家族遊戯


 スカカカカッ!
 的に向かい、緩い放物線を描いてクナイが飛んでいく。
 狙った中心を捕らえたのはたった一つ。
 他は、前よりはマシだが、まだまだ正確とは言えず、モノによっては完全に的から外れているモノすらある。
 目標とする人物と現状の自分との落差に不服の溜息を吐き、放ったクナイを回収する。
「…ち」
 一朝一夕に上達するモノではないと、頭では理解しているのに。感情の方は納得しない。
 所定位置まで戻ると、頭を振って今一度クナイを構える。
「…爪先、曲がってーるよ」
 突如背後からかけられた声に、構えたまま身体が固まる。
 思わず、息を止める程に驚いて、声すら出せなかったのを知ってか知らずか、気配なく近づいた相手は気安くフォームを直してくれる。
「これで投げてごらん」
 爪先と肘を正面に、脇を軽く締めるように固定された、少し窮屈に感じる構えに矯正され、優しく背を叩かれる。
「サスケ」
 あまりに驚き過ぎて動けないのを訝しんだのか、再度、柔らかく促される。
 その声に弾かれたように硬直を解き、無駄と知りつつ、焦りを気取られないように素早い仕草でクナイを放つ。
 鋭い直線を引いて的に吸い込まれるそれは、先刻と違い、見事に中心を捕らえた。
「…あ…」
「お見事」
 パンパンと満足そうに手を叩く相手を見上げ、照れ隠し半分、顔を背ける。
「…実力じゃない」
「それは仕方ないでしょ」
 苦笑気味の声に口を尖らす。
「変なクセがなくて良い。良い先生に習ったな」
 くしゃり。
 ナルトにしているのと同じように頭をかき回され、思わず振り仰ぐ。
「何しやがる」
「何だろうねぇ。…で?誰に習ったの」
 真っ赤になった顔をくつくつ笑われ、そっぽを向く。
「…イルカ先生」
「あぁ。確かにクセのない綺麗なフォームしてたな」
「見た事あるのか?」
 感じた疑問は曖昧な笑みで誤魔化される。もっともそれは、いつもの事なので気にもならない。隠し事と言うにはどこか希薄な何かを感じはするが、いずれ種明かしをされるだろうと、勝手に納得する事にしているのだ。
 代わりに、もう一つの疑問を口にする。
「任務は」
「終わったよ。で、通りかかったらサスケが居たからね」
 突然自主トレになった今日。
 いきなり予定が空けられるのには、いい加減慣らされてしまっていて。問い詰める必要もなく、急ぎの任務なのは判り切っていて。溜息と共に三人で受け入れた。
 だから。
 こんなにも早い時間に姿を見せるとは思っていなかったのだ。
「あいつらは、先に止めさせた。疲れてたみたいだから」
 どこか顔色の悪かった二人を、癇癪を起こしたフリで怒鳴りつけて帰らせた。
 サクラは申し訳なさそうに、ナルトは驚きながらもくすぐったそうにしていたけれど。
 何だかんだ言いながらも素直に帰って行った。
 あの二人に内心を見透かされているのは正直、癪に触ったが、どこか面映かったのも事実で。
 その後ずっと、ここで修行していたのだ。
「そっか」
 報告は最低限の義務と、繰り返し教えた所為だろうか。仏頂面でもきちんと口にする姿に微笑が浮かぶ。
「サスケは帰らなかったんだ?」
「サボってる暇はない」
「休むのとサボるのは違うよ」
 苦笑を見せるとひょいとサスケを持ち上げて抱えてしまった。


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