PRESENT





久しぶりの非番を利用して買出し部隊に出ていたキョウスケとエクセレン。
キョウスケは頼まれた物をリストアップして渡されていたのだが、
エクセレンはエクセレンでキョウスケとのデートが出来ると喜んでいた。
「……後は、アイナの『納得簡単誰にでも作れる料理の本』と、豹馬と甲児と、雅人に頼まれた『夜のお供』……なんだそりゃ?」
良く見ると、メモの端の方に小さく本のタイトルが書いてあった。
「…ええと、『禁断の檻』。これは、雅人の字だな、読みやすくて助かる」
本棚を眺めてすぐに見つける事ができた。しかも、新刊だったらしくかなりの量が置いてある。さて、次は。
「……と、あ?何だこれは?メ……メイド、ち…調教か?汚くて読みにくい」
仕方が無い。このキーワードで本を探すしかないだろう。
「メイドメイド…。あ、あったこれか?『メイド調教マニュアル』」
メモと照らし合わせると、ミミズの這い蹲った字で『マニアル』と書いてあるようだ。これで、2冊目発見。
「あとは…甲児の……いん欲?はいせん?配線図?」
どう考えても配線図が、『夜のお供』な訳は無いだろう。
「仕方が無い、店員に聞いた方が早いなこれは」
顔を上げると一斉に周囲がそっぽをむく。なんだ?何か遭ったのか?
「キョウスケ、アイナの本在ったわよ。これでしょ?『納得簡単誰にでもできる料理の本』」
「あ、すまん」
「わお、キョウちゃんたら大胆な本買うのねっ」
「馬鹿を言うな。これは、リストに書いてあったものだ。ああそうだ、この字読めるか?」
「どれどれ?…………」
どうしたんだ?何でタイトル教えてくれないんだ?何無言になったんだ?指差してる?あ?あれか?『淫欲感染』?配線図じゃないのか。エクセレンが探したのだから、間違いは無いだろう。まあ、間違っていても『夜のお供』には違いないだろう。
「ちょっと、どいてろ」
結構分厚い。本棚の一番上から何とか引っ張り出して頼まれた物の上に無造作に乗せた。
なんだろう、心なしか周囲の視線が痛いのだが・・・・・・
「外で待ってるから、早く会計済ませてきてね」
「ああ判った」
会計に行く途中にあるゲーム攻略本コーナーにリュウセイの探している本も見つけたのでそれも拾い上げて行くことにした。


「後は、食料品と支給が間に合わない医療品か…」
しかし、時期が時期なせいか人が多くて鬱陶しい。避けるのも嫌になる。
「とっとと、買い物を終了させて、基地に戻ろう」
返事が無い?
「おい、エクセレ……」
居ない。可笑しい。何処かに忘れてきてしまったのだろうか?
「…あれ?」
傍らにいたはずのエクセレンの姿が無い事に気がついて周囲を見回した。
周囲を見回すと、居た。宝石店のショウケースの中を覗き込んでいるエクセレンを見つけた。
 全く、女というのはどうして『宝石』『毛皮』『バッグ』が好きな生き物なんだろう。武具相違という言葉を知らないのだろうか。まあ、エクセレンに宝石が似合っていない訳ではないが宝石なんて買って帰ってみろ。連邦の頭の固い連中に何を言われるか判ったもんじゃない。レインが着けていたイヤリングや、アヤが着けていたピアスですら文句言われていたのだ。  一目置かれているとは言え、エクセレンだって例外じゃない。いや、一目置かれているからこそ、何を言われるか判ったもんじゃない。
人の波をかき分けて、穴が開くほど食い入る様に覗いているエクセレンの背後に到着したものの、余りに真剣に見ている所にどう声をかけていい物か迷ってしまう。
「おい、エクセ………」
「あの、紅い石、綺麗。…え…と、ファイアオパール?ああ、だから綺麗な色なんだ。でも、こんな真紅って珍しい。小さいは小さいけど、もう1つの方はオレンジだしなぁ…」
 何?どの宝石を見て言っているんだ?…宝石じゃないのか?
ショウウィンドゥの上に『ピアスコーナー』と派手な文字で書いてある。
  「ガーネットの深紅も好きだけど、これはまた別よぉ。この鮮やかな紅と複雑な色がいいのよぉ。んー。どうしようかなぁ?金額は、手頃よねぇ。でもなぁ、オパールは脆いのよねぇ」
何をぶつぶつ言っているのだろう。…?オパール?あの、意外と脆い鉱物の事か?どれを指していっているんだ?ここからじゃ、ちょっと見えないから判らん。
「…ちょおっと、欲しいかなぁ…。でもなぁ、お金無いし…。うぅっ。オパールじゃなきゃ諦めつくのにぃ。手が出ない程高ければ、何の葛藤もないのにぃ。この値段。この値段がいけないのよぉ。どうしてこんなに手頃な価格なのよぉ」





