「おはようございます」
「おはよう」
朝の受付所はかなりの混雑を見せる。
夜間任務の報告書提出と、昼間任務の受付が重なる為だ。
しばらくすれば多少は落ち着くのだが、今度は依頼者たちが姿を見せる。どちらにせよ、受付担当者はかなり忙しい。
「…おはようございます。今回はBランクですね」
「あ。どうも。行ってきます」
「はい。お気をつけて。次の方…」
「おはよ、イルカ先生。何かある?」
長蛇の列だった受付が少し余裕を見せた頃、当代随一のくの一に声を掛けられる。
「おはようございます、紅先生。そうですね。演習場の草取りか公園のゴミ拾い…木の葉神社の境内の掃除がありますけど…」
「あ〜。草取りでもやらせようかな」
下忍用にとDランクの任務をいくつか並べると、簡単で、尚且つ体力を使うものを選んでくる。
日陰の殆どない演習場の草取りは、今日のような天気の良い日にはかなりの体力を使うだろう。まだまだ体力不足の子供たちにはちょうど良い訓練になる。
「じゃ、こちらですね。どうぞ」
「ありがと。ところで…」
「あ〜!イルカ先生!おはようだってばよ!」
「おはようナルト」
「あらあら。私には挨拶なしなのかしら?」
「あ。紅先生もおはようだってば!」
「はい、おはよう」
紅が話しかけようとしたところに、一際元気な声が響き渡る。顔を見合わせ、二人で苦笑しながら振り向けば、ナルトが飛び込んで来ていた。
勿論、下忍のナルトが単独で任務を受けられる筈もなく、後ろからチームメイトのサクラとサスケの二人と、今は担当上忍アスマの不在で七班預かりになっている十班の三人の姿が見える。そして、彼らに釣られたのだろう。入り口で待たせていた筈の八班の子供たちも姿を見せた。
元気の良い子供達の乱入で、受付所の雰囲気が一気に明るくなる。
「イルカ先生、任務くれってばよ!」
「…こらこら。カカシ先生がいらっしゃるまでは…」
「…あ〜。もう。あんまり騒がしくしたら他の人に迷惑でしょ〜」
嬉しそうにイルカの机にへばり付いたナルトの頭に、気の抜けたような声と大きな手が降ってくる。そのまま黄金の髪をくしゃりとかき回すそれに、ナルトがくすぐったそうに目を細めた。
「おはようございます。カカシ先生」
「はい。おはようございます、イルカ先生。今日はなんか目ぼしいのはありますかねぇ」
ふんわりと笑いかけると、唯一晒された右眼だけで笑い返される。
「そうですね。人手が要る任務なら、隣村の庄屋さんの所の田植えがありますよ。後は大名屋敷の屋根の修繕とか…」
いつもと違い、人数も多いので通常の任務では簡単過ぎて流石に修行にはならない。しかし、そう毎日演習のみと言う訳にもいかず、任務を取りに来たのだろう。
イルカはDランクの中でも、比較的人手の必要な依頼書を探し当てた。
「あ。じゃあ田植えで」
のほほんとした調子で任務を選択した途端、騒がしくなった子供たちのブーイングを綺麗に無視し、あっさり依頼書を受け取る。
「ほらほら。文句言わないの。行〜くよ」
任務に対して不満を顕にする子供たちの頭をぽんぽんと優しく叩きながら促せば、諦めたのかぱたぱたと出口に駆け出していく。
「皆、頑張れ!」
声を掛けると、口々に返事が戻ってくる。それを手を振りながら見送り、改めて目の前の青年に視線を合わせる。
「…行ってらっしゃい、カカシ先生。お気をつけて」
「行ってきます」
にこやかに告げると、柔らかく返される。ゆったりと踵を返し、後ろ手に手を振りながら出て行く、いつもの挨拶。
「…?紅?行かないの?」
「あ。行く」
軽く首を傾げながらぼんやりとしていた紅に、戸の所で振り返ったカカシが声をかける。弾かれたように顔をあげると、カカシに続いて受付所を出た。
「どしたのよ。ぼーっとして」
「え?うん。…ん〜。何かしら。ちょっと違和感があって…」
今さっき、何故だか感じた違和感に首を捻る。何かが頭に引っかかっているのだが、どうしてもそれが何かは判らない。
「ふぅん。それより早く行かなくていーの?」
「…アンタにだけは言われたくないわねぇ…。ま、良いわ。そのうち判るでしょ」
「カカシ先生〜!紅先生〜!早く〜」
子供たちの弾ける声に肩を竦めると、のんびりと従った。
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