PHASE01    その名はGUNDAM 前編

キラ・ヤマトは投げやり気味にキーボードをたたいていた。黒い髪、黒い目の小柄な少年だ。
繊細な顔立ちは東洋系だが、一見して人種を判別できない。
  ここは工業カレッジのキャンパスだ。緑したたる中庭、あふれる日差し、
楽しげにたわむれ、通り過ぎていく人々…
地球のどこでも見ることの出来るありふれた日常風景。
  だが彼等が踏みしめている芝生の下には、厚さ約100mに及ぶ合金製フレーム
があり、その外には真空の宇宙が無限に広がっている。
  ここはヘリオポリス。地球の衛星軌道上、通称L3に位置する巨大な宇宙コロ
ニーである。
  コンピューター画面の上では、ニュースのアナウンサーが深刻な表情でしゃべっ
ている。
〈新たに届いた情報によりますと、ザフト軍は先週末、華南宇宙港の手前6キロの地
点まで迫り…〉
  そのとき
  きらり、と、小さな翼で日光を跳ね返し、キャンパスの上空を一巡りして、ト
リィが戻ってきた。メタリックグリーンの翼を羽ばたかせてキラのコンピューターに
止まる。
トリィは小鳥をもしたペットロボットだ。
  トリィを見るたびにキラの脳裏にはこれを自分にプレゼントしてくれた親友の面
影が浮かぶ。キラの大切な、小さな友達…
『父は多分、深刻に考えすぎなんだと思う』
別れの日、少年は13歳とは思えない大人びた口調で言った。黒い髪、穏やかで物静
かな面差し、伏せられた目は印象的な緑だった。
彼はキラと4歳の時から月面都市「コペルニクス」で幼年時代をともに過ごした。
 二人はいつも一緒だった。
『プラントと地球で、戦争になんてならないよ』
うん……と、キラはうなずいた。
『でも避難しろって言われたら避難しないわけにはいかないし』
キラはずっと、うつむいていた。
彼等は賢明な子供だった。それでも所詮子供でしかなく、社会の情勢や親の意向に従
うしかない。別れを受け入れることしかできなかった。
  友はうつむいたキラを励ますように言った。
『キラもそのうちプラントに来るんだろ?』
 その言葉に秘められた希望が、少しキラを慰めてくれた。やっと目を上げてみる
と、友はきれいな緑の目を細めて笑った。その色が、キラはとても好きだった。
        −きっとまた会える−
そう信じて分かれた。あのときからもう3年。
「お、新しいニュースか?」
突然肩越しにぬっとのぞき込まれて、キラは我に返った。
「トール……」
工業カレッジで同じゼミのトール・ケーニヒであった。隣にはトールのガールフレン
ドのミリアリア・ハウの姿もある。コンピューター画面では、ニュースの続きが映し
出されていた。立ち上る黒煙と爆音、逃げまどう人々、ビルの建ち並ぶ町並みは半壊
し、どこか近くで戦闘が行われているらしい。去年、プラントの軍隊、ザフト軍は、
地球への侵攻を開始した。中立国家オーブのコロニーであるここ、ヘリオポリスで
も、開戦当初は皆、地上で行われている戦況を息をつめて見守っていた物だが、最近
はもうそれにも慣れてしまった。
 〈こちら華南から7キロの地点では、以前激しい戦闘の音が…〉
リポーターがうわずった声で報告する。
 「うわ…先週でこれじゃ、今頃はもう堕ちちゃってるんじゃねえの?華南…」
トールがお気楽にコメントする。キラは苦笑いしコンピューターを閉じる。少々軽率
なところがトールの欠点だ。だが開けっぴろで裏のない彼が、キラは好きだった。い
つも朗らかでしっかり者のミリアリアとは、お似合いのカップルだ。
「華南なんて結構近いじゃない?大丈夫かな、本土…」
ミリアリアは対照的に、不安そうな口調になる。
「そーんな。本土が戦場になるなんて、まずないって〉
どこまでも楽観的なトールの観測が、かつて親友が口にした言葉と重なる。
キラは不意に何ともいえない不安を覚えた。
そんな彼等でも戦争なんて、自分たちに関係ない物と思っていた。コンピューターを
閉じたら終わってしまう、画面上の単語にすぎないと…まだこのときは…。

