儀式


「…ふぅん…。式をね…」
「奥方様が到着される前、敵に流れた噂も、あの中忍が原因の可能性があります」
「あぁ。アレね。確かに式なんてどこからでも飛ばせるし」
 隊員からの報告に軽く頷く。
 カチリカチリと填まっていくパズル。構図が単純故に自分達を振り回してくれる、それ。
「でも。タイミング良すぎるよねぇ」
「それは…」
 かり。
 合点の行かない表情で親指の爪を噛んだカカシに答えられず口篭もる。
 輸送隊長クスの背信は判る。だが、たかが中忍がこうも都合良く任地を選べる訳がない。偶然ではない何かがある筈である。ただ、それが判らない。
「それ、説明出来そうです」
 音もなく増えた気配に目を遣ると、白い猿面の暗部が立っていた。
「里で何か判ったの?」
 本来なら里に居るべき中隊の一人。それが現れたと言う事は、火影からの伝令と言う事だ。軽く首を傾げる。
「えぇ。まずは隊長、ご成婚おめでとうございます」
「まだだよ!」
 揶揄を含みながら笑う相手に声を荒げる。
「秒読みで何を仰る。さて。例の中忍ですが、告発者が出ました」
「話して」
「はい。実は里で洗い直していた所、妙な符号が揃いまして」
 調査によると、彼女の率いた輸送隊には妙に殉職者が多いらしい。
 それも歳の若い…つまり中忍になったばかりのくの一に。
「改めて調べた所、書類に改竄の跡がありました」
「それって」
「…はい。どうやら、儀式前のくの一を金次第で斡旋していた用です。…まあ、所謂、初物喰いの上忍にあてがっていた訳ですが。その際、くの一側の了承は得てないそうです」
「…信じらんない。金出して、騙してまでそんな事するなんて。そういうの、女の子には大事なんでしょ?」
 軽く目を見開く。保護者達に徹底的に人道主義を叩きこまれているカカシには、とても理解出来ない事なのだろう。
「でなければ儀式なんて存在しませんよ」
「許せないね」
「…どうします?」
「式の行方次第だね。敵方とも通じてるならしばらく泳がせようよ」
「そうですね」
「…で。買い手のバカ部隊長の方は更迭?暗部じゃないのに暗部服着てる人いるし」
 にっこり笑って猿面を見る。
「イノイチ、よく似合うね。シカクとチョウザも来てるの?」
「…何だ。バレてましたか。そうですよ。我々が交替に来ました」
 くすりと笑いながら面を外すと、四代目と仲の良かった上忍が顔を現す。
「久しぶり〜。いのちゃん元気?」
「そりゃーもう!言葉も増えて…って。カカシ大っきくなったなー。ほんと大人になって!次代様の風格も出て!」
「ぅわ!」
 ぎゅうう、といきなり抱き締められてカカシがもがく。それでも抵抗しないのは、今更だからだろうか。
「…ずるいぞ、イノイチ」
「カカシ君の一人占め反対」
 軽い殺気をこめて現れた二人に、カカシが手を振る。
 里の誇る猪鹿蝶揃い踏みと言う事は、今回の件と任務、両方のケリを早くつけ、里に戻って来いと言う事だろう。
「二人もご苦労様〜。悪いけどちょっと付き合ってね」
「その為に来たんだよ」
「おら、どけ。作戦会議するんだろーが」
「ありがと。じゃ、今の状況から説明するよ」
 やはり、どこか不自然な緊張を強いられていたのだろう。何となく肩が軽くなるのを感じながら、ゆっくりと口を開いた。


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