8月です。日本全国、学生さんは夏休みです。
ちゃあんと、真面目に、それなりの成績キープしたし、大量の宿題だって、頑張って7月中に終わらせました。
なのに。
全然、遊びに行けません。
だって。
先生が、全然遊んでくれないんです。
「…つまんないの」
先生のおうちのリビングに座り込んで、口の中で小さく呟く。手元には、読みかけの小説と、アイスティー。
先生は、お隣で資料と書類とにらめっこ。
うん。まぁ。お仕事中なのは判ってるんだけどね。
横顔、カッコいいし。
先生用のコーヒーは、この暑いのにホット。しかもエスプレッソ。凄く苦い。
…先生の話によると、エスプレッソは普通、お砂糖いれるらしいんだけど、先生はノン・シュガー。よく飲めるなぁ…と思う。
いつもは、先生がマキネッタ(直火式のエスプレッソ用急須・安価)やエスプレッソマシン(種類はたくさん。先生のは、レバー式。La Pavoni社って有名なメーカーのらしい)で淹れてるんだけど、忙しいから代わりに淹れてあげてる。
エスプレッソマシンは、難しいので、マキネッタで。…こだわりのある人って、時々面倒だな、と最近思う。
「…退屈そうだねぇ」
「ふぇっ」
顔を上げないまま、苦笑した声。…気付いてるなら、こっち向いて欲しいのに。
「…別に、平気です」
「そぉ?」
くつくつ笑うのが、ちょっとムカつく。…どうせ構ってくれないクセに。
「その本、読み終わったの?」
広げっぱなしの本は、昨日から公開されてる映画の原作。テレビのCMで興味を持ったけど、どうせ映画に行けないなら、原作読もうって、思ったの。
だって。先生、お仕事ばっかでつまんないんだもん。
「まだです」
「ふぅん…。面白くないの?」
「面白いですよ」
うん。すごく引き込まれる。この作家、結構好き。
…先生の本棚にいっぱいあったし。この本も、先生の本棚から見つけたし。
「その割にページ、進んでないみたいだけど」
「…だって」
読書は嫌いじゃないけど。
でも。
一緒に居るのに、一人はつまんない。
「…カカシ先生、お仕事終わらないの?」
先生って、他の大人の人と違って、夏休みいっぱいあると思ってたのになぁ…。
「んー。もうちょっとかな」
「そっか。…今日、ご飯何が良いですか?」
もうちょっとしたら、ご飯作ろう。…先生、お酒飲むかな?おつまみみたいなのが良いのかな?
「イルカが作ってくれるなら、何でも良いよ」
それ、一番困るんだけどなぁ。
「はぁい」
まぁ、良いや。
一緒には居てくれるんだし。今度、花火連れてってくれるって言ったし。折角だから、浴衣、自分で縫ってみようかなぁ…。暇だし。部活で習ったもんね。
よし。明日は生地買いに行こう。アンコちゃん誘えば付き合ってくれるかもしれない。
「…あ、そうそう」
気合を入れなおして、ご飯の材料の確認をしようと立ち上がったところで、思いついたように言われる。
「センセ?」
「その本、読み終わる頃には仕事も終わるから、そしたら映画に行こうか。…旅行も連れてってあげるよ」
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