桔梗1
−ダイジェスト版−


────────おまけ。


「…な、にぃぃぃぃ?」
「煩いぞ、晴明」
「ここは、結界張ってあるから声は漏れない…って、違うだろう!」
 晴明の研究室。先日来何だかんだと入り浸っている紫に、晴明が怒鳴る。
「別に、構わないだろう?」
 平然と言いながら、晴明の式神が淹れたお茶を啜る。さり気なく出されている茶菓子も、実は式神のお手製である。
「構うに決まっているだろうが」
「構わないじゃないか。…死なないぞ」
「…それは、死んだ方がマシという目に遭わせるってぇ聞こえるんだがな」
「…そうとも言うな」
「篁…」
「…まぁ、お前に断る権利はないがな」
 さらりと言われ、頭を抱えかける。
 先刻、紫に告げられた内容。
 それは。


・今後、安倍晴明は、冥官『小野篁』こと小野紫の職務遂行に手を貸す事。
・その見返りとして、安倍晴明は閻羅王の名において、寿命以外では『絶対に』死なないという事。


 …の、二点である。
「…冥皇は俺に何か恨みでもあるのか?」
「…ないだろうな」
「じゃ、お前?」
「ある訳ないだろう?…所詮同じ穴の狢、と言う事だ」
 恨めしそうに睨む晴明ににっこり笑いかける。中身が千年以上前に生きていた男だと知っていても、つい見惚れてしまう様な艶麗な笑顔である。実際、晴明も一瞬思考が止まってしまう。
「…ともあれ、今後とも宜しく頼む」
────────…勘弁してくれ…」
 容易く想像がつく、この先の苦労に晴明が頭を抱えて沈み込んだ。


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