「よいしょ」 ひょい、と気安く持ち上げられて、軽く焦る。 足をバタつかせて、慌てて相手の首にしがみつき、漸く一息。 「な、に、するの」 「…姫抱っこ?」 「…そこ、疑問符つけない」 いきなり人を持ち上げて、何故疑問符つけるかな。…相変わらず、何考えてるか判らない。 「取りあえず降ろしてよ。重いっしょ?」 「や。それ程重くないし」 …これは、褒められたんだか、なんだか。 重くないと言われれば、まぁ、気分は悪くないけど。それでも居心地は悪いんだよね。こんな体勢って。何せ恥ずかしい。衆目集めるしさぁ。 「まぁ、保健室行くまでだし?我慢してくださいよ」 「…何で保健室」 「挫いたっしょ、足」 …あ。バレてたんだ。よく見てたなー…じゃ、なくて! 「授業中だし、平気だって」 「クセになったら困るの、お前」 ずかずか進み出す相手に一応の反論。自分から降りたくても、結構がっちり抱えられてるし、何せ指摘された途端、痛み出す足首の所為で身動き取れないし。 大体、自覚したり指摘されると余計に具合悪くなるんだよね、人間って。 あ、いや。そんな事は割とどうでも良くって。 「あ、あのさぁ」 「何」 「…フツー、おんぶとかじゃないの?」 コレは絶対恥ずかしいよ。目立つもん。一般的なのは、肩貸すとか、おんぶとかだと思う。 「おんぶだと、絶対嫌がって乗らないだろ。肩貸すのも悪くないけど、足に負担かかるし。これが一番手っ取り早かっただけ」 理屈?屁理屈?とにかく降ろす気がないのは解ってしまったんだけれども。 「それに」 「何?」 黙ってしまうかと思いきや、珍しく続けられて首を傾げる。何だろう?他にも理由、ある訳。 「これって支点が分散されるから、実際の体重より気持ち軽いんだよ」 「へ。そうなの?」 「躯、W字になるから」 へー。そうなんだ。初めて知った。あー、だから、花嫁さんって姫抱っこなんだー。ドレスってかなり重いとかって言う話聞いた事あるし。 昔のお姫さんもドレス重かったろーし。理屈に適ってるんだなぁ…。 「縦に持ち上げるのは長さ…っつーか身長とかで結構大変だし、都合良い訳」 「へー。初めて知った」 「…もうちょっと勉強しろよ」 やべ。藪突いたっぽい。 「そうじゃなくてさ。こういうのってかなり負担になるもんだと思ってたから」 「…あー」 なんか、そういうイメージがあるでしょ。 筋肉質とかさ。 「敵の体重知らなきゃ重いよ、そりゃ」 敵って何。 「体重知ってて、腕や身体にかかる負担を予測してるから軽く感じるだけだし。」 「あ。そんなもんなんだ」 「そんなもんです。見た目より重いの持ったら豪く重く感じるし、逆もそーだろ」 や。まぁ、確かに。 成程。面白いもんだなぁ…。 「…足、見せてみ」 保健室に着いて、降ろされた途端足首を持ち上げられる。 「…痛いよ」 「腫れてるもんよ。…湿布貼っとく?センセーいないし、漁って良いかな」 「いんじゃん?」 言いながら適当に保健室を探索して、湿布と包帯を発見すると、器用に巻いてくれる。 …なんでも出来るんだなぁ…。すっげ器用。 「…何ガン見してんの」 「んー。ちょっと気になる事があって」 「何?」 気になるのはその小器用な手もだけど。それより、ちょっと気になる事が。 「…保健室来るときさぁ」 「うん」 「グランド側の窓、人が鈴なりになってたんだけど」 ちらっと見上げた校舎の窓。全教室に黒い影。 ちょっと引いた。 「…目いっぱい注目浴びてた気がする」 「…そら…」 「どーしよ」 後で、何を言われるんだろう、ね。 |