一関市で乳児の死亡
                  2002/11/13 new

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  悲しい出来事がありました。
9月1日に発症して9月4日の夜死亡した生後8ヶ月の赤ちゃんについての報道
です。夜間に救急車に乗ったけれども、小児科医のいる病院が無かったので、
小児科医の診療を受けられないままに死亡したと報ぜられました。新聞やTV
の内容から判断しますと、高熱、嘔吐、下痢、脱水の症状があったと察せられ
ました。山奥に住んでいたわけでもなく、離島に住んでいたわけでもないのに、
こんな悲しい出来事があったことにどなたも驚かれた事と思います。
 亡くなられた事は、本当に悲しく心からお悔やみ申し上げます。私も十六年
前に我が子を失いました。悲しみはいつ果てるとも知れない深みにどんどん落ち
込み、そこから這い上がるのに何年もかかりました。どうぞご両親様心を強くお持
ちになって立ち直ってください。二度とこのようなことが起きないように皆で考えて
いきましょう。
 今回のでき事は一関地区で小児科医があまりにも不足している事が第一の原
因であろうと誰しも推測する所であります。
 小児科医が減少するのは何故なのか、御一緒に考えてみましょう。
「現在いるだけの小児科医で夜間の輪番制を」というマスコミその他の姿勢は、更
に小児科医減少を促がす危険性があると考えるので意見を述べてみます。
     
どうして小児科医のなりてが減少しているのでしょうか?
@ リスクの高い仕事をしているのに報酬が報われない。
一般の方には馴染みがないと思いますが、「個別指導」という制度があります
。これは県の保健福祉部保険課の担当官が各科のレセプト一枚の平均点より
高い点数で保険請求をした医師を呼び出して「点数を下げなさい」と指導をし
て、従わなかった場合は翌年は監査というもっと厳しい処置をとるものです。
これは県のというより国の姿勢なのだと理解しています。私は平成九年と平成
十一年の二回もこの呼び出しを受けました。下記の表をご覧ください。
一点は十円です。
あまりにも小児科の点数が低いのにお気づきの事と思います。私は盛岡赤十字
病院、県立宮古病院時代と同じような診療、つまり重症と判断したら勤務医時代
と同じ検査をしていました。しかしそれでは点数が高いということでした。できるだ
け検査をしないようにということのようでした。
点数を平均点以下に下げなさいというよりは、むしろ“内科並の収入になるように
200点を基礎点数としてあげます” という風にはならないものでしょうか?
次に述べますがこの点数では私の場合は、感染症の少ない夏場は採算が取れ
ません。 冬場は人件費とお家賃その他の必要経費ぎりぎりの収入となります。.
 
 
平成11年度レセプト1件あたり平均点
           いわて医報NO579 より

 全国 
 岩手県
内科
1086
1009
精神.神経科
1261
 977
小児科
 909
 802
外科
1147
1060
整形外科
1067
1009
泌尿器科
1986
1905
産婦人科
1008
1224


平成12年度  宮古市の人口
  年齢  人
100才以上   2
15才以上
  46436人

(ほぼ内科の
    範囲)
95~99
  57
90~94
 292
85~89
 749
80~84
1428
75~79
2274
70~74
3225
65~69
3756
60~64
3958
55~59
4095
50~54
4529
45~49
4013
40~44
3439
35~39
3162
30~34
3105
25~29
3089
20~24
2306
15~19
2957
10~14
2970 15才未満
   8171人
(小児科範囲)
5~9
2717
0~4
2484

小児科の診察には内科よりも人手が必要です。
例えば血液検査の場面を想像してください。内科の場合は患者さん一人に
対して看護士一人で行います。乳幼児の場合は泣きますし、動きますし、お母
さんと一人の看護士で抑えて、もう一人の看護士が駆血をして、医師自身が採
血をします。血管そものがとても細く上手に採血するのは熟練が要ります。
 尿の検査が必要な時もなかなか大変です。排尿を教えるようになった子供で
も緊張するとなかなか出してくれません。オムツをしている場合は尿パックを貼
って母乳とかミルクとかを飲ませながら、20分も30分も待ちます。その間看護士
が何回か覗いてみます。その日は失敗して翌日にということもあります。
 最近アレルギー疾患が増加しておりますが、特に喘息あるいは喘息様気管支
炎でテォフィリンという薬品を使う事があります。とても効果がありますが、体重1
kgあたり何mgという目安はありますが、現実には乳幼児は非常に個人差があり
、有効濃度と中毒量の巾が狭い為、安全でしかも有効な量を決める為に、採血
をしてその日のうちに検査キッドを使用して測定します。ふっくらした腕の、くも
の糸のように細い血管から採血する時はこちらが泣きたくなるような気分です。
どうしても必要な検査ですが、これも検査点数を上げてしまう一因となっていま
す。
 脱水状態のときとか喘息発作のひどい時には、静脈注射や点滴静注が必要
です。これが又大変です。30分から1時間の間じっと寝てくれるとは限りません。
あやしたり、抑えたりが必要です。お子さんを二人、三人と連れて来ている場合
はもっと人手が必要になります。
 ですから人件費は、小児科の方が内科よりも大きいと思います。

