「…成程ねぇ」
昨日の出血大サービスはコレの所為か。
入手したアカデミーの予定表と通達を眺めて目を細める。そのまま視線を下げ、明日の予定を確認すると小さく笑う。
可愛らしくも姑息な手を使った恋人にはおしおき。
イロイロと楽しい事を仕掛けてくるイルカは本当に面白い。思わぬ笑いが込み上げてくる。
「カカシ?どうした」
気配が変わったのに気付いたのだろう。横で煙草を燻らせていたアスマが尋いてくる。
「んー?昨日ねぇ、イルカ先生がすんごくサービスしてくれたのよ」
「久しぶりだったからか?良かったじゃねぇか」
ある意味バカップルな二人には関わりたくないと、気のない返事をしてやる。
「コレ見てもそう言える?」
ペラリと今まで眺めていた紙を渡すと、ざっと目を通したアスマが苦笑を浮かべた。
「…ほーぉ」
「…ねぇ。昨日と同じサービス。今日も貰って良いと思う…?」
くつり。
恋人の事を言っているとは思えない口調で妖しく笑うカカシに軽く背筋が寒くなる。
「…良いんじゃねぇか?」
底冷えしそうな色に瞳を揺らし、愉悦の表情を浮かべるカカシには決して異を唱えてはならない。そんな上忍間の不文律を思い出しながら同意を示すと、内心でイルカに詫びる。
…ま、殺される訳じゃない。
免罪符にもなりはしない呪文で自身を納得させると小さく溜息を吐いた。
「ほーんと、可愛いよねぇ。俺がアレで満足したと思ってるんだから」
くつくつ笑うカカシは本気で怖い。下手に薮をつつく気にはなれず、沈黙する。
「…愉しそうだな」
「そりゃあね。あの度胸に強かさ。タマンナイね」
手強いからこそ、より愛しい天使。
でなければ、こんなにハマる訳がない。媚びるモノ、服従するモノにはいい加減、飽いている。あくまで対等。そうでなくば意味がない。
「そうかよ」
「今晩は何しようかなぁ」
「…壊すなよ」
行き過ぎないよう、苦言を呈するのは既にクセ。
「大丈夫だぁよ。明日の授業には障りない程度にするから」
言った以上、絶妙なラインを死守するだろう友人を笑う。
「溺れるなよ、『恋狂い』」
「…そりゃ、わっかんないねぇ」
言われた科白、言った科白に、互いに肩を竦める。
叩き込まれた、忍の本能すら飲み込む程に恋に溺れたいと望む心を止める術を持つ上忍はいない。
こればかりは、愛すべき中忍先生には解らぬ心境だろう。バリバリの戦忍──────── それも、超一流と呼ばれる者だけが行きつく真情だ。
「さて。帰ろ」
「早いな」
「美味しいオベントでも買ってあげようかと思ってねー」
「…お疲れさん」
「んじゃねぇ」
ひらひらと手を振って『人生色々』を出て行くカカシと刹那に視線を合わせて嗤い合う。
「咲き誇れ」
命懸けでバカをやろう。
全力で駆け引きしよう。
シビアな現実、笑い飛ばそう。
夢上等。
幻上等。
アナタと二人なら無敵。
さあ。
恋の華を咲かせよう。
幻恋華よ。
咲き誇れ!
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