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大学のレンタルカーポートで少女たちが騒いでいる。。
「だからぁ、そういうんじゃないってばーっ」
華やいだ嬌声を上げたのはフレイ・アルスターだ。キラはフレイを見つけ、一瞬鼓
動が高まった。長くつややかな髪は燃えるような赤、肌はしなやかで、今はかすかに
上気している。高貴さを感じさせる整った顔立ちと、しなやかな立ち振る舞いが、大
輪のバラのような華やかさを感じさせた。
たくさんの少女の中にいても、ぱっと目を引く存在だ。彼女の姿を見ると、キラの心
臓はいつも勝手に暴れ始める。ろくに口をきけもしないのに。
「あ、ミリアリア!ねえっ!あんたなら知ってるんじゃない?」
フレイを囲んでいた少女たちがこちらに気付いて話しかけてくる。。その後ろで顔を
赤くし、「もうっ、やめてってばぁ!」とフレイが叫んだ。だが友人たちは取り合わ
ない。
「この子ね、サイ・アーガイルから手紙もらったの!なのに「何でもない」って話し
てくれないんだよーっ」
「ええ〜っ!?あのサイが!?」
伝染したみたいにミリアリアもすっとんきょうな声を上げた。彼女が更にフレイを問
いつめようとしたとき、キラの背後から落ち着いた声がかかった。
「−乗らないのなら、先によろしいか?」
サングラスをかけた女性と、その後ろに2人の男性が立っていた。声をかけたのは先
頭の女性だ。いずれもまだ若く20代前半といったところか。だが学生には見えな
かった。
発せられた言葉は丁寧だったが、彼女の口調や声からは妙な威圧感があり、若い女性
らしい柔らかさを拒絶したような、堅く鋭い雰囲気を漂わせていた。
「あ、すいません。どうぞ」
トールが頭を下げ、皆気まずい思いで先を譲ると彼等はきびきびとした動作でエレカ
(自動電気TAXI)に乗り込み走り去った。ばつの悪い雰囲気を振り払うように、
「もう知らない!いくわよ」
フレイが叫び、次のエレカを捕まえる。その場が静かになると突然トールが、バン、
とキラの肩をたたいた。
「なーんか意外だよなあ、あのサイが。けど、強敵出現、だぞ、キラ!」
「は?な、なに?」
戸惑うキラに、ミリアリアも「がんばってね」と笑いかけ、トールに続いてエレカに
乗り込んだ。
「ま、待ってよ。ぼくは別に・・」
一人しどろもどろするキラだった。

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自動操縦で走るエレカの中でサングラスの女がつぶやく。
「なんとも… 平和なことだな。」
彼女の名はナタル・バジルール。自分の身分を明かすことなくこのコロニーへ訪れ、
極秘の目的地に向かう途中だった。
「あれくらいの歳で、もう前線に出ている者もいるというのに…」
彼女の声から苛立ちを聞き取って、二人の男性の一人、アーノルド・ノイマンは視線
を向けた。さっきの学生たちのことを言っているんだろう。
ヘリオポリスは中立国オーブに属す、工業コロニーである。オーブ本国は地球の赤道
直下、太平洋上に浮かぶ群島からなり、火山島の地熱を利用した工業力に高さと宇宙
港の運営で発展した国家だ。
  ともあれ、エレカは鉱山部に続くセンターシャフトへ向かっていた。
センターシャフトの内部は無重力で工業区となっている。このブロックは私企業「モ
ルゲンレーテ社」の所有地である。
エレカは小惑星の奥深くに隠された広大なドックにたどり着き、彼等はそこで降り
立った。
この場所こそが、彼等の目的地だった。
 目の前に張り出した監視台から、白く輝く戦艦が見下ろせた。全長三百四十五メー
トル、艦橋の突き出た基部の両側に、うずくまる獣の前足にもにた舷側底部がのび、
艦艇中央から左右に広げられた巨大な両翼から、大気圏内での飛行も可能だというこ
とがわかる。従来の戦艦の外観とは全く違う巨大な外観は、船というより要塞と呼ぶ
に相応しい物がある。と、ノイマンは思い、惚れ惚れとその巨体を見下ろしていた。

