携帯電話





あー!もぉっ!
今日も着信ナシな訳?
ったくぅ…。
今日で1ヶ月よ、1ヶ月!
前回メールを入れてから!
…我ながら、よく耐えたものだわ。
それまでは、毎朝毎晩、日に2回は必ずメール入れてたもんね。…返事なかったけど。それから、時々近況なんかも入れてね。…やっぱり、返事なかったけど。
それは良いのよ、それはね。…いや、あんまり良くないけど。それでも我慢できるし。

…自分で言うのも難なんだけど、私ってばかなり我慢強いのよ?
我侭だってあんまり言わないし。
でも、ね。
やっぱり限界ってのはあるものなのよ。


だから…ね?


ちょっと脅しがてら、最後通告したのよ。


な・の・に




なんで1ヶ月も返信なしかなぁ…?




筆不精で、面倒臭がりなこの私が、携帯のメールなら手頃だからって、毎日2回も(時によりそれ以上に)メール送るなんてマメな事をして、気をつけないと手が勝手にメール入れちゃうなんて習慣を持ってしまったのも、唯、偏に誰の為だと思ってるのよ。
返信なしにも慣れて、更に独りにも慣れちゃったのは、一体誰の所為だと思ってるのかしら。


…仕事が忙しいのなんか理解してるし。


私用携帯のメールなんか滅多に見ない事だってちゃあんと知ってる。


…だからって、1ヶ月も放置しないで欲しいんだけど…。


いや、厳密には3ヶ月か。
アイツが音信不通になってから。


そりゃまぁ、居場所知ってるし、変な心配はしてないんだけどね。
どうしても連絡取りたきゃ、連絡も取れる。でも、出来ないけど。
『便りのないのは良い知らせ』とも言うし。
緊急事態が生じたら、一番に連絡が来る(それも自宅にね)のも理解してるわよ?


でも。


だからこそ。


他愛もない連絡を待ってるのになぁ…。
決して鳴らない携帯を眺めて、本日、何度目かの溜息。もう、解約しちゃおっかなぁ。…あー。でも、外出した時困るか。でも、アイツからの連絡がなきゃ、意味ないしなぁ…。
クッション抱えて、携帯握ってるのも飽きちゃった。
「淋しいよぉ…」
本音。言いたい相手は連絡取れないし、どうしようもないよねぇ…。
「…戸締り確認して、寝よ」
頭を振って、立ち上がる。また、明日から、アイツには朝晩のメールを入れる事にして。
せめて、それ位しないと落ち着かないもの。
そのうち、連絡あるでしょ。




ガシャン!!




不意に大きな音がして。慌てて音源…(玄関)に向かう。
…ど、どうしよう…?
開けた方が良いのかな?…でも、怖いし。何の音か興味はある。あるけど…やっぱ怖いし。
そう思いながらドアを見つめると、慌てた様子で鍵が回るのが見えた。


鍵…開けてる…。


開けてるよ、鍵。…って、事はこの家の鍵、持ってるって事だよね?でも、私は別に鍵落したりしてないし…。えー?
呆然とドアを見ていると乱暴にドアが開く。
壊れそうな位、急いで、乱暴に。
足が見える。
男の人の足。
そこからゆっくりと視線を上げていく。
「…」
肩で息してる、見知った姿。
「…どしたの…?」
「…お…まっ…」
「…何か、飲む?すぐ持ってくるからリビングに…」
よく解らないけど、何か飲ませなきゃ。ウーロン茶位しかないけど。…いきなりビールはマズそうだし。


ぐい


取り合えずキッチンに向かおうと背を向けた私の腕が掴まれる。それからそのまま引き寄せられて。
「…そ…だよ、な…?」
ウソダヨナ?
「何が?」
いきなり、何の話?嘘って?
「ねぇ、なぁに?」
「…これ…」
後ろから羽交い絞めされて、身動き取れないから、顔だけ上を向いて確認しようとすると、目の前に携帯を差し出される。
…?携帯?
「メール…。嘘、だよな?」

……
………
…………あ。
「…ねぇ…もしかして、それで帰って来たの…?そんなに慌てて?」
うわー。効き目あったんだ…。
一ヶ月も遅れて、だけど。
「…当たり、前だろ!!やっと一区切りついて、落ち着いて携帯見たらあんな事書いてあったんだから!」
「…あ。現場終わったんだ?」
「終わってないけど。余裕できた」
「お疲れ様。…ねぇ、中入ろうよ。喉、渇いたでしょ?ちゃんと説明するからさ」
「…」
複雑な顔しながら、それでも解放してくれる。…ちょっと、嬉しいかも。何せ、3ヶ月ぶりなんだもん。お茶受け、クッキーで良いかな?夜遅いけど、折角今日、作ったんだし。パタパタとキッチンに向かうと、観念したようにリビングに向かう足音が聞こえた。


「はい。クッキー。今日作ったんだよ?」
言いながら差し出すと、まずはウーロン茶を一気飲みする。かけつけ3杯って感じ。
「…で、説明!」
焦れたような声に笑いそうになっちゃう。…凄く気にしてるよぉ。やだ、嬉しい。
「うん。じゃ、ここで問題です。私は貴方の、『何』でしょう?」
「嫁さん」
「正解。…では、貴方は私とどの位会ってなかったでしょう?」
「…え…」
思わず指折りしだすトコがちょっと可愛いかも。
「……3…ヶ月…?」
「正解!…で、ここが重要なんだけどね?」
うん。物凄く重要。
「私達が結婚したの…いつだった?」
「6月」
「今は?」
「9月」
気付いたかな?
「…」
「なんと。新婚早々、3ヶ月も放って置かれたんだよ?私」
「それは…」
「忙しいのは、知ってる。メールとか見ない性格なのも、知ってる」
でも、さ。
「…あのメールの内容は嘘だけど」
ちょっとした脅しのつもりだっただけなんだけど。
「淋しかったの」
「…悪ぃ…」
心底申し訳ないって顔してる相手の頭を抱えてみる。
「元々付き合い長いし、我慢も出来るけど、淋しかったんだよ?」
だから、たまには連絡欲しいよ。
本当は毎日でも声、聞きたいもの。じゃなきゃせめてメールね。…毎日、なんて言わないから。
「…悪かった。次はなるべくマメに見るから、あんなメールは勘弁」
「…うん。じゃあ、『離婚してやる』はやめるね?」
「そうして。…心臓に悪い」
「次は『浮気してやる』にするから」
「………」
「嫌だったらマメに帰って来るか、連絡欲しいなぁ…?」
上目遣いでおねだり(?)してみると、緊張を解いたような表情。


「…努力する…」


END



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