有床病院の小児科医は危機的な状況に置かれています
入院患者の診療、外来一般診療、ワクチン、健診その他をこな
すには最低三人の医師が必要です。現在岩手県立宮古病院
には三人の小児科医がいますが、いつ二人になるか一人にな
るかとても心配です。他の県立病院は二人、一人のところが殆
どです。全く小児科医のいない県立病院もあります。そのような
条件では、下記の事柄は全く不可能といわざるを得ません。

A 医師としての能力を磨く為に診療を休んで学会その他に
  出席する時間が取れるか。
B 医師の仕事をしながら家族との団欒の時間が取れるか。
今回の一関病院、又暗に非難されている県立磐井病院は、入院ベットがある
にもかかわらず小児科医がたった一人ずつであったと伺いました。たった一人
で奮闘されているのに、まるで一人で24時間の勤務を毎日毎日こなしなさいと
いわれるような書き方をされて立つ瀬が無かったであろうと思いました。
一人勤務はとても無理です。自分自身の向上も、休憩も、家族団欒も無い生活
なのではないでしょうか。ご自身が磨り減っていくような毎日ではないでしょうか。
小児科医の疲労は、患者さん自身が良い医療を受けられないと言う結果を生み
ます。小児科医不足は、国民全体で考えなければならない問題ではないでしょ
うか。
   

どのようにして小児科医を確保したらよいでしょうか
今の情勢では、小児科医が自然発生的に地方に居住してくれることは殆ど可能
性が無いと思われます。研究と診療が両立する、医学部のある都市には小児科
医が自然に集まりますが。地方の病院に一人で勤務する事は大変リスクが大きい
ので小児科医はなかなか来てくれないのだと思います。
医学部を卒業する為にはかなりの経済力が必要です。もし充分な奨学金が得
られれば、地域医療に尽くそうという人が、もう少し広い人材の層から得られるよう
な気がします。例えば一ヶ月に15万円から20万円を6年間奨学金として支給して、
更にその後6年間の研鑚の後に、その地域に6年間小児科医として居住してもらう
というような大胆な方法は如何でしょうか。この方式をずっと続けて行けば、少なく
ともその地区の県立病院に三人以上の小児科医を確保できるのではないでしょう
か。地方自治体は思い切った方法をとらないと、どの地方も今回のような惨めな
事態に遭遇する可能性があります。
又ある先生の案をご紹介いたします
現在、医学部卒業後、2年間の研修が義務付けられて、各科を3ヶ月ずつローテー
トすることになっていますが、小児科を必修にして6ヶ月間実習するとのはどうかと
言う案です。つまりすべての医師が初期の小児科医療を実践できるようにしようと
いう案です。そうすれば当直医がどの科目の医師であっても、小児科の初期診療
が出来て、重症の場合のみ小児科医をオンコールすれば良い事になります。
リスクの多い小児科が敬遠されるのであれば、これは止むを得ない、しかし実際的
な案ではないでしょうか。            
 
 岩手県医師会としての今後の対応  平成14年10月29日 岩手日報掲載より
   下記を表明しました。
夜間や休日に小児が体調を崩したら→  まず地域の担当診療所へ
                → 対応が無理な時は地域の救急病院へ
        → それでも無理な場合は 盛岡市小児救急輪番体制病院へ
つまり今回一関市内でうまく対応できませんでしたが、その場合盛岡の小児救急
輪番性病院で 診てもらう事ができるとの事です。
 付:この後、輪番体制病院自体も、小児科医不足で危機的な状況と聞きました。

 
子育て中のご家族の、さしあたっての自衛策は?
   今日発症して今日中に死亡する という事はめったにありません。心を落
ち着けてしっかりお子さんを観察しましょう。小児科医の絶対数が少ないのです
から、自衛策が必要です。
子育て中のご家族、又保育園や幼稚園や学校の先生方にお願いがあります。
昼食時のお子さんの様子、それから午後三時ごろのお子さんの様子を観察
しましょう。熱が高い、吐く、下痢をしている、元気が無い、など何か気が付き
ませんか?診察も検査も日中が充分に行えます。夜間は充分にはできません。
異常を感じたらまずいつものかかりつけの医師に連絡をとりましょう。緊急なのか
明日で間に合うのか何らかの指示が得られるでしょう。
ここで“かかりつけ”と言う意味があります。小さい時からずっと診察していれば
現在の症状から時間がたって次にどのような症状に展開するか予想がつく事が
多いのです。毎日異なる医院にかかった場合は、どのような展開になるのか
予想が難しいでしょう。どうぞ上手に小児科にかかって下さい。質問があったら
必ず聞きましょう。腑に落ちない事があったら、次の診察の時にも聞いてください。
 二度と悲しい事が起きないように、身近にできることから始めましょう。

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