あとがき   珠音(じゅね)へ    2006年4月15日
  あなたが亡くなって20年が過ぎました。 6年前から、天気の良い朝はデジタルカメラを持って散歩をしています。特に近所のお宅の とちの木が気に入りましたので、とちの木の写真は100枚近くも貯まっていました。その 中からあなたにぜひ見てもらいたいもの十数枚を選んで、本にまとめました。今にして思う のですが、若くエネルギーに溢れていた頃には全く気がつかずに、年を取ってから初めて気 づく美しいもの、素晴らしいこと、があるものですね。朝の散歩のゆったりした時間、この 時間をあなたと一緒に過ごせていたら良かったのに、と今さら思います。そして、とちの花 の、かすかな甘いにおいを一緒に嗅ぐ余裕を持ちたかった良かったのに、と思います。私の心 にまったくゆとりが無かった事を、心からおわびします。とちの木のお宅のおじさんといつ の間にか話をするようになりました。このおじさんは、あなたと一緒に見た、TVの日本昔話 に出てくるような、おじさんです。たいてい、ゆっくりと庭掃除をしていて、こちらも昔むか しの世界に引き込まれるような錯覚におちいります。 若かった頃よりも今のほうが、クリニックの小さなお客様たちの言葉がよく聞こえ、理解でき るようにになりました。あなたが小さいときキャッキャッと笑ったように、待合室からも、 楽しげな声が聞こえてきます。子どもたちの声の中に、あなたの声が聞こえます。 小児科 は私にぴったりの仕事だったと思います。この仕事はまだ続けたいなーと思っています。

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