後ろから見ていると心の葛藤が眼に見える様で愉快なんだが、ぼーっと、眺めている訳にも行かない。
「…エクセレン。エクセレン!」
一度目は柔らかく、二度目はやや強めに呼ぶ。
「…え?あ、キョウスケ」
「ついて来ないと思ったら、こんな所で何してる」
「ピアス見てたの」
「…山程持ってるくせにまだ欲しいのか」
「こういうのはいくつ有っても良いの。TPOと気分で使い分けるんだから」
「…そうか」
 だからか、昨日とは違う色のピアスをしている。金色の髪に見え隠れする。確か、ブルートパーズとかいうやつじゃなかったかな。万丈の様に敢えて言わないから、気が付いていないと思っているだろうなきっと。
 …柄じゃないんでな。
「ごめんね」
「いいのか?」
 そう簡単に諦めきれるものなら、ああまで真剣に見ていないだろう。
  「うん。…余分なお金持って来てないし?今日は別に買うものがあるのよん」
「そ、そうなのか」
  何か、やけに『熱血』がかかっていると思うのだが、気のせいだろうか
「…おい…」
「キョウスケ!私、あそこのドラッグストアに行って来るから!!」
「あ、あぁ」
 押された。疑問は残るが、詮索する気は無かったので頷く。
「…でね?出来たら20分後位に迎えに来て欲しいんだけど…?」
 …俺に言えない物?お、オムツか?…いや、介護用品を必要としている人材は基地には居ない筈だ。俺と居ると買うのに憚る物……。と、いう事は……。詮索するのをやめよう。言ったら、殴られそうだ。
「解った。20分後だな?」
時計を確認する。
 加速がかかった様にエクセレンは先にあるドラッグストアに飛び込んでいった。




  「……さて」
改めてショウウィンドゥに向き直る。色とりどりのピアスが並べられていた。
「確か…、オパールと言っていたな」
 エクセレンがぶつぶつと言っていた言葉を記憶の底から呼び起こしながら手元から上に向かって視線を巡らせると『ファイヤーオパール』が眼に入った。
「…2種類あるのか…。確か、」
 紅い色が珍しいと言っていた筈だ。見ると、確かに珍しい色をしている。俺の目から見ても、その紅い色はライトアップされている高価なピジョンブラッドとも、ガーネットとも、ルビーとも着かない何とも幻想的な色だった。
「…まあ、たまにはいいんじゃないかな」
 金額は、妥当である。ただ、プレゼントとしては安値かも知れない。それでも、欲しい物をプレゼントされる恋人の顔と言うのをたまには見てみたいと思った。
「すいません、これを見せて下さい」
「あ、はい」
「どちらで…?」
「こっちの、紅いファイヤーオパールを」
 販売員が、ファイヤーオパールがいかに珍しいかという説明をしている。聞く気もないから聞き流す。そんな説明、聞けば延々とエクセレンがしてくれるだろう。
ああ、もうそろそろ待ち合わせのじかんだな。それにしても、包装に時間かかってるなぁ
どうやらリボンに困っていたらしい。手提げ袋にいれてくれようとしたのを敢えて断って、ジャケットのポケットに無造作に突っ込んだ。



