「子どもの心」研修会
                  2006/5/31  new
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日本小児科医会主催の「子どもの心」研修会が開かれました
平成18年5月13日、14日  東京 都市センターホテルにて
       日本中から300人以上の小児科医が集まりました。
       岩手県からは5人、宮城県からは18人が参加しました。
       13日(土)は休診としましたが、それにも増して、濃い内容の講習会でした。
  13日(土) 13:00〜19:00
     子どものこころの発達    庄司純一 (青山学院大学)
     広汎性発達障害概論    川崎葉子 (むさしの小児発達クリニック)
     自閉症の心の理解のために (代)川崎葉子、内海裕美
     カウンセリング概論     青木紀久代 (お茶の水女子大学大学院)
  14日(日) 9:00〜15:00
     子どもの睡眠        神山潤 (東北社会保険病院)
     子どもの「遊び」を考える  増山均 (早稲田大学)
     “メディア漬け”と子どもの危機 清川輝基 (NPO子どもとメディア)
     虐待への理解と対応   西澤哲  (大阪大学大学院)
 フジ 和見町の お宅にて
  子どもの睡眠   神山潤 (東北社会保険病院) 

下図のように、日本の子どもは夜10時以後に寝る子が約半数を占めるに至った。
「夜ふかし朝寝坊」の問題点を挙げた。
a)生体時計と地球時間のずれ
ヒトの脳には生体時計が備わっている。生体時計の一日は24時間より若干長い。毎日
朝の光を浴びる事によって、短くリセットする。夜中の光は周期を長くする働きがある。
つまり夜更かしをすると、(夜明るいところで過ごしていると)無意識のうちに生体時計の
周期が長くなり、地球時間とのずれが大きくなる。又夜ふかしは朝寝坊となるため朝の
光をあびそこねる。つまり地球時間とのずれがさらに拡大する。慢性の時差ぼけ状態
となる。
b)メラトニン分泌抑制
メラトニンは眠りを誘発するホルモンである。暗くなると分泌され、明るいと分泌が抑制
される。また一生の間では、1才から5才の間の分泌量がもっとも大であることが解って
いる。夜ふかし朝寝坊をくりかえすとメラトニン量が次第に減少する。
(くわえて成長ホルモンも、夜眠っている間に分泌される)
c)セロトニン
セロトニン(神経伝達物質のひとつ)の働きが低い時、攻撃的になる事が動物実験で
解っている。朝の光をあびるとセロトニン活性が高まる。又咀嚼、呼吸、リズミカルな
筋肉運動はセロトニン活性を高める。夜ふかし朝寝坊をすると、朝の光の浴び方が少
なく運動量が少なくなり、セロトニン活性が低下し、イライラ感や、攻撃性が増す。
神山先生からの夜ふかし対策
@子どもに適切な睡眠時間を与える事はおとなの責務である。A生体リズムの調整に
まず必要な事は朝の光を浴びる事 B生活リズムの調整のポイントはまず早起き、そし
て昼間の活動量を増やす事(寝る事から始めようとするとうまくいかない)


参照:  子どものはやおきを進める会http://www.hayaoki.jp/index.cfm
                       神山・鈴木etc.

メラトニン分泌量  図にしました  内田


 子どもの「遊び」を考える  増山均 (早稲田大学) 

(講演の内容を短くまとめました)
 車のハンドルやブレーキには動かしてもすぐには作動しない「遊び」という
部分があります。一見無駄なように見えても、この「遊び」が無ければ、きわ
めて危険で正常に運転する事ができません。私たち人間の生活や発達に
ついても全く同じことが言えます。 一見無駄に見えるような「気晴らし」や
「遊び」の時間が無ければ、健康に生きていく事ができません。
 都市でも農村でも、子ども達が群れ集まって、戸外で遊ぶ姿が見られなく
なりました。かつてのように野山を掛けめぐり、海や川で遊びつくし、自然と
格闘する野性的な活動をしなくなった。できなくなった、そのことが動物であ
る人間の生命活動と生殖機能を衰弱させているのではないかと危惧されます。
 「遊び」は子供同士の人間関係を育て、コミュニケーション能力、集団的・組
織的能力を育てる上でも重要です。子ども時代のいたずら・わるさ・いがみあい
は当たり前の経過で、むしろそうした葛藤や確執をもちながらも、「遊び」を通し
てお互いに張り合ったり、見つめあい認め合いながら人間関係を築く体験が
大切です。
 日本社会では、いつも人間は身体を動かし、働き学んでいる姿が美しく価値
あるものと考え、のんびり休息したり、ゆっくりと気晴らしして無医に過ごす時間
は、その価値を認めたがりません。
人間が育つためには「アニマシオン=命・魂が生き生き躍動する事」と「エヂュ
カシオン=エヂュケーション=教育」どちらも必要です。日本社会では前者を
無視して、後者にのみ重点を置いています。「何もしないでいると・働き勉強して
いないと人間がだめになってしまうのではないか」という激しい脅迫観念が日本
社会全体を支配しています。 アニマシオンとは命・魂が生き生きするための
「遊び」「気晴らし」を子どもとおとなで、あるいは子ども同士で、共感する概念
です。学校外での文化活動や、野外活動がその主な場面です。
 増山先生が依然暮らしたスペインにおいては、おとなも子どももアニマシオン
を大切に考える日常を持っていた。おとなも一日を3等分して、睡眠・労働・皆
で楽しむ時間に割り当てているとの事でした。(日本は労働時間が極端に長い)
日本においては、単身赴任・転勤・残業・長時間労働はあたりまえと考えてい
ますが、ヨーロッパの人から見ると大変異常な事なのだそうです。
日本の父親が子どもと過ごす時間は世界で最も少ないという統計が出ています。
父親が子どもと一緒に生活し、遊ぶ事はもちろん大切です。さらに疲れて帰宅
するお父さんの姿だけではなく、りりしく生き生き働いている積極的な父親像を
見せる事も必要です。
 子育ての問題は、日本社会全体、とりわけ経済界の考え方に、根本的な問題
があると考えます。
   参考図書:「アニマシオンが子どもを育てる」増山均 旬報社
 ハナスオウ 山口川の土手
  
