「よし、これならいいだろう」 身体を起こした瞬間 「うっ…!」 膝から力抜けた様にがくりと床に崩れ落ちる。 「あ」 激しい痛みが全身を襲う。 「ぐうぅぅ…」 立ち上がろうにも立ち上がれない。 「…おい。待てよ…」 アルトの足を伝いながらゆっくりと立ち上がろうとあがいた。 どうにか立ち上がる事はできた。しかし、足が前に進まない。 少しでも身体を動かそうものなら、言い知れぬ激痛が全身に疾り立っているのもままならない。 「ぎ…、ぎっくり腰だとぉ?」 頭に浮かんだ一つの単語・病名。 真っ直に立とうにも、立てない事、歩きだせない事、激しい痛みから推測するに、この病名意外に弾き出されるものはないだろう。 「ま…、マジかよ」 座る事も歩く事もできなければ、アルトで出撃は不可能である。 それだけは避けたかった。だが、動けない以上自分は足でまといになる。 「ど…、どうする…」 「どうしたキョウスケ?」 ポンッと、肩を叩かれた瞬間、激痛に呻きそうになるのを必死に堪えて振り返った。 「イ、イルム中尉」 「おう、どうしたんだ?」 遠くから見ていたらしい。挙動不信だったので足を運んだのだと言う。 「こ…、腰が…」 待てよ、と思う。この人に話しても平気だろうかと考える。 「腰がどうした?」 どう考えても利害比率は害が多い。 「あ、いや、何でもないです」 取り繕うと動いた瞬間、激しい痛みに思わず呻いてしまった。 「………。キョウスケ、おまえ…」 突然腰を触られる。刹那、痛みに耐え切れず地面にへたりこんでしまった。 「な、…!」 何が起こったのか理解できずに慌てながら呻くキョウスケを眺めながら、 「ぎっくり腰かぁ」 しれっと言う。 「そ…んな事、判ってますよ!」 痛みに耐え切れず、悪態を付いてしまう。 「医務室行くか?」 行かれるものなら、こんな所でのんびりとしていない。動けないから困っているのだ。 「連れてってやっか」 言うなり、ひょいっとキョウスケの身体を抱き上げた。 「ぎっ…」 いきなり抱き上げられてパニックを起こして暴れる。 暴れたせいで腰に激痛が疾り、脂汗が吹き出す。 「おとなしくしていろ」 流石に男を抱き抱えて歩くというのは、絵にならないと呟く。 「ぐうぅぅ…」 振動が腰に響くせいで、思わず呻いてしまう。 「腰だけは大事にしろよ。腰は男の命だからな」 「肝に銘じておきます」 その後、数日間ベッドからでれなかったキョウスケだった。 |