人間は約60兆の細胞からつくられています。
そのうち大脳皮質にある神経細胞(ニューロン)は約140億個。ヒトの脳
は妊娠3週間後にはできはじめ、おなかの中でどんどん発達して、誕生する
ときにはすでに大人と同じ数の神経細胞ができています。。
140億という神経細胞の数は、その後、減ることはあっても増えること
はありません。他の臓器ではたいてい新陳代謝が行われていて、新しい細胞
がつくられているのに、脳細胞だけは老化したからつくりかえるというわけ
にはいかないのです。
では、生まれてから私達の脳は発達しないのでしょうか?そうではありま
せん。
一つひとつの神経細胞からは、それぞれ数十から数百の樹状突起が伸びて
います。そのうちの長い一本を軸索(じくさく)といい、これが神経線維で、
他の神経細胞の細胞体や樹状突起につながっています。このつながりの部分
をシナプスといいます。神経細胞の活動はシナプスを通じて伝達されます。
つまり、神経細胞と神経細胞はシナプスでつながって神経回路をつくってい
るのです。シナプスの数は一つの神経細胞につき数万個あります。私達の脳
の中には神経回路のネットがはりめぐらされていることになります。
樹状突起をすべてつなぎあわせると、なんと50万km以上の長さになり
ます。地球と月までの平均距離が38万4400km。それよりももっとも
っと長い樹状突起が私達の脳には詰まっていることになります。
このネットは生まれた直後はまだまばらですが、4歳ぐらいまでの間に急
激に発達して複雑になってきます。
脳には神経細胞のほかにグリア細胞があります。グリア細胞は毛細血管と
神経細胞の間の物質の輸送を行ったり、神経細胞の中に入りこんだ異物を排
除したり、神経に伝達もれがおこらないように髄鞘(ずいしょう)をまきつ
ける作用をしています。このグリア細胞の数は約500億です。
どんな人も生まれたときは神経細胞の数はほぼ同じ。頭のよしあしは、
神経細胞の数ではなく、樹状突起の緻密さにあり、それをつくるのは生ま
れてからの適切な刺激だといわれています。
私たちの祖先は、二足歩行を始めたとき、開放された手によりものを顔に近
づけて観察するようになりました。このような手と目の関係が大脳皮質を飛躍
的に発達させ、脳が大きくなったといわれています。ヒトの脳は新生児のとき
は体重のほぼ10%、370〜400gです。成長するにつれて体重に対する
脳の重さの割合は低くなり、成人では体重の約2.5%、日本人男性の脳の重
さは1350〜1400g、女性1200〜1250gです。
体の大きい動物は脳も大きく、ゾウの脳の重さは1万gに達するものもあり
ますが、体重との割合で見ると、ヒトの場合より小さくなります。それに比べ
て体の小さなラットは体重に対する脳の重さが3.6%、スズメは2.9%で、
ヒト以上ということになります。脳の重さだけで頭の良し悪しを論じることは
できないのは、この例をみてもわかります。
脳の中でもっとも重いのは大脳半球で、脳全体の約80%を占めています。
小脳は約11%で、間脳、中脳、橋(きょう)、延髄が合せて7〜8%です。
大脳半球は灰白質の層でおおわれていますが、これが大脳皮質です。大脳皮質
の厚さは1.5〜4mm、表面積は2200cuにも及びます。
大脳皮質は脳の中でももっとも高度な働きをしているところで、脳の場所に
よって働きが違っています。
大脳皮質を横から見ると、ちょうど中心のあたりに中心溝という溝がありま
す。その前が前頭葉、前頭葉の前のほうを前頭前野といいます。ここがヒト
は動物に比べて大きいのが特徴で、ものを考えたり、判断したり、意思を出
したりするなど、人間らしい行動を生むところです。中心溝の後ろを頭頂葉、
その後ろを後頭葉、その下のほうを側頭葉といいます。頭頂葉には理解力や認
識力の座があり、後頭葉には視覚中枢があり、側頭葉には言語や記憶の中枢が
あります。
脳は重要な臓器であり、多くのエネルギーが必要なので、心臓から出される
血液の約15%が脳へ流れていきます。また、脳には異物が入り込めないよう
に、血管と脳組織の間に一種の関門があります。
これを血液脳関門といい、この防護装置により、脳がダメージを受けないよ
うに保護されているのです。
胃が空になると食欲がわき、胃の中に食べ物が十分詰まると食べたくなくな