    “メディア漬け”と子どもの危機 清川輝基  
(現 NPO子どもとメディア)(元 NHK社会報道番組ディレクター)
1960年代高度経済成長が始まり、ひたすら経済の豊かさを求め、車、核家族化
が進みました。テレビが急速に普及して伝統的な生活スタイルが劇的に変化した
時代でした。まず遊びまわる事ができる空間は1955年と1975年を比較すると半減
しています。道路も、車社会になったので、遊び場から危険地区になってしまいまし
た。1970年代にはテレビ視聴に費やす時間が増えて、睡眠・外遊び・教養・学校
外の行事の時間が減りました。1980年代に入ると、テレビゲーム・ビデオ機器が
急速に普及して、いよいよ"メディア漬け”時代に入りました。
 テレビ、テレビゲームetc.が子どもの脳の発達に及ぼす影響が無視できないと、
文部科学省は2002年「脳科学と教育研究」の国家プロジェクトをスタートさせました。
東北大学川島隆太氏、日本大学森昭雄氏などで構成されています。
幾つかの実験成果が発表されています。

脳の深部に大脳辺縁系の一部扁桃核があります。嬉しい、悲しい、攻撃的などの
感情を発する部位です。ある日テレビでサルの実験を見ました。この扁桃核に電極
を入れておいて、えさを持った人が話しかけながら入ってきます。いつもの担当者が
入ってくると嬉しい部位の電位が大きく、知らない人が入ってくると小さい電位でした。
又いつもの担当者でも、ニコニコ笑顔を見せながら入ってきたとき電位が大きく、しか
めっつらをして入ってきたときには電位小さくなりました。人間の赤ちゃんに家族が
優しく話しかけるのと、テレビが一方的に音声を流してよこすのでは、感情を育てる
環境が全く異なることを意味しています。

川島隆太氏は光トポグラフィーという技術(非浸襲的検査)を駆使して、正常大脳の
前頭前野の研究をされています。前頭前野はコミュニケーション能力、品格、知能、
判断、やってやろうという気力、自分を抑制する能力の主役です。人間はすべての
動物の中でもっとも発達した前頭前野を持っています。前頭前野を育てる事が人間
らしい育ちとなります。オセロゲームを人対人で行った場合、二人とも前頭前野の血
流が活発に(画面では赤い色が濃く、広く)なりました。同じゲームをパソコン対人で
行った場合、血流は大きくなりませんでした。それは囲碁でも同じ結果でした。
 又、同じ人が指先の運動をしている場面があります。ひとつは意味の無い、左右の
第一指と第二指を交互に触れ合うすばやい運動の繰り返しです。二つ目は生まれ
来る赤ちゃんのためにケープを毛糸で編むという指先の運動です。 これは勿論
後者のほうが血流量は大でした。 いろんな思いをめぐらしながら、前頭葉前野が
活発に働く事は素人にも解ります。非浸襲的な検査なので小さい子にも検査がで
きます。親しい家族が子どもに本を読んでやっています。その子どもに全く知らない
人が、同じ本を読んでやっています。どうでしょうか。 やっぱり親しい家族のほうが
血流は大でした。
前頭前野が十分に成長すると、扁桃核の「攻撃的な」部分が興奮状態になっても
前頭前野の「自分を抑制する能力」が働いて、実際には他人を傷つける事は無く
なります。いじめや、虐待、異常な犯罪の増加は、前頭前野の発達の未熟が大いに
関係していると推定されます。

