Halloween


 暑かった夏も終わり、ようやく涼しくなりました。
 十月も、もうすぐ終わります。
 そして今日は、何故か授業はなくて、朝から家庭科室に居たりします。


─────────── …は?」
「今、言った通りだが」
 アンコちゃんの茫然とした表情に、ゲンマ部長のしかめっ面。いやでも、アンコちゃんの反応が正しいと思います。
「だって、今、何て言ったの」
…本日、ただ今より、我が家庭科部は、合宿に入ります
なんで?!
「明日がハロウィンだから」
 …
 ………
 ………………

「はいぃ?!」


 …アンコちゃんじゃなくても、びっくりすると思います。
「仕方ないだろ。理事長のお達しだし。何せ、間に合わん」
「何が間に合わないのよ」
「パイ作り」
 …へー。パイ作り。…って、え?まさか。
「…ゲンちゃん。すんごぉく、訊き辛い事を訊いても良い?」
「その呼び方に異論はあるが、構わんぞ」
「もしかして、この大量の南瓜(丸ごと)と、小麦粉、卵達は…」
「ハロウィン用、パンプキンパイの材料」
 …材料って…尋常じゃないんだけど。
 ピラミッド型に山積みになってる南瓜なんて、そうそう見られるモノじゃないと思います。
 他にも、小麦粉や卵、お砂糖、お酒(…ラムと日本酒かな?)、醤油などなど。…アンコちゃんが雄叫びをあげても、仕方がないような気がする。
「仕方ないだろ。近隣の保育園、幼稚園、小学校なんかがハロウィンパレードするんで、協力する事になってんだよ」
「だからって」
「イベント事は理事長達の好む所だし、ご近所中の学校総出だからな。配る菓子や、食べさせる菓子がないとカッコつかねぇんだと」
 なんだかなぁ。
「…ツナデサマバンザイ」
「おう」
 アンコちゃんが負けてる。
「それで、出し物や学内の設備なんかは他の部の生徒達がやるんだが、肝心の菓子作り要員は部員しかいないんだ」
「…マジデスカ」
「全校生徒、漏れなく部活登録済だからな」
「幽霊部員達は」
「大蛇丸先生が捕獲後、演劇部と合同で、現在、鋭意仮装用衣装作り&持ち帰り用菓子のラッピング」
「…あ〜…。そう言えば、昨日、大量にカボチャクッキー焼いてたわ」
 元々、中学・高校込みでの生徒数も多くないし。そこまでしても間に合うのかどうか…って、もっと早くに教えてくれればよかったのに
「パイの日持ちの問題だよ。持ち帰り用は、昨日、一昨日、俺と大蛇丸先生で手分けして作ったんだがな」
 足りない分を先生が家で作ったんだ。
 そう、続ける部長は、よく見ると、かなり憔悴してたりして。
「あの、部長、もしかして…」
「一昨日から、徹夜で菓子作り中。…授業も出てない」
 うわぁ…。
「そんな訳で、時間が惜しい。俺とハヤテがフィリングを担当するから、そっちはパイ生地を作ってくれ。小麦粉がなくなるまで」
「ら、らじゃ」
「ハヤテ、片っ端から南瓜をレンジに入れてけ。固いのを切る気力はない」
「はい、先輩」
 た、大変だぁ…。
「あー、もぉっ。イルカ、やるわよ!」
「う、うん」
 急げっ。


「腕だるーい」
「もう、粉ないよ」
「ほんとに?!」
「うん。今、やってるので終わり」
 山程の小麦粉も、使っている内になくなって。全部、冷蔵庫の中でお休み中。部長とハヤテのフィリングチームも、やっと最後の仕上げみたい。
 …いくら軽くレンジで温めたからって、南瓜の皮を向くのは重労働だと思う。元は丸のままだったし。
 とはいえ、これからまだ仮焼して、フィリングと合わせて本焼して…本当に、朝までに終わるのかなぁ…。
「お疲れさん。少し休んでて良いぞ」
 フィリングの仕上げをハヤテに任せた部長が、南瓜を煮るのに使ってたオレンジジュースをくれる。
「ありがとうございます」
「んー」
 言いながら、一番冷えた生地を取り出して、早速伸ばし始める。…ラップに通し番号を書けって言ってたのはこの為だったんだ。
「お〜。流石ねー。…ぶちょー、パティシエにでもなんの?」
「それもありだなぁ」
「そしたら常連になるわ」
「従業員じゃね」
 …そしたら、雇って貰おうかなぁ。




「…朝ですね…」
「…朝だね…」
「…太陽がパンプキンパイに見える〜」
 …確かに似てると思うけど。
 それはないよ、アンコちゃん…。
「ご苦労さん。パイは各自1ホールは持って帰っていいぞ。それと、きんぴらと種」
 …使わなかった皮をきんぴらに。種は乾煎りしておつまみ…。部長、働き過ぎです。
「まぁ、それも下校までお預けでしょー。それに、いくらなんでも、きんぴらと種、多過ぎじゃないの」
「大丈夫。大半は理事長達に廻るから」
「あ〜。じゃあ、今日は大蛇丸帰って来んの遅いわねー。…襲撃しよ」
「…アンコさん…。イビキ先生のご都合は…」
「いーのよ。Trick or Trickで」
 …流石、アンコちゃん。
「それより、朝食とかどうします?」
 そういえば、昨日のお昼から全然食べてない。言われるとお腹空いちゃうなぁ。
「…学食も開いてないしな…」
 あ〜ぁ。









「…お疲れ様。大変だったねぇ」
「…先生」
 大盛況のハロウィンの後。(パイは、その場で瞬く間に子供達に食べて貰えました。保育園の先生とかにも大人気で、本当に良かった)
 金曜日だったので、先生のお家に来て。
 昨日からの騒動を話したら、思い切り笑われてしまった。…知ってたクセに。
「もーぉ、しばらく南瓜のお料理、したくないです」
「えー。先生、南瓜好きなんだけどねぇ」
 先生は、外見に反して和食党です。
「…だって」
「きんぴらもパイも美味しかったよ?」
「う〜…。じゃ、平気になったら作ります」
「ありがと。…で、イルカ?」
「はい」
「何か、言う事ない?」
「え?」
「これ」
 ちらちらと先生が振るのは、可愛い包み。
「ほら」
 えっと。これは、だから。
「Trick or Treat?」
「Treat」


Halloween。
先生は、可愛いアクセサリィと、Kissをお菓子代わりにくれそうです(笑)
たーだ、長いだけでした。すみません。リハビリ中ですっ。

目次←