「…キョウスケは、どんな女が好みなんだ?」 さやさやと風が木々をゆらす。相変わらずこの二人はそこに居た。 「…手のかからない女」 さも興味がない、といったように読んでいる本から視線を逸らさずに告げる。 「お前、そんなの居るわけないだろ」 「いないのなら話にならん」 「そんなんじゃ恋なんてできないぞ」 言いながら、キョウスケの手から読んでいた本を取り上げた。 「…恋なんて、必要ないだろう」 溜息混じりに言う。 「どうしてそう俺に絡むんだ」 「だって、お前淋しそうな顔するから」 唐突にそう告げられてキョウスケは返す言葉を失った。 俺が、淋しそうな顔?自然と目が点になる。 「…違うか?」 真顔で言われ、ふと考える。…確かに、クラスにいるのが億劫で休憩時間はたえず外にでて読書に耽っていた。 だが、それは淋しいからでは決してない。ただ、面倒なだけだった。人と付き合うのが苦手なだけ。ただ、それだけだった。 「俺の目には、お前の姿は「淋しがり屋」にみえる」 本の背を指先代わりにキョウスケの鼻先に触れる。 「クッ…クククククッ…」 あれこれと考えていくうちに何故か可笑しくなった。 「キョウスケ?」 笑いが止まらない。 「あははははははははははは」 しかし、その笑いは空笑いとなり、やがてとまる。 「キョウスケ?」 「そうか、俺が淋しそうか。…かも知れんな」 ふぅ…っと、息を吐きながらキョウスケは芝生に寝転んだ。 「俺にそんな事を言ったのは、お前が初めてだ。クラスの奴等は、模擬戦以来俺を避け続けているからな」 無理もない。実弾を含んだ模擬戦で、皆キョウスケに首の皮一枚にされているのだから。 「そうだ、おまえの名前…何と言うんだ?事のついでに、教えてくれ」 もうすぐクラス替え、もしかするとこの男と同じクラスになるかもしれない。いや、多分この男と同じクラスになるだろう。この男の模擬戦の記録は知っている。わざと一年留年している事も…。 「あ〜!俺の名前今まで全然判んなかったって事かよ!?」 思わず頭を掻きながら座り込む。 「…まあ、そういう事だ」 「おまえなぁ…」 それでも、先手を取られたという表情のまま笑う。 「エクセレン・ブロウニングと、居たかったからだろう?」 途端、真っ赤になって動揺する。 「なっ!!なんでっっ!!」 「あの女と付き合おうっていうのなら、一筋縄ではいかないらしいぞ」 声をかけた男は、皆悉く振られているという噂も聞いている。敵は、難攻不落城、攻めるも落とすも難しい。 「じ、じゃあキョウスケ。俺と賭けをしろ!!」 「賭け?」 「ああそうだ。俺とお前、どっちがエクセレンと付き合えるかだ!!」 その言葉に、キョウスケはにやりと口元を引き上げて笑う。 「分の悪い賭けだな」 「分が悪い…って、おい?まさか…??」 「……風邪引くわよキョウスケ?」 肩に暖かい感触を覚えてふと我に返る。 「…夢か」 「何、夢見てたのぉ?」 「ああ、それもかなり懐かしいな」 月夜に浮かぶ夜桜を眩しげに見つめながらぽつりと呟いた。 桜は、忘れていた思い出を芽吹かせる。 風に枝が揺れる度、花吹雪が空に舞う。この花吹雪も、やがて桜の木全体から降り注ぐのだろう。 |