「エクセレン、何見てるの?」 「桜よん」 教室から見える一本の桜の樹。それを見つめるエクセレンに、背後から友人が声をかける。 「またぁ?よく、飽きないわねぇ」 「そお?だって綺麗じゃなぁい?私、好きよ」 振り向きもせず、熱心に眺めるエクセレンに呆れたような声。それはそうだろう。桜が咲き始めてから毎日、毎休み時間に桜を見つめていれば、そんな感想も出るだろう。 「…私も別に嫌いじゃないけど。…何かあるの?」 「んふふ〜。なぁんにも」 友人の問いに、初めてゆっくりと顔を上げる。その際、ちらりと桜の樹の下の方を視界に入れたが、気付かれてはいないだろう。 まだ…いるわね。 桜の樹の下の目標物を確認してくすりと笑う。 「エクセレン?」 「なぁに?」 「ん、別に…て、あぁ!あなた、また振ったんですって?」 「…耳が早いわねぇ」 突然、思い出したように告げる言葉に、目を丸くする。 「もう、学校中の噂になってるって」 「あらら」 苦笑する。自分の行動が逐一噂になるのは勘弁して欲しいと思うのが半分、それも仕方がないと思うのが半分…といった心境だろうか。 「今回のだって、かなりいい男だったじゃない。どこが不満なわけ?」 「ん〜。ちょおっと好みじゃなかったのよねぇ…」 友人の言葉通り、確かに顔はそこそこ良かったと思う。背もなかなか高く、成績も良い…らしかった。もっとも、学年TOP、校内成績塗り替え中のエクセレンにしてみればどうでもいい話ではあったが。 「うっわ。ゼイタク〜。…ねぇ、ぶっちゃけ、どんな男だったら良い訳?」 「いい男は皆好きよん?」 「…の割に片っ端から振ってるじゃない」 「そうだった?」 しれっと言ってのけるエクセレンに軽く肩を震わせる。エクセレンが声をかけてくる男を軒並み振ってしまっているのは校内では有名な話で、しかもその敗退者の中には教官すらも含まれるとまことしやかに囁かれていたのだ。 「そうなの!…ったくぅ…。」 呆れたような口調だが、嫌味は含まれていない。更に、 「で、どんな男が好みなの?具体的に言いなさい?」 頼まれてるのよ、お願いね。 等と続けられては、エクセレンも笑うしかない。 「ん〜…。具体的に…ねぇ…」 悩むフリをしながら、視線を桜の樹の方へ戻す。優しい風が、ちらちらと花びらを散らせているのが目に映る。 「そうよ。もし、相手とかいるなら、固有名詞でもOKよ」 「…PTの模擬戦で、私に勝てる人…ってコトで。…不正はナシよん?」 「…訓練生で、あんたに勝てる奴、見たことないわよ」 「そうでも…ないと思うわよ。例えば彼…とかね」 肩を落す友人に、聞こえない程度に呟いた。 「…そういえば、訓練生時代は一度も当たらなかったわねぇ…」 肩に寄りかかるようにして眠っている恋人に囁く。 密やかな声は相手に届かなかったらしい。身動き一つ取らない。 「……風邪引くわよキョウスケ?」 そっと肩を揺すり、優しく起こす。幾らなんでも、春先に外で寝かす訳にはいかない。戦闘指揮官を風邪でダウンなぞさせられない。 「…夢か」 「何、夢見てたのぉ?」 うっすらと目を開け不思議そうに呟く相手の顔を覗いてみる。 「ああ、それもかなり懐かしいな」 月明かりに浮かぶ桜を眩しげに見詰めながら言う科白に安堵の息を漏らす。 「ねぇ…どんな夢を見たの…?」 |