 − アークエンジェル − この戦艦はそう名付けられている。地球連合軍が、モ
ルゲンレーテにおいて、極秘裏に、開発、建造させた最新新造戦艦である。
彼等が密かにヘリオポリスに入国したのは、この艦のクルーとして乗り込むためだ。
そう彼等は皆、地球連合軍第八艦隊に所属する正規の軍人なのだ。
「なにをしている!艦長がお待ちだぞ!アーノルド・ノイマン曹長!」
鞭打つような声に、戦艦に見とれていたノイマンはハッとする。
ナタル・バジルール少尉はすでに通路を半分ほど進んだところで待っている。有能だ
が融通が利かない彼女には、この艦の美しさも何も訴えかけないようだ。
「ハッ!申し訳ありません!」
「すぐに着替え、五分後に総司令ブームに集合!急げよ!」
ナタルの指令に追われて無重力のの通路を進みながら、最後にノイマンは一度だけ、
ちらりと背後のアークエンジェルに目を向けた。

 アークエンジェルとは『大天使』の意だ。その名にふさわしく、この膠着状態を打
破し、自分たちに救済をもたらしてくれるだろう……。
 ノイマンがそんなに甘い希望を抱くのも当然のような、その威容であった。

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アスラン・ザラはゆっくりとエリオポリスの外壁に近づいていた。彼の周囲には、彼
と同じく機密服を着た人影が数十人おり、一人、また一人と、コロニー内部につづく
排気口に取り付く。アスランはちらりと腕の時計を見た。自分の呼吸音がやけに耳に
つく。時計が予定時刻を示すと、排気口の監視装置が切れた。それを確認したとた
ん、彼等は無駄のない動きで順番にそこへ滑り込んでいった。予定通り彼等は工業ブ
ロックで四方に散り、主要な場所に黒いボックスを設置していく。セットしたとた
ん。そのボックスにはカウンタ表示がともる。
その数字は…爆発までの時間だった。

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「そう難しい顔をするな、アデス」
傍らの男に苦笑されて、アデスは更に眉間にしわを寄せた。
「は…しかし」
ここはヘリをポリスに近い小惑星の裏。そこには二隻の戦艦が隠れている。
ザフト軍高速戦闘巡洋艦ナスカ級の「ヴェサリウス」それと同じく、ザフト軍戦闘輸
送艦ローラシア級の「ガモフ」だ。アデスはヴェサリウスの艦長を任されている。
ガッチリした体格で、四角く厳つい顔立ちの彼は、自分の懸念を口にした。
「評議会からの返答を待ってからでも…遅くはなかったのでは……隊長」
隊長と呼びかけられた男は銀色のマスクで顔の上半分を隠している
波打つ金髪、すらりとのびた体格。マスクで隠れていない部分の顔は整い、かなりの
美丈夫だとわかる。彼こそがラウ・ル・クルーゼ。敵にも味方にも、有能さと容赦な
い戦いぶりで知られる、この部隊の総隊長である。
「遅いな」 と、彼は言った。
「それでは遅すぎる。私の勘が告げている。ここで見過ごせば、その代価、いずれ我
らの命で支払わなくてはならなくなるぞ」
ラウは手にしていた写真を指ではじいてアデスによこした。そこには、巨大な人の形
にも見える、巨大な装甲の一部がうつっていた。
「地球連合軍の新型機動兵器、あそこから運び出される前に、奪取する。」

