蓮花
‐銀真珠・儀式外伝‐


「何の騒ぎ?」
 上忍待機所『人生色々』。任務の隙を見て姿を見せたカカシは、若い上忍・特別上忍が大群で盛り上がってるのを見ると、傍に居たアスマに問いかける。
「あー。華を花に例えてるんだと」
「何、それ」
 興味なさげに見学していたアスマが、面倒臭そうに答えるが、意味が判らず頭を捻る。
「木の葉の四華…つまり、私とアンコとハヤテとイルカ先生をね、それぞれ花に例えてるらしいわよ」
「…紅。それ、自分で言ってて恥ずかしくないの」
「…客観的事実に主観は入れないわよ」
「あ、そう」
 堂々と嘯く紅に脱力する。
 確かに、上忍のくの一ともなれば自身の容姿に絶対の自信があって当然。第三者的な評価そのものに感慨はないだろう。
 それでも、どこか釈然としないのは何故だろうか。
「…て、そういえば、今の四人に入ってたイルカ先生って、あの、イルカ先生?」
 上忍・特別上忍だけのラインナップかと思っていたら、どうやら違うらしい。
「そうよ。アカデミーの。ナルトの元担任の」
「…人気あるんだ?」
「元々結構、人気あったんだけどね。受付を兼任するようになってから爆発的」
「へー」
 知らなかった訳ではないが、改めて他人の口から聞かされると中々に複雑な気分ではある。
「あ!カカシさん!」
 取りあえず自分には関係ないと、愛読書を取り出したところで騒ぎの中心に目敏く見つけられる。ざ、と自分に振り返る彼らに、一瞬退いてしまうのは仕方のない事だろう。
「なーに」
「カカシさんはどう思います?」
 紅さんとアスマさんに聞きましたよね。
 嬉しそうに問い掛けられ、思わず隣を見るが、助けてくれる気はないらしい。
「あー。紅とアンコとハヤテとイルカ先生…だっけ?」
「はい!」
 期待に満ちた瞳にはどうにも弱い。溜息一つ吐くと、彼らの話題に乗ってやる。
「イメージで良いの?」
「はい!」
「ん〜…。アンコはね、つるばら。それも原種に近いヤツね。生命力も強いし、何となく。ハヤテは月下美人。まぁ、名前からの連想に近いけど」
 少し首を傾げながら言うと、真剣な面持ちで頷いている。
「イルカちゃん…と、イルカ中忍は?」
 勢い込んで促すのに苦笑し、少しだけ考えるフリをする。
「イルカ先生ねぇ…。うーん…。君影草、かな」
「君影草?」
「鈴蘭の事だぁよ」
 丸い可愛い花が下を向いているから、誰かを想っている姿を連想させる故の異名。
 おそらく、異名の意味も知らず、花のイメージそのものに納得する周囲に、気付かれないように冷ややかな笑みを浮かべる。
 異名も姿も確かにイメージされるものだけれど。
 カカシにしてみればそれだけじゃないから。
 鈴蘭の本質は…可憐なだけじゃあ、ないのだ。
 それに気付かないのは、平和としか言いようがない。
「あ。じゃあ、紅さんは?」
「紅?…本人居るじゃない」
「あーら。是非とも、聞きたいわねぇ」
 嫌そうに呟くと、当の本人が人の悪い笑みを浮かべている。そんな表情にすら、艶があるのはまぁ、褒めるべきところだろう。
「…他の人にはなんて言われたのよ」
「え?バラ?真紅の…剣弁の。後カトレアとか…」
 参考までに尋ねると、先刻の騒ぎの中で上がった花を思い出しながら答えてくる。捻りも何もない、予測通りの回答に、口布の下で知らず口角が上がっていく。
「成程ね〜」
「で、カカシさんはどう思います?やっぱりバラですか?」
「まさか」
 驚いたように否定し、くつりと笑う。


 バラ。


 この女がそんなモノである筈がない。
「え?じゃあ、何です?」
「蓮…。蓮の花」
「蓮…?」
「そう。蓮」
「理由もある訳?確かに綺麗だけど」
「…泥土に塗れ、その中から凛と立って鮮やかに咲き誇る、慈愛の花。それ以外、アンタを表す花はないよ、紅」
 首を傾げる紅に宣し、笑う。


 泥の中から。


 如何なるモノをも退けて気高く咲く花。


 それ以外にこの女を表す花はない。




「…」
「あぁ、そうだ。それで思い出した。これあげる」
 絶句してしまった一同を意に介せず、ポケットを探ると何かを取り出し紅の手の平に乗せる。
「何?」
「ん。ちょっとお礼?もっと早くに渡したかったんだけど、納得いくのが手に入るのに時間食っちゃって」
 九年がかりだぁよ。
 くつくつ笑うと、もう、この場には用がないとばかりに踵を返す。これ以上ここに居て、とやかく言われるのは面倒になったのだ。
「ちょ…これ…」
「大したモンじゃないけどね。九年前、中忍だったアンタの勇気と執念に感謝と敬意を。結果的に俺の宝も護ってくれたからね」
 遅くなったけど、ありがとね。
 手の中を見て慌てる紅に後ろ手に手を振ると出て行ってしまう。
 残された紅の手の中には、一粒の大きな石。オーロラレッドと呼ばれる、ピンクとオレンジの中間色の稀少な宝石。
「なんだ…?」
「蓮の花…。パパラチア・サファイアよ」
 原産地が特定され、尚且つ滅多に出る事のない、ダイヤモンド以上に稀少価値の高い石。
 それをあっさりと『礼』というカカシに呆然とする。






「やだ。アイツを最高って言い張るアンコの気持ちが解りかけちゃったじゃない…」
 吐息の混ざる呟きは、周囲のざわめきに消された。


殴り書き〜。銀真珠の『儀式』の裏話(笑)。
カカシ先生と紅先生。仲良しです。フツーに(笑)。
で、自分の嫁をあっさり『毒草』と言ってのける旦那。
まぁ、綺麗な花にはトゲがあって、可愛い花には毒があるっつー事で。
旦那は毒に耐性あるから問題ないしね(違!)。ま、そんなトコで。

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