「カカシ先生似合〜う」
「そお」
「すげぇ、カッコイイってばよ!」
「ありがと」
「まんま、吸血鬼だな」
「そう、言われてもねぇ」
木の葉の里でも、ここ近年流行りだしたイベント。
ハロウィーン。
元々の意味はさておいて、誤解曲解を経て木の葉に定着したそれは、完全に子供の為のお祭りで。
当然、アカデミーでも採用されている。
アカデミー職員達が趣向を凝らしたそれは、参加者全員仮装で参加。
アカデミー内だけでは勿体無いと、三代目火影の号令の下、ご近所の、就学前児童も含めたこの一大イベントは、当然職員だけでは人が足らず、新米下忍達の出番となる。
アカデミー時代から参加して来たイベントだけあって、上忍師を置き去りに、下忍達の浮かれっぷりは天井知らずで。今回の彼らは任務の役に立たないことを溜息一つで容認しつつ、上忍師達も仮装の仲間入りをしていた。
曰く。
七班は吸血鬼と蝙蝠達。
小説や何かに出て来る、イメージ通りそのものの正統派吸血鬼の姿のカカシに、背中に蝙蝠の羽をあしらった、小悪魔的な格好の子供達。
八班は魔女と使い魔。
真紅のドレスを纏った、麗しの魔女の紅に、黒猫の耳と尻尾をつけた子供達に、何故か本物の犬が猫の仮装をして可愛らしく混じっている。
そして十班は、狼男とその一族。
…間違いなく、本物と誤解されそうな狼男に扮したアスマに、狼の耳と尻尾をつけた子供達。ちょっと太目の狼がいるのはご愛嬌。
この衣装。
決めたのは当然子供達で、上忍師達は言われるままに衣装や小物を用意させられた訳だが。
それぞれ、形は違えど同じ弟子バカ揃いの所為か、文句の一つも出ていない。
「可愛いわねぇ」
「…おう」
「アカデミー生と同化しちゃってまぁ…」
不審人物が侵入しないか、目を光らせると同時に、自分達の弟子の姿を眺めては笑ってしまう。
何だかんだとお祭り好きで子供好きな木の葉の体質の所為か、彼らが神経を尖らせるまでもなく、わざわざアカデミーを通りすがるの忍達が半分、パトロールに参加しているような状態なのである。
つい、可愛い弟子達に目が行こうというもの。
「まぁねぇ。卒業してから、一年経ってないんだもの。まだまだ、同レベルよね」
「能力と中身は成長スピードが違うからなぁ」
「んー。あいつ等が楽しければ良いよ」
否定出来ないまま、壁の花に徹する上忍師達。周囲から送られてくる愁波なぞは気がつかない振り。
お菓子を、去年までは貰う側、今年は配る側へと立場を変えた子供達を見るので手一杯なのである。それに、どうせもうすぐこちらに走って来るのだ。
「せんせーい」
「とりっくおあとりーとぉぉぉぉぉぉ」
「だー!焦らなくてもやるから、突撃してくんなー!!」
「はいはい、お菓子よー」
「配るだけじゃなかったの?」
自分達の弟子と、アカデミーの子供達の大群。はっきり言って、大人に関わっている暇がないのも事実だったりする。
「やれやれ」
夕方、イベントの片付けまで手伝った後、子供達から開放され。
そのまま、扮装を解く暇もなく暗部の任務に借りだされ。
漸く、自宅前。
今更、扮装を解くのも馬鹿馬鹿しく、溜息一つでドアを開ける。
「ただーいま」
「お帰りなさい!ご飯出来て…。─────────── …カカシさん?」
嬉しそうに走ってきた愛妻が、動きを止める。
汚れはない筈だが、と思うが、瞬時に理解する。…格好、の所為だろう。
「変?」
「…いいえ。アカデミーでも見てましたけど、やっぱりお似合いですね」
「そう。─────────── …んー。Trick or Treat?」
少し思案し、綺麗な発音を向ける。
「…Do some Trick!」
「Yes,ma'am」
ぱちり。
悪戯っ気たっぷりの妻の言葉を受けて、玄関周辺の明かりを落とす。そのまま、軽くチャクラを煉って、辺りの空間に光を撒き散らした。
「…わ…」
「お気に召しました?」
「はい」
「ご褒美は?」
「何が宜しいですか?」
「…やっぱり、甘いご馳走じゃない?」
「…食事は用意してありますけど?吸血鬼さん」
「アンティパストはそれで良いよ」
「─────────── …明日はお休みです」
「なら、お腹一杯食べさせてもらおうかな?」
餓えてるんだ。
内緒話のように、耳許に続けた。
Happy Halloween! |