「…あらら…。痛そうねぇ」 ベッドに突っ伏すキョウスケに、エクセレンが笑いを含みながら言う。 イルムに緊急事態だと呼び出されて、慌ててキョウスケの部屋に来てみると、辛そうにベッドに転がったキョウスケと笑いを堪え切れずに肩を震わせているイルムが居たのだ。 しかも、聞いてみると『ぎっくり腰』だという。エクセレンとしてみれば、心配と可笑しさで他の感想は出ない。 「うるさい」 「そゆ事言ってると、皆に暴露らすわよぉ?」 「う゛」 くぐもった声に冷ややかに反撃すると、返答に窮するキョウスケが不満そうに黙る。 「…ま、そういう訳だから、な」 「はいは〜い。キョウスケの面倒はばっちり、見ちゃいますよん。でも変ねぇ…、昨日はそんなに激しい事してないのに」 「ほ〜。いつもはそんなに激しいのかぁ?」 「そりゃあ、もうvv」 「エクセレン!」 くくく…と笑うイルムに機嫌良く返事をして。よしよし…と言いながら、キョウスケの頭を撫でる。ついでに、言わなくても良い事を言うのも忘れない。 対して、本人は身の置場がない心境なのだが、身動きの取れない状態では仕方がない。せいぜい怒り混じりの唸り声を発するのとどまる。 同情半分、面白半分の二人のおもちゃになるは必定というモノだろう。 「…で、イルム中尉ったらどうやってこの大荷物を運んだんです?」 「あ?それか?それはな…」 「イルム中尉!」 エクセレンの素朴な疑問に嬉々としてイルムが答えようとする。それを、キョウスケが咄嗟に遮った。 「な、なぁに?キョウスケぇ?もしかして、聞かれたくないのぉ?」 あまりに鋭かった声に、エクセレンが目を見開く。もっとも、声を出した本人は身体に走った激痛に耐えかねて、枕に沈んでしまっている。 「くくっ…。そりゃ、知られたくないわな。あんなのは」 「そんな面白い事したんですか?」 「したした。…あのな、こう、横抱きに…」 身振りを加えて話すイルムにエクセレンの瞳が輝きだす。 「いやん。それって所謂お姫様抱っこ?」 「そうそう。いや、俺もさぁ…どうせならお前さんみたいに触り心地の良さそうな女の子が良かったんだけどなぁ……っぐ!!」 いきなりイルムが体勢を崩し、エクセレンに倒れかかる。 「きゃあ。イルム中尉ったら大っ胆♪」 どうやら枕が飛んできたらしい。床に転がるそれを見てエクセレンが苦笑する。 「…うん。やっぱ、お前さん、抱き心地良いわ。…特に胸の辺り」 偶然とは言え抱き着く体勢になったイルムがそのチャンスを逃す訳もなく、しっかりとエクセレンの抱き心地を味わう。 「あらん。リンしゃっちょーさんに言っちゃおーかしら」 「…うぐ。……ところでキョウスケ。そんなもん投げたら避けるぞ。避けたらエクセレンに当たるぞ」 爽やかなエクセレンの科白に言葉を詰まらせるものの、キョウスケの対する牽制は忘れない。壁になっていたイルムの身体から離れると、花瓶を構えているキョウスケが目に入った。 「……」 「どしたの?キョウスケ」 「…別に」 僅かに目が据わっているように見えるキョウスケに枕を返しながら訊ねると、不機嫌そうに逆を向いてしまう。 「おー、怖。じゃ、取り合えず俺は戻るわ。後頼むな」 「はいはい」 「あ。そうそうエクセレン」 「はい?」 「夜、空けとくから」 「…中尉」 イルムの発言にキョウスケが地の底から出したような声をあげる。…ただし、身動きの取れない状況では、他の人物ならともかく、イルムに効き目はない。 「だってお前、暫く安静だろ?独り寝は淋しかろうと思ってだな…」 「……」 「…動くと悪化するわよぉ?キョウスケ。治ってからにしたら?…イルム中尉も、怪我人揶揄っちゃ駄目ですよん」 再び花瓶を構えたキョウスケと、にやにや笑うイルムにエクセレンが言う。 「くっくっく。…じゃ、戻るな。ま、淋しかったらいつでもOKだから」 言いながら出て行くイルムの後ろを、枕が追いかけていった。 「キョウスケ」 「何だ」 「怒ってるの?」 「別に」 「妬いてるの?」 「…」 「どこにも行く訳ないでしょ?」 「…」 「こんな楽しい状況のキョウスケ、滅多に無いんだから」 「腰に負担掛からない程度なら、添い寝してあげちゃうわよ」 |