「…」
今日は休暇だって聞いていたんだけどな。
開け放たれた縁側の障子に寄り掛かって、室内で庭に背を向けたまま何かの作業中の人物を眺めながら、イルカは内心で溜息を吐く。
まぁ、武具・忍具の手入れは良い。
自分だって、休みとか関係なく、いつでも使用可能な状態を保っているし。
ましてや相手は、里一番の技師にして、里一番の多忙を誇っていたりする人物。
休みなんて、いつもより余分に時間が取れる日に、それはそれは念入りになるのはまぁ、当然と言える。何せ、自分の命がかかっているのだ。
基礎トレーニングだって、理解は出来る。
いつ召集がかかるか判らない職業故に、常に体の状態を整えておくのは必要…というより、当然の義務なのだから。習慣と化していてもおかしくはない。
しかし、である。
その中のいくつかは、非番の時でも良いような気も、するのだ。強いて言えば、今日位はもう少し手を抜いても…と言うところだろうか。
何故なら、一人で二役も三役もこなす、多忙に過ぎる彼には非常に珍しい『本当の休暇』なのだから。
他里もそう違いはないと思うが、とりあえず、木の葉の忍の勤務形態には、簡単に言って『出番』『待機』『非番』『休日』とある。
出番は、通常勤務。
要するに、任務や日々の職務の類。言ってしまえば、上忍師やアカデミー教師、受付任務等も含まれる。確実に何らかの作業をしている日。
待機は、基本的に待機所に居る日。
出番の日より緩やかに過ごせるものの、出番の次くらいに里に拘束されている日。大概の忍は、出番の間に処理出来なかった事務処理関係等に従事する事が多い。
これは、事務系の職務を持たない、戦忍特有の形態である。従って、里に常駐し、定期的な休日を約束される、アカデミー従事者や受付担当者には『待機』シフトはなく、当て嵌まらない。
非番は、基本的には任務につかないけれど、所在を明らかにしていなければならない。
待機とほぼ同義と言って良い。
ただし、拘束は待機に比べて緩いので、家事や修行に充てる者が多い。
そして休日。
行動制約のない(勿論、忍故の限度はあるが)、休みの日。
本来、心身の休養に充てるべき、日である。それ故に、許可が下りさえすれば、里外で過ごすことも可能。
この日ばかりは、本当の意味での(国家レベルの問題や天災等の)非常時を除いて、原則的に、任務の呼び出しは掛からない。
…イルカの記憶と、三代目火影サマの言葉に間違いがなければ、この家の主である所のはたけカカシ氏は、本日、休日の筈なのだ。
こんな時の為に、同僚に作っておいた山程の貸しを返してもらう形で、わざわざ合わせて休日を取ったのだから、まず間違いない。
にもかかわらず、この状態は非番と何ら変わりがない。
…否。
非番なら、まだ可愛げがある。これは、見ている限りでは、出番と変わりがない。どう贔屓目に言っても、任務前の準備にしか見えないのだ。
早朝から丁寧な基礎トレ。入念な忍具の整備。そして、次の(多分)任務の下調べ。
これを休日なんて言ったら、世間一般の休日を何と言えば良いのか判らない。
適切なコメントも思い浮かばず、途方に暮れたまま暫く眺めていたが、軽く息を吸って背後から近付いた。
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