(あーいうの、苦手だからやりたくないって言ったのになぁ…)
溜息を吐く。
里に入り込んだスパイ。
容疑の段階で目をつけて。
近付いて、燻り出して、証拠揃えて。
最後には始末。
勿論。
自分が適任だった事は知っている。
里の中枢に近くて、若くて、…まぁ、上忍。
ちょうど里に常駐もしている。
任務を選り好みして良い訳ではない事も、しっかり叩き込まれている。
それでも。
やっぱり気の進まない任務というのは存在して。
今回のは、その最たるもの。
──────── 恋愛くらい、好きな人としたい。
イチャパラみたいに、とまでは言わないけれど。
それでも任務絡みの恋愛ゲームは凄く苦手。
どうしたって疲れるし、落ち込んでくる。
肩も下がるし、猫背も酷くなってしまう。
「カカシ先生」
甘い、優しい声にふいと顔を上げる。
「お帰りなさい。お疲れ様です。…任務帰りですよね?」
ふんわりとした笑みを向けられ、つい、見惚れてしまう。
穏やかで、優しい笑顔の、アカデミーの先生。
ナルトやサクラ、サスケまでもが懐いている、教え子達の元担任。
自分だって、好ましく思っている。
「カカシ先生?」
「あ。はい、そうです」
「お疲れですか?」
「…あー、ちょっと。…その、苦手なタイプので。上忍のクセにこんな事じゃいけない、とは思ってるんですが」
心配そうに見上げられて、苦笑する。
こんな事、本当なら言ってはいけない。
いつも、子供達に諭している立場なのだから。
「…誰にだって苦手なモノはありますよ」
くすり、と笑われる。
「カカシ先生、天麩羅も苦手でしょう?」
「…恥ずかしながら」
悪戯っぽく微笑まれては、苦笑するしかない。
本当に。
春の日差しのように柔らかい笑顔。
自分みたいな者の傍に立っていてはいけないのではないかと思う。
「…でも、今日は、得意なんじゃないかな?と思うんですけど」
甘い笑みの唇に人差し指を当てて、上目遣いに見られる。
「え?」
「もし、宜しかったら、我が家で秋刀魚の塩焼きと茄子のお味噌汁を召し上がって行かれませんか?」
甘い、甘い誘い。
断るなんて思いつかないような。
「い…良いんですか?」
「はい。勿論」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
苦手を克服出来るかどうかは判らないけれど。
この人が認めてくれるなら、少しは我慢も出来るだろう。
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