週末は恋人





 …


 ……


 ………


「…はい?」


 目を見開く。
 アタマが真っ白になる。
 突然、何を言い出したんだろう、この先生は。
「週末は、うちにおいで。放課後、一緒に過ごすのも良いね。誰にもナイショだよ?バレたら大変だから」
 くつり。
 口に人差し指を添えて、愉しげに言われる。
「…恋、愛?」
「うん」
 問えば笑顔で肯かれる。
「誰と」
「俺と」
 指は正しく本人を指して。悪戯っぽく鼻の頭を突く仕草がどこか子供っぽいな、と思う。
「誰が」
「うみのさん」
 次は自分の胸元を指差される。長くて骨っぽい指が軽く触ったのに、胸がドキン、と音を立てた。
「それ、悪い事?」
「教師と生徒の恋愛はフツー、犯罪」
「はんざい」
 言われる科白を繰り返す。
「究極に悪い事、でしょ」
「でも」
 それは、先生にとってで、生徒である自分には関係ないのではないだろうか。
 反論しようと口を開きかけたところに長い指先が触り、言葉を止められる。目の前には深い、笑み。
「少なくとも、淋しい事はなくなるから」
「でも」
「ほら。俺に惚れちゃいなさい。返事」
「あ。ハイ」
 返事を促され、つい、肯いてしまう。
「ん。決定。…じゃ、取りあえず午後からの授業は出てね」
「え」
「あ。うちまでの地図、渡したいから、6限の俺の授業、出てね」
「あの」
「返事」
「ハイ」
「はい、これ約束」
 ちゅ。
 可愛い音と一緒に、何か柔らかい感触。そして、なんとなく感じる妙な味。
「…ニガイ」
「煙草の味だからねぇ」
「せ…せんせ」
「そうそう。昼飯、食いなさいよ。最近、メシ食ってないでしょ」
「ちょ…」
「じゃ、後でね」
 ひらり。
 給水塔のある、屋上の出入り口の上から綺麗に飛び降りるのを茫然と見て。ひらひらと手を振りながら出て行くのをそのまま見送ってしまう。







「…どうしよう…」



2← →4