「……そろそろ、時間だな」
「きょ・お・す・け」
「終わったのか?」
「ん。ほら見て、これ。凄いでしょ?」
 両手一杯のビニール。量の多さに肩を落とさざる得ない。車に乗り切るだろうか
「…何買ったんだ」
「んー、大事なものよぉ。でも、私の分だけって訳じゃないし」
「そうか」
 このかさばりようは、十中八九間違いなく『あれ』だろうが、言わぬの親切というものもある。
 この量を持たせる訳にもいかんだろう。右手にそれを全部持ち、左手に先程買った物を全て持つ。微妙なアンバランスさが気に入らないが、持ち替える気もないのでこのままである。
  「ねぇ、腕組んで良い?」
 言いながら腕を絡めておいて、それはないんじゃないか。
「…少しだけ、だぞ」
「はぁい」




   基地から駐車場が微妙に遠い。
車のキーロックはエクセレンに任せて、トランクから荷物を取り出す。ああ、やっぱり重い。これだけの量、きっと買占めに近い状態なんだろうなぁ
「持ってくれてありがと。皆に配ってくるわね」
「あぁ」
 言われるまま、床に置く。まさか、ここで分ける訳じゃないだろうな
 何か考えているみたいだが……。
「えっと…。これは右でこっちは…ちょっと大きいわねぇ。これとこれは同じ袋に入れて…」
 やっぱり。何か悩んでいる。口に出さなくても、仕草を見れば判る。
「…エクセレン」
「…なぁにぃ?…キョウスケ?別に付き合って待っててくれなくても大丈夫よぉ?」
 言葉と態度が裏腹だと思うんだが…。
「…持ってってやる」
「え?でも…」
「お前の部屋までで良いんだろう?」
 まさか、ミッションルームとか、医務室とは言わんだろう。
 ひょいひょいひょい…っと、引っ掛けて持ち上げる。
「行くぞ」



「あ、キョウスケ。買ってきてくれた?」
ああ、甲児だ。…一人か。なら、確認しても大丈夫だな
「ああ。もちろん買ってきたぞ。後で渡してやるよ。確か、『淫欲感染』だったよな」
「うわっ!馬鹿!キョウスケ!!」
 あ?何慌てているんだ?
「甲児君!!!!!!!」
 なんだ、後ろに居たのか。すまん。不可抗力だ。


「ありがとう。テーブルの足元においてくれて構わないから」
「ここだな」
「じゃあ、俺は残りの荷物を置いてくる」
「うん」
 右手に本を持ち、左手に医療用品を持ってドアまで歩いて、ふと、ポケットに違和感。
ああ、忘れるところだった。
「エクセレン」
 本を脇に挟み、ジャケットのポケットの中に手を入れてそれを掴むと、そのままエクセレンに投げる。距離がそんなに無いから、落とさないだろう。多分。
「な、なになになに?」
 ほら、やっぱり驚いている。まあ、中身が何だか判らずに驚いているんだろうけどな。中身をみたら、もっと驚くんじゃないのかな。
「やる。じゃあな」
「ちょっ、ちょっときょうすけぇ?」
 俺が居なくなった部屋で今すぐしなければいけない事も忘れ、いそいそと箱を開けた時の表情、それを着けて現れるエクセレンの表情を想像すると、ちょっとだけ可笑しい。でも、その表情をみて、無表情さを装うであろう自分にも笑いが込み上げる。
 恋人が綺麗しているのを気が付かない程、鈍感じゃない。
 が、敢えてそれを言葉にして言える程巧妙でもない。
「さて、レインとアイナの居る医務室に先に行くとするか」
 俺は、不器用かも知れない。
だが、幸せな表情を見るのは、きらいじゃないから。



END



ちっとだけコメント。
PRESENTのキョウスケver.です。
エクセレンver.(途中まで)を送りつけたら書いてくれました。
そしてZappingな合作が出来上がりました。
…実際、ちょっと目を離した隙に買ってくれてかなり驚かされました。
そういう訳で、元だったエクセレンver.は こちらから。



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