母のお盆休み
             2006/10/1 new

  いよいよ待ちに待ったお盆です。 柿の木ホームにお世話になっている母が帰ってきます
。母は介護認定3〜4を行ったりきたりしています。私たちも、ホームのスタッフの方々も
お盆のことは口に出しませんでしたが、TVで解ったのか、カレンダーで数えたのか、13日に
私たち姉妹がホームに着いた時には 「今日でこちらを卒業させていただきます」と、母は
挨拶を済ませていました。一瞬「もう、ホームに戻らないよ」と言い出したら困ると思いまし
た。東京からお手伝いに来てくれた妹一家とともに母を車に乗せて我が家に向かいます。
道すがら「母さん、ふたっつ泊まったらホームに帰るのですよ」と、くり返し言いました。
我が家の玄関は道から斜面になっていて、最後は石段が5段あります。義弟が「おばあちゃん、
おんぶしようか?」と言いました。 少し恥ずかしそうにしていましたが「ホンダラバ。
オモッサゲが無いども。」と言いながら、背中に背負われました。いつの間にか本当に小さく
なっていました。
  リンゴジュースで乾杯です。大好物の握りずしは、うっかりすると限りなく食べ続けるので、 黒い漆塗りの器に(おすし屋さんのによく似ています)取り分けました。私とわけっこです。 大皿の枝豆、とうもろこしは、どんどん食べ続けるので、隠しました。うえの写真はその時のです。 勿論前列真ん中が母、後ろが私、両端に妹と、その娘がいます。 自分を指差して「これはオメサンスカ?」と聞きます。「いやだ、それは母さんでしょう?私は後 に立っていますよ。」と言いました。すると「アーワガッタ。笑っていれば、ワガグ見えるんだが ね」うーん、なかなか哲学的ですねー。
  14日にはお墓参りに行きました。「花坂家の墓」は読む事ができました。しかし私の父、つま り母の夫がこのお墓にいることが理解できなくなっていました。昨年までは解っていたのに..。 そして、藤原の実家に寄りました。母が50年ほど住んだ自分の家です。しかし、きょろきょろ見回 すばかりで、自分の家である事がまったく理解できないらしいのでした。私たちきょうだいは、 ふいに互いの顔を見合わせるのでした。 やはりこれはかなりこたえました。 しかし現実です。
  翌日、宮古のお盆には珍しく、ヤマセもなく、とても夏らしい暑い日です。 「これこれ、せっかくなんだから、浄土ヶ浜にでも行って来とでんせ。」何と適切な会話でしょう。 夏休みで子ども達が帰ってきている気分なのでしょう。そして私に言いました。「これこれおめ さんも一緒に行って来とがんせ。おれが留守番しているがら。」そうでした。昔むかし、いつも母は 一歩下がって留守番係でした。しかし、今母には見張り番が必要になっているのでした。 「いいよ。母さん、二人で残りましょう。」妹一家が出かけてから、二人で歌を歌いました。 「ウタヲ ワスレタ カナリアハ ウシロノ ヤマニステマショカ .......」女学校時代の歌は どんどん流れるように沸いてくるのでした。
  あっという間に帰る日が来ました。「もう帰らないと言ったらどうしよう」と心配していま した。ところが、「皆さん、大変お世話になりました。私はもっといたいども、ホームの皆が、 かえって来い、かえって来いとと言うもんだからしょうがないから帰らせていただきます。 本当にありがとうございました。」なんて素晴しいご挨拶でしょう。思わず目がしらが熱くなり ました。 私が呆けた時、こんな挨拶ができるでしょうか。ありがとうと言うことができるでしょ うか。今から感謝の言葉を述べる練習をしていないといけないなー、と思ったのでした。       
 
母のお盆休みは無事に終了しました。東京から妹一家が来てくれたので無事に何事もなく終わった のでした。夜間は1時間から2時間ごとに尿意を訴えるので、妹が付き合いました。おかげで一度も お漏らしはありません。義弟も、姪もよく母に声がけをしてくれるので、母の精神状態はきわめて 良好でした。ここが自分の家だと思っているようでした。   東京の皆さんおかげさまでした。ありがとうございました!
 
  それから一週間ほどして、ホームを訪ねました。
「はホームに帰りたくなかったのではないかなー」と心の隅っこで思っていたのでしたが、母の顔を見てホッと
しました。 精神的にはとても安定していました。トイレも、入浴も、そのあとの身支度も、全く誰かの介助が
必要です。しかし女学校時代の、つまり60年、70年前のことは、記憶に豊な貯金がありました。
宮古のタウン誌「みやこわが町」の今月号は人物伝の特集です。「この人は女学校の校長先生だよ。」 文章を
読むと 大当たりでした。「この人は宮古で始めて市会議員になった女の人だよ。」 すごい! 本当に「中村桂子
さん」でした。  さらに得意になって教えてくれました。「女学校に講演に来たんだよ。」 
  すごいねー。母さん、偉いねー。

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