稀源



「結婚する事にしたんだ」
「…へー…」
 五大国全てを巻き込んだ、忍界大戦も終結し、不本意ながらも手に入れてしまった、たった一人の親友の形見が漸く体に馴染んできた頃。
 紆余曲折ありつつも、何とか無事に四代目火影に就任した師匠が、不意打ちのように爆弾を落としてくれた。
「カカシ〜。もうちょっと驚いてよ〜」
 あっさりしたオレの対応が不服だったらしい。口を尖らせる師匠にため息を吐く。
 驚き過ぎて、リアクション取れなかっただけなんですが。
「…まぁ、対外的にも火影に奥方が居ないのも考え物だし。良いんじゃない?」
 今後はさて置き、現状では上辺だけの外交が多い。国主を交えた正式な場には、パートナー同伴は常識。
 …となれば、先生が結婚する気になったのも頷ける話なんだけど。


 妙に嫌な予感がするのは何でなんだろう?


「…冷静な言葉をありがとう…じゃなくって!もうちょっと子供らしい反応はない訳?」
「…無理」
 齢三歳で初陣(しかも暗部)飾って以来、六歳で中忍、十二で上忍になった時には、世界規模の大戦まで経験させられたオレに、どう子供らしい反応をしろと言うんだか。
 言いたくないけど、かなりハードな人生を歩んでる自信があるんだよね。
 父親は自刃するわ、親友には死ぬ間際に機密レベルのプレゼントを貰うわ。
 …思い出しただけで、何か、泣きたくなってきた。
「ケチ」
「…先生。仕事しませんか」
 脹れる先生を見ない振りして、話を軽く逸らす。
 …まぁ、どうせすぐ戻っちゃうんだろうな、とは思いつつだけど。
 だって、机の書類、全然減ってない。
 手伝ってるだけの筈のオレの方が進んでるって、かなり問題があると思う。
「あ。うん。…ねぇ、報告書の書式なんだけどさ。何時の間に統一させたの?読みやすくなってるけど」
「先週。試用して良いって、先生が言ったんでしょ」
 …基本的に、公文書の書式等変更には火影の承認が必要なのは常識。
 なのに、このおトボけ様は忘れ去ってくれていたらしい。無責任も程がある…ような気がする。
「そうだっけ。凄い読みやすいよ」
「ありがと」
 文書に統一感がなくて読みにくい上に理解出来ないって、先生が文句言ってたから。
 今まで所定の書式のなかった報告書に、所定用紙を作ってみたのだ。
 今のところ、受付事務にも報告者達にも好評みたいだし、本採用して貰おうかな?
「あ。ところで先生」
「なあに?」
「結婚する気になったのは良いけど、お見合いとかするの?スケジュール調整しますけど」
 …まぁ、最近里に長居してないし、先生に彼女とか居ても知らないんだよね。
 居るなら居るで、どんな相手か興味あるし。
「あ、うん。お見合いはしないよー。レンアイ結婚に決まってるでしょ」
「あ、そう。で、どんな人?上忍?特別上忍?中忍?下忍?色街のお姐さん?」
 曲がりなりにも火影夫人になるんだから。
 礼法やら何やら、面倒な事多いし、上忍か、特上辺りだと楽なんだけどなー。
 教育係の選定、しなくていーもんね。
 現実問題、火影になる資格って、『忍として強い』だけじゃダメなんだよね。
 外交とか、とかく面倒事多いし、神職も兼ねたりするから、そっちの知識も不可欠だし。
 だから、その奥さんとなる人にも、素養がないと困る事が多いんだよね。だから、結婚するまでに物凄く勉強して貰わないといけないらしい。(三代目夫人のばーちゃんが言ってた)
「んーん。忍者じゃないよ。色街の人でもない」
「…え?一般の人?…まさか、アカデミー生とか言いませんよね?」
 四代目火影が変態なんて、シャレになんないんだけど。
 …変人は今更だけどさ。
 ってか、そうなると教育係って、元先生とか探さないとダメなんじゃないの?
「俺をなんだと思ってるのかなー?カカシくんはっ」
「へんへー、いひゃい」
 弾力の少ない顔を引っ張るのは止めて欲しいです。
「…んで、誰ですか。コハルばーちゃんに言って、教育係とか選ばなきゃいけないでしょ」
「あ、その辺は大丈夫。基本は出来てるし、カカシに決定済だから」
「はぁ?」
 なんで、オレが?
 今でさえ、やりたくもない火影秘書とか、暗部隊長とか兼任してるのに、更に仕事増やす気?
 …あ、いや。仕事や任務が増えるのは仕方がないんだけど。人手不足なご時勢だし。
 でも。
 …弟子に面倒事全部回すの、止めてください。
「だって、ご指名なんだもん」
「はぁ?」
 何故、指名が入る?…ってか、指名制な訳ですか?
「ミズホさん、カカシなら気を使わなくて良いからって」
 …へー。先生の恋人、ミズホさんって言うんだー…って、え?ミズホ?
「…ミズホ…?」
「うん。木の葉保育園の保母さんで、はたけミズホさん。ほら俺、神官筋でしょー?だから一応、二十年以上の付き合いなんだよねー」
 …あぁ。はたけ家は護筋だし、神事であった事あるんだ…。
 じゃなくて。
「先生、オレの従兄になる気なの?」
「そう!嬉しいでしょ?」
「…ごめん、先生。コメントは差し控えさせて…」






 …嫌な予感って、当たるモンなんだなー…。


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