忘れられるものならば

二人だけで旅に出ると、世の中が何もかも楽しそうに見えてくる。
気持ちが大きくなってきて、自分たちが世界の中心にいるような気がしてくるよね。

家族で旅に出るのも、楽しいものだ。いつもは見ることができない家族の、意外な
一面を見ることができる。子どもがいれば、思わぬ成長を感じることがあるかも知
れない。

一人で旅に出るのは…。自分自身を見つめるとき。
誰かと一緒では辛すぎるから、一人で旅に出る。
辛い気持ちを忘れたいから、旅に出る。
けれど、そんな旅に出ても、思い出を忘れられたという、ためしはない。

忘れたつもりになっても、夢に現れてくる思い出があった。
それは、長い間、心の中に巣くっていた思い出。
忘れようと思っていても、忘れられない思い出。
きっと、夢に見る間は、まだ忘れられないんだよ。

不思議だね。
一緒に生きていく相手に出逢えた今、行かなくなった、あの一人の旅。
一緒に支えあえる片割れに出逢えた今、見なくなった、あの夢。
そんな人と出逢うことで、疲れた魂は浄化されるようだ。



【『みんな去ってしまった』ほかに収録】

(初稿 2000.06.12)



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