その日ユカちゃんは自家中毒症のための血管注射をしてから帰りました。
翌日の朝は二人とも元気でやってきました。
「今朝はご飯を食べましたか?」
「はい。ご飯をいっぱい。味噌汁をにはい食べました。」ユカちゃん大きな声で答えました。
おじいちゃんも安心してにこにこしています。オシッコの紫色は正常の肌色に変わっていました。
「おじいちゃんはね。とっても心配したから怒ったのよ。おじいちゃんもセンセイもカンゴフさんも
みんなユカちゃんの味方なの。自分の足で歩くのもとっても大事。だけどこの世の中には悪い
ひとさらいが居るから、いつもの通りにバスで帰りましょうね。」
「それから、もう一個悪いことをしたのね。ユカちゃんがカデッコナスにされたら悲しいでしょう。
だれとも仲良くしようね。」
ユカちゃんもおじいちゃんも大きくうなづいて帰りました。
本当に「自分の足で歩きたい」と思うのはとっても健康的で大切なことなのに、悪い人が
居るからバスで帰らなければなりません。 悲しいことだけれど現実です。ユカちゃんの
成長のしるしを垣間見る一日でした。おじいちゃんも大変でしょうが、一緒に頑張りましょう。
自家中毒症は日常でしばしば経験する病気です。3才くらいから12、13才に多く見られます。
「おなかが痛い。吐く。元気が無い。」という症状の時は自家中毒症を疑ってオシッコを取って
もらいます。赤ちゃんにはありません。自我に目覚める頃、そして大人になりきっていない年令
の間にみられます。熱が高いなどの病気と合併しておきる時と、はっきり精神的なストレスだけ
が原因の時とあります。ユカちゃんが「自分の足で歩いて帰りたい。できると思う。」と実行した
のは本来なら、大切な成長過程であるはずです。でも悲しいことには現実には悪い人が居ます。
だからおじいちゃんは本気で怒ったのです。本気で怒ってくれる大人の存在は、貴重なこと
ではないでしょうか。たとえ自家中毒症になったとしても、おじいちゃんの愛情はユカちゃん
の心の奥に刻まれたことでしょう。