第27回宮古市学校保健研究大会会長あいさつ
       平成20年2月6日   うちだ小児科クリニック 内田瑛子 みなさまようこそいらっしゃいました。この会は27回目を迎えました。この季節、イン フルエンザAが猛威を振るっておりますが、道路には雪が殆ど見られず会場への道のりは 例年より楽だったのではないでしょうか。 平成17年6月、宮古市、田老町、新里村が合 併して新宮古市となってからは、第2回目の大会です。小学校22校、中学校11校計33校す べてが参加しています。宮古市学校保健会とは、宮古市内すべての小学校・中学校の児童 生徒が、健康で楽しい学校生活をおくれるように、又、思いやりがあり、実行力のあるお となになれるようにと、養護教諭をはじめすべての教師、PTA,学校医が協力してつく った集まりです。社会が複雑になっても、私達のからだは変っていません。生物であり、 その中の哺乳類の一種であり、つまり自然界の一員なのです。 研究課題は3年連続となっている「食と健康を考える」で今年は2年目です。授業研究に ついてお二人の先生が発表されます。小学校は、津軽石小学校の高橋しずか先生が、中学 校は第二中学校の甲谷穂波先生が発表されます。前年度との比較をしながら発表されると 思います。特別講演は、盛岡から素晴らしい先生をお迎えいたしました。岩手食文化研究 会副代表の宮本義孝先生です。 先生は三年前に盛岡スコーレ高等学校の校長を退官された 後、日本の食文化・食生活・食育について、各地に出向いて、熱心に指導されていらっしゃ います。講演がとても楽しみです。   さて、どうして食育が必要なのでしょうか? 私達の身体は約60兆の細胞でできていると言われます。大雑把にいうとすべての細胞は 蛋白質・脂肪・水からできています。活動は、糖質をグルコースに変えて、エネルギーと しています。人間の一生は50年から100年ですが、各細胞の一生がそれぞれ大きく異なって いる事をご存知でしょうか。細菌と戦った白血球はたった5〜6時間で死にます。赤血球は 120日ぐらいの命といわれます。私達の皮膚・胃腸の細胞は、二週間の命で、毎日成長し剥 がれ落ちていっています。脳の神経細胞はどうでしょうか?生まれた時が最高の数で後は 徐々に減少するといわれます。しかし実際には頭は大きくなりますね。それは生まれた後 に神経線維が伸びていきネットワークを作る事と、バリアーとなり、栄養を与え、廃棄物を 運び去る役目のグリア細胞が作られるからです。つまり脳はすべての人が未熟で生まれてい ます。脳も身体も、成長し維持するためには十分な栄養(蛋白質・脂肪・糖質・水)が必要 です。さらに、外界からの刺激(環境・体験・運動・教育)と休憩(くつろぎ・楽しみ・睡 眠)が絶対に欠かせません。この三者のバランスが非常に大切です。    皮膚について。赤ちゃんが泣いたとき思わず抱っこして、ほほずりします。赤ちゃんの 皮膚の細胞はそれを神経伝達路に沿って脳まで伝えますし、満足の記憶として脳に蓄積されま す。又、脳から独立した皮膚の細胞内の刺激受容体も感じます。 胃腸について。食べたものが胃腸に届きますと、脳が命令しなくとも、胃腸の細胞は必要 な分泌液を出し、下方へと蠕動運動をします。胃腸の細胞には脳から独立した神経細胞があ り又、刺激受容体もあります。神経細胞の一部は脳と連携していて、「美味しかった。満足 した。」という記憶が残ります。 味覚についてはまだ完全には解明されていません。「甘い。塩辛い。すっぱい。苦い。う まい」を感じる味蕾の細胞型が一元説か二元説かまだ決定されていません。脳まで届く神経 細胞・神経線維が確認されたものと、細胞内の受容体だけ分かったものとあるのだそうです。 又、味覚は、外からの豊富な食材の体験によって、成長する事が分かっています。6才から12 才ぐらいまでの食生活で、味覚の一生のおおよそが形成されるのだそうです。 嗅覚について。匂いを発する化学分子は数十万種類あり、嗅覚受容体は数百種類あること が分かりました。匂い分子と嗅覚受容体の相互関係が次第に解明されつつあります。 もし絶食して、必要な栄養をすべて点滴でまかなった場合、胃腸の細胞がたちまち萎縮して いく事が分かっています。皮膚感覚も味覚も嗅覚も使用しなければ衰えていくと言われます。 どの親も「優しくて、賢くて、運動も好きな子に育って欲しい」と願うでしょう。 繰り返します。脳と身体の発達には、栄養と、外からの刺激と、休憩が必要です。これらの事 を心の片隅において、子育てをしていきたいものと考えます。   では第27回の大会を始めましょう。
参考文献 
脳はどこまでわかったか  井原康夫 編著           朝日新聞社 セカンドブレイン(第二の脳) マイケル.D.ガーション著、古川奈々子訳 小学館 腸は考える   藤田恒夫 著        岩波新書 第三の脳    傳田光洋 著        朝日新聞社 うま味も苦味も味蕾から  豊島邦昭 著 ミクロスコピア    2007春号p.16 匂いとフェロモンの不思議 東原和成 著 ミクロスコピア    2007冬号p.28   
もどる