「…雪ね」 「…雪だな」 「…大雪よ」 「…何が言いたい」 「雪かきお願いね。お隣のも」 「…母さん…」 一昨日深夜から降り始めた雪は、昨日一日かけて振り続き、今日の朝には立派に積もっていた。言われて庭を見れば、推定30cm強。外を歩いてる人、皆無。ついでにTVじゃ、麻痺した交通情報、流してる。 別に、それ自体は構わないんだけど。どうせ日曜でガッコないし。昨日の内に部活中止の連絡も来たし。時間だって早いけど、そこはそれ、部活の所為で早起きが体に染み付いてるだけだし。 しかし、だ。 ガラス戸に呼びつけられた挙句、作ったような笑顔で言いつけられたのが『雪かき』って…。 別に、反論しようとか、そんな事する気はないけどさ。隣のもって事は、うちと同じく隣のおじさんも留守なんだろうとは思うけど。 もう少し言い方ってのがないんだろーか…。 「嫌なの?」 「…別に。今すぐ?朝飯先?」 「──────── …運動してからのご飯って美味しいわよね?…お昼は期待してねvv」 「………トーストくらい、ください………」 つくづく、この人を親に持った俺って不幸かもしれないと思う。 「あー。すっごぉい」 「…みぃ」 玄関前から道路周辺の雪を一通りかいて、その後、屋根の雪下ろしまでやって、中々大きくなった雪山の前で一呼吸してると楽しそうな声に意識を取られる。ちなみに、雪山の位置は、諸事情で隣の家とうちの庭のど真ん中。隣と庭続き(境ナシ)だから出来る所業ではある。 「おはよぉ。凄いね。山だ」 「…山にしたんだよ」 ぺしぺしと雪山を叩きながらはしゃぐ幼馴染に溜息。…いーんだけど。別に。 「これ位あったら、ちゃんとしたかまくら出来るかなぁ?」 無邪気に言い出した科白に思わず噴き出す。今回は、かまくらだったか。 「何?」 「言うと思った」 不思議そうに首を傾げる相手に言う。絶対、言い出すと思ったんだ。…だから、ど真ん中に二家分の雪、集めたんだし。放っとけば良いような屋根にまで上ったのだって、かまくらだか雪だるまだか作るのに雪が足らないと困ると思ったからだし。 それも、綺麗なトコだけにしてある。泥まみれのトコはちゃんと日当たりの良いトコにまとめてあるから、後で親に文句言われる事もないし。 「え?」 「絶対、かまくらとか言い出すと思ったんだよ。だからまとめたの」 「──────── …うっ…」 「底が浅い」 「ほ…放っといてっ」 あ。すげ。顔、真っ赤になってる。…これって寒いからじゃないよなぁ。 「みぃ、顔真っ赤」 「う…うるさい〜」 「…わざわざ、かまくら作ってあげようっていう優しい優しい幼馴染に言う科白ですかねぇ」 「ううっ…。──────── …お昼好きなの作るから」 昼?…て、まさか。 「かーさんは」 聞きたくないと思いつつ確認してみる。 「うちのお母さんと遊びに行っちゃった。夜まで帰って来ないと思う」 上目遣いの視線に一気に脱力。どうしてこー…、うちの親は。しかも、コイツがこんな事を言い出すんだから、俺の昼飯は放棄して遊びに行きやがった。絶対。 「怒った?」 「…お前怒っても仕方ないし。──────── …昼までに作って、中に入れるようなら中で食う?」 困りきった顔で見上げられると弱いんだよなぁ…。 「うん!」 うわー…。花みてー…。 全開の笑顔に、らしくない事考えて、真っ赤に自爆しそうになったのは。 …言えない。 |