 都心の地価上昇が牽引車となって地方の地価を引き上げるという期待と,それとも逆に都心への資金の集中等によって地方の地価を押し下げ,地価の二極分化がさらに深まるのか。
 予断を許さないところである。
 また,地代や家賃は土地の価格と相互に関連しているが,地価の上昇・下落
と正比例して上下するものでなく,ある程度遅れて上下するという傾向をもつ
ているが,いま,継続地代,継続家賃の値下げの問題が出ている。
 これらの評価の基となる鑑定評価基準は,地価と賃料の上昇期に,その上昇
を前提として構成されており,その再検討も迫られている。
 そのような状態を意識しつつ,できるだけ現実に対応するよう改訂したつも
りであるが,過渡期的なものに終らざるを得なかった。今後の経済の動向,地価と賃料の実態調査と分析を通して,それなりのものに近づきたいと思っている
 

平成16年版刊行後の税制改正

このホームページの表題部の「最近の不動産税制の改正」をクリックして見てください。

  鵜野和夫のホームページ  http://www5b.biglobe.ne.jp/unokazuo/
 
平成16101
鵜野和夫
 

 

 

平成15年版の序

                (一)

  『もうはまだなり・まだはもうなり』というのは,相場についての古来から

の格言である。

 土地と手をとって下げ続けていた株式がこのところ,底をついて上昇に転

じており、日本経済の景気も「もう」底をついた,改革の芽が出て来たと首相

筋は強気である。

 地価についても、3月発表の地価公示で,「もう」底をついたともいわれた

が皆がそう思ったところが「まだ」で9月発表の都道府県の地価調査では,

全国的には、まだ下げ続けの状態であり,地方圏では下落幅が拡がっている。

しかし・その中で東京都の千代田、中央、港区の商業地では二極分化が進み,

11地点で上昇に転じ、住宅地では千代田、港、渋谷区で上昇か横這い,その周

辺部でも△0.12〜1.0%の下落率となっており,微かながら希望の光が射してき

たとも見られる。税制においても,これを支える施策が希まれている。

                 ()

平成15年度の不動産税制の改正は、不動産の流動化のための税負担の軽減と

いう観点からなされているが、これに紛れて特例の適用要件の縮減などによっ

,税負担が重くなっている改正もあるので油断はできない。

今回の改正の目玉は、相続税と贈与税の税率の大巾引き引下げと,相続時精算

課税制度の創設である。この新制度は,65歳以上の親から20歳以上の子への贈

与について・子の生涯にわたって2,500万円までは課税せず,これを超える部分

は一律20%の軽率の贈与税を課するというもので,住宅資金の贈与については,

さらに1,000万円を加えて3,500万円まで課税しないというものである。しかし,

これは相続の段階で相続税の計算のとき精算するというものであるから,相続

税の節税とは関係ない。贈与を受けた財産の価格が値下りしているようなとき

には、かえって税負担が増加したという結果になるという思わぬ「落し穴」に

はまることもあるので、この制度を充分に理解し、また,将来の経済の動向な

との見通しをたてて適用する必要がある。

 また、不動産に係る登録免許税の税率の大幅な引き下げがなされているが、従

来の課税標準を1/3にする特例の廃止と同時になされているので、登記の種類に

よるが、税負担は改正前に比べて同率か、若干の減、または増となっており注

意を要する。

 そのほか,新増設に係る事業所税は廃止されたが事業に係る事業所税は残っ

ていること,特別土地保有税は課税しないことになったが,従前からの猶予措

置を受けていたものまで免除されたのではないことを注意しておかなければな

らない。

 さらに,マンション建替円滑化法と都市再生措置法の施行にともなう税軽減

の措置もとられている。

 その他の主な改正については,「平成15年の税制改正」に掲げておいた。

                 (三)

 なお,一方で,土地譲渡所得に対する軽減の特例,重課停止の特例などの適

用期限が平成!51231日までになっているのが目白押しに並んでおり,この

適用期限を延長するという改正がなされない限り、あの土地重課という悪夢が現

実のものとして復活することになる。

 これについての改正の成り行きを見守るとともに,土地取引については年内

に契約までには持ち込むという自衛手段も必要であろう。

                 ()

 本書は,昭和53(1978)に初版を刊行してから,四半世紀をへて,25

を数えるにいたったが,この本を発掘したのは,当時清文社におられた竹添通

徳さんであり,その後,同社の野々内邦夫さんが現在に至るまで担当され、そ

の協力で,いわば筆者と二人三脚のような形で,改訂版を出してきた。この紙

面を借りて両氏に謝意を呈する。

 さらに,その基には,読者の期待と鋭い批判の眼に裏付けられてきたもので

あり,今後とも,社会・経済・法制度などの変化に合わせて改訂版を出し,

者の便.宜に供したいと思っている。

   平成15年11月1

                             鵜野和夫

 

平成14年版の序

                 ()

平成14年に入り,夏も近づく頃,景気も底を打ったという政府筋の発表もあ

,愁眉を開いたところ,残暑も厳しい9月に入るや,株は全面安となり,

58(1983)以来の低水準に陥ち込んだ。

 これで底を打ったのだという希望的な観測は,あまり見られず,さらに二番

底三番底が控えているのではないか,そして,その先には,奈落の深淵が待っ

ているのではないかという不安さえ漂う今日この頃である。

                 ()

 平成14年の地価公示では,地価は,都心部などの一等地で横這い,微かな上

昇の地点が見られたものの,総体的には下落し,その後も,その傾向を辿って

いる。

 8月初旬に発表された相続税の路線価は,これを反映して,その認識を一般

に浸透させている。

                 ()

 このような株安と地価低落の流れの中にあっては,銀行の不良債権は,整理

しても整理しても整理したと思ったら,というより,整理しているうちに,

新しい不良債権が雨後の筍のように芽生え,生まれてきている。

 この悪循環を絶つためには,経済の再生,活性化しかなく,不動産について

,その流動化による適正配置と成長ということになる。

 これを促進育成するための一環として,税制がある。

                 四)

 しかし,不幸なことに,不動産の動きは,不動産の流通を阻害し,不動産を

保有し運営することによる有利性を減殺し,不動産の価値を引き下げるために

立法された平成3年の土地税制改革による税制の枠の中に閉じ込められている。

 政府は,不動産の流動化・活性化を,法華の太鼓のように叩きながら,お題

目として唱えているが,この枠()を墨守し,物惜しみしながら,小出しに緩

和しつづけてきたにとどまっている。

 いま,求められているのは,平成3年の土地税制改革なるものの全面的な解

体と,新しい視点に立った不動産税制の再構築である。

                 ()

 それでも,前年には,不動産の流動化促進をはかるため,登録免許税の手数

料化,不動産取得税の廃止,土地譲渡益課税の軽減などが,国土交通省から要

望され,自民党税制調査会の改正案にまで具体化され,期待されたところであっ

たが,蓋を開けてみると,大山鳴動して鼠一匹というお粗末な結果となってい

る。

 それでも,そのほんの一部だけではあるが改正されており,それでも改正さ

れなかったよりはましであるともいえるが,税制の適用をますます複雑にして

る。

 それはともあれ,実務家としては,このように複雑化した税制の中で,それ

ぞれの才智をかけて不動産の活性化をはかり,苛酷なサバイバル・ゲームに勝

ち残らなければならないのが現状である。

 本書は,このような観点から改訂した。

   平成14101

                            鵜野 和夫

 

 

 

 

 

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