ります。ですから、食欲をコントロールしているのは胃であるかのように思わ
れがちです。専門家の間でも、以前はそう考えられていました。胃の収縮の有
無や強弱が脳へ伝えられて食欲がおこるというものです。ところが、人間でも
動物でも胃を全部切除しても食欲には影響しないことがわかり、胃の収縮も空
腹や満腹を感じる要因の一つではあるけれど、本質的な要因ではないと考えら
れるようになりました。
では、食欲をコントロールする中枢はどこにあるのでしょうか。現在では、
脳の視床下部にあると考えられています。すでに1800年代半ばから視床下
部説が唱えられていましたが、1900年代の半ばに行われたネコやラットの
視床下部の外側野(がいそくや)というところを破壊するとエサをまったく食
べなくなり、腹内側核(ふくないそくかく)というところを破壊すると食べ過
ぎて肥満になることが突き止められたのです。この実験から、摂食中枢(空腹
中枢)が視床下部外側野にあるということがわかったのです。摂食中枢と満腹
中枢の二つを合せて食欲中枢と読んでいます。
視床下部は脳の間脳の一部で、大きさは幅16mm、奥行き12mm、高
さ10mmという小さなところですが、人間の生命維持に欠くことのできな
い食欲、性欲、体温、睡眠などの中枢があります。摂食中枢の距離は1mm
しか離れていません。ともに米粒大の大きさで、ここに約6万個の神経細胞が
あり、その中の約二割が食欲に関係していると考えられています。ブドウ糖と、
遊離脂肪酸も食欲のコントロールにかかわっています。
胃が空になると、体内の脂肪酸が分解され、血中に遊離脂肪酸が増えてきま
す。これが空腹中枢の神経細胞の活動を抑えるのです。その結果、食べたいと
いう欲求が起こります。それに対して、食べ物が体内に入って栄養の吸収が始
まると、血中にブドウ糖は満腹中枢にある神経細胞の活動を高め、空腹中枢に
ある神経細胞の活動を抑えます。もちろん、満腹なのに好きな食べ物だと食べ
てしまったり、食べたくないのにつきあいで食べたりなど、人間の食欲は大脳
に支配される部分が大きく、実際にはもっと複雑です。
人間の髪の毛は直径が0.1mm、ケラチンという皮膚の層やツメをつくっ
ている物質でできています。総数は平均10万本で、だいたい一日0.2〜0
.4mm、一年で12〜13cm伸びます。
生物学的に、髪の毛で生きているのは毛根だけで、頭皮から外に出ている部
分はもと毛根の死んだ細胞の残骸が新毛根に押し上げられた結果ということに
なります。
毛の成長過程は、盛んに伸びる活動期が2〜5ヶ月、伸びがストップする休
止期が3〜4ヶ月で、交互におきます。毛根によって時期が異なるので、隣り
合わせに揃えてカットした髪でも、一ヶ月もすると長さがバラバラになってき
ます。
毛根の寿命は男性で2〜6年、女性はそれより少し長いくらいです。寿
命が尽きると、退行期(2〜3週間)に自然に抜け落ち、毛根は角化して白い
球のようなものになります。あるいは、長さが1mになると抜けやすくなりま
す。
頭全体の割合ではふつう、活動期中の髪が85%、休止期が14%、退行期
が1%で、ブラッシングやシャンプーのときに抵抗なく抜けるのは休止期毛で
す。休止期、退行期あわせて1日100本前後の抜け毛がありますが、急に本
数が増えたり、毛根が細くなった毛が多く抜けるときは病的な脱毛なので、プ
ロに相談しましょう。
病的ではない「はげ」は遺伝的要素もありますが、直接的には男性ホルモン
が多いことが要因です。男性では、早い人だと思春期以降に額部分から次第に
脱毛してM字型になるか、頭のてっぺんから円形に脱毛していきます。残念な
がら一度はげたら、再発毛は不可能(医学書にそう書いていますので)。「は
げ」はいっぽうで男性ホルモンが多いという証拠でもあり、精力絶倫のシンボ
ルでもあるわけですから、そう悲観することもないかもしれません。
白髪は「はげ」とはちがって、毛根は生きていますが、メラニン色素をつく
る細胞が生産停止するために、生えてくるとき白いだけです。無理して引っこ
抜いたりすると、毛根を傷めて二度と生えてこないこともありますから気をつ
けて。
別に髪の毛が長いからといって偉くもないはずですが、世界記録保持者の髪
の長さはフィラデルフィアの男性で2.28m、イギリスの女性で1.92m
との報告があります。