リンゴ(フジ) 市役所の庭

子どもが言葉を覚えていく過程を想像しましょう。
親しい人が話しかけます。子どもはまだ言葉を返す事ができなくても表情と身体で
表現しようとするでしょう。そしてそれに対して親しい人が次の話かけをするでしょう。
また子どもは返事をしたくなるでしょう。そのとき子どもの脳は、大脳の前頭前野を始め
として辺縁系も活発に働くはずです。つまり交互に言葉や仕草が行ったり来たりする
のです。その子に合ったゆったりした速度で進むはずです。その積み重ねで言葉を
獲得していくでしょう。
テレビは親しい人でしょうか。他人です。いいえ人ではなく機械です。
テレビから言葉を覚えていくでしょうか。テレビを見て子どもが返事をしたくなったと
してもそれはできません。一方的にテレビから音や絵が放出されます。また画面の
展開の速さは、子どもの脳がじっくり考える事を許しません。
つまりテレビからは言葉を学習できないのです。
清川輝基氏 のまとめ
薬や食べ物の場合、安全性も有効性も全く確認されていないものを親が子に与える事は
考えられません。しかし、日本では安全性も有効性も確認されていないテレビ、テレビゲ
ーム、パソコンなどを見せたりやらせたりする事を平気でやってきました。
しかし今「ノーテレビ・ノーゲームでー」を設ける取り組みがあちこちの小中学校、幼稚園
保育園を中心に始まっています。

 
 モクレン 栄町のお宅
 虐待への理解と対応   西澤哲  (大阪大学大学院)  














杉山登志郎 「子ども虐待は、今」 そだちの科学2004年2号p.6より          付記: 虐待の種類
         

ここ数年虐待のケースが増加しており、児童相談所の措置能力を遥に超えています。
(上の図を参照)
はじめに
親などの保護者からの虐待という行為は、子どもの成長や発達にさまざまな否定的
影響を与える。虐待の身体的影響としては、直接的な結果である火傷や、骨折など
といった身体的外傷以外に、不適切な養育に起因する成長障害や知的発達の遅れ
などがある。また、虐待は、心理的あるいは精神的な外傷、すなわちトラウマと呼ばれ
ている状態を生じ、子どもの心理的発達に深刻な影響を与える可能性があるといわれ
ている。 (上の表を参照)
おわりに
虐待という体験は、子どもの身体、認知、情緒、行動に重大な否定的な影響をもた
らす。虐待を受けた子どもを、適切な保護やケアーを提供することなく放置した場合
には、こうした影響が人格の一部として固定化し、「人格障害」と称されるような、重大
な人格の歪みとなる危険性が少なくない。最近頻発するするようになった重大犯罪の
背景には、こうした「虐待を受けた子ども」の姿が見え隠れしえいるように思う。
虐待を受けた子どもに適切なケアーを提供する事は、子どもにとって必要であるにとど
まらず、実は社会全体にとっても重要なのだと言えよう。


記: 平成18年2月15日宮古市学校保健研究大会    会長挨拶(内田瑛子)より抜粋
さてこの一月に児童相談所から一通の報告が届きました。ここ数年児童虐待が増えていること。
宮古児童相談所(宮古保健所管内、と釜石保健所管内を担当)において、児童虐待は、平成12年
から平成16年までは年間平均14例の事例があった事。しかし平成17年度は11月末現在ですでに
53例も発生しているという報告です。 主な虐待者は、実母56%、実父23&、養父と内縁
の夫合せて11%となっております。 本来遺伝子には、同種の生物は殺さないとの命令が組み
込まれているはずですが、それを断ち切ってもわが子に障害を与えているもの、それは何でし
ょう。この急激な増加は何を意味しているのでしょうか。若い親たちを取り巻く職業不安など
の、社会状況の変化から構造的に生み出されるという意見もあります。もうひとつは親業とし
ての能力が低下してきているのではないかと推測される事です。昔、就学前の子どもたちは
大人の枠からはみ出て、集団で遊びました。また、昔は大人も集団で生活し、自分が成人に
なる前に、周りから小さい子の扱い方を知らず知らずに学習していました。現在は、自分に
子どもが生まれた時が、子どもに触れる初めての経験というケースさえ見られます。さらに気
づくことは、幼児期からゲームに触れた世代が今親になりつつあるということです。後に申し
上げますが、ゲームは、欲望、本能を司る大脳辺縁系を増大させます。そして自己コントロー
ル、相手への思いを司る前頭前野の成長を傷害します。つまり大人の脳に成長していない、
幼いおとなが増えているのではないかと推測されるのです。表面からは見えませんし、数値
で計測は出来ませんが、タバコ、酒、薬物と同時にゲームについても検討しなければならない
のではないかと考えます。
     
ツツジ   和見町のお宅


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