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「大尉ーっ」
トレーラーから呼ばれ、マリュー・ラミアスは振り返った。メカニックのコジロー・
マードック軍曹が無精ひげだらけの顔で怒鳴った。
「んじゃあ、俺たち先に、艦、行ってますんで!」
「お願いね!!」
周囲が騒がしいので自然にマリューも怒鳴り声になる。
ここはモルゲンレーテの地上部になる。周囲は作業をする男たちの活気あるやりとり
で騒がしい。その中で男たちと同じ作業服姿ながらも、肩までの栗色の髪を振るって
指示を出す彼女の姿は自然と際だつ。彼女もまた地球軍に籍をおくみだ。二六歳にし
て大尉。ここにいる中では最上官であり、また、なかなかの美人だ。皆、計画の終了
を目前に控え、陽気になっている。
長かった−とマリューの胸にも感慨があふれる。極秘裏に「G」計画が動き始めて
数ヶ月、彼女はその初期から携わって、こうしてヘリオポリスにつめて、全ての課程
を見守ってきた。
実は地球連合軍がモルゲンレーテに発注したのはアークエンジェルだけではなく、
「G」と呼ばれる新型機動兵器も含まれていた。
この搬出作業さえ終わればやっと肩から荷が下ろせると彼女は思っていた。
だが、安堵するにはまだ早すぎる事を、彼女はまだ知らなかった。
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「接近中のザフト艦に次ぐ!貴艦の行動は我が国との和平条約8条に大きく違反する
!ただちに停船されたし!繰り返す!直ちに停船されたし!!」
ヘリオポリス管制施設では何の通告もなく接近してくるザフト軍の戦艦2隻をとら
え、アラートが鳴り響いていた。接近してくるザフト艦は`あの`ヴェサリウスとガ
モフだ。そこで管制官の一人が叫ぶ
「強力な電波干渉!ザフト艦から発信されています!これは明らかに戦闘行為です!
!」丁度そのとき、ヘリオポリスのドックには民間船に偽装した地球軍の船が入港し
ていた。その中でも緊迫したやりとりが飛び交っている。
「敵は!?」
「2隻だ!ナスカ級とローラシア級だ!電波干渉直前にモビルスーツの発進を確認し
た!」「Gのパイロットたちは!?」
「もうモルゲンレーテに着いているだろう!」
この艦は今まで、Gのパイロットの輸送任務に就いていた。
「せめてもの幸いか!? ルーク!ゲイル!メビウスで待機していろ!!まだ出るな
!」船内インターフォンに向けて怒鳴ったのは20代後半の金髪の男だ。端正ともい
える顔立ちだが、この緊急事態の中でもどこか飄々(←ひょうひょう と読みます)
とした雰囲気を漂わせている。そして彼もすぐに格納庫に向かった。そこには薄い紫
の「メビウス」と呼ばれる地球軍の主力モビルアーマー2機と、メビウスとは似ても
似つかない深紅のモビルアーマー1機が、慌ただしく動くメカニックたちの向こうに
見える。そしてさっきの金髪の男がパイロットスーツを着て深紅のモビルアーマーに
向かう。この男の名はムウ・ラ・フラガ。「エンデュミオンの鷹」の異名を持つエー
スパイロットだ。彼の愛機はメビウス・ゼロ。メビウスのエースパイロット用高性能
カスタム機だ。
彼が乗り込むと、その機体はリニア・カタパルトに誘導される。
「メビウス・ゼロ!ムウ・ラ・フラガ!出るぞ!」
そう叫ぶと一瞬の後に、深紅の機体は宇宙空間で踊るように舞っていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−− 「クルーゼ隊長の言ったとおりだな。」
冷静な口調で言ったのはクルーゼ所属のパイロット、イザーク・ジュールだった。バ
イザー越しにもわかる、冷たく整った顔立ち、真っ直ぐに切りそろえられたプラチナ
ブロンドの髪が更にその印象を強めるが、今はヘルメットで隠されている。怜悧な外
観にそぐわずやや癇症の面をたまに見せる。アスランはこの同僚を敬遠していた。事
あるごとにアスランをライバル視して突っかかってくるからだ。
「つつけば慌てて巣穴から出て来るってか?」
ディアッカ・エルスマンがクスクス笑った。金髪に浅黒い肌、陽気そうな外見だが、
実は結構な皮肉屋である。
彼等も、その後ろに控えていたアスランらも、いずれもザフト軍のエースであること
を示す赤いパイロットスーツを着用していた。その周りには緑のパイロットスーツを
着た各チームの構成員が、アスランたちを守るよう取り巻く。
ヘリオポリスへの侵入に成功したアスランたちはモルゲンレーテを遠くからスコープ
で見つめていた。ザフト艦侵攻の知らせが入っているのだろう。その工場区はにわか
に慌ただしかった。すると、工場の巨大なシャッターが開き、そこから巨大なコンテ
ナを積載したトレーラーが出てくる。
「……あれだな。」
「やっぱり間抜けなもんだ。ナチュラルなんて」
イザークが冷たく言い放つと、発信器のボタンを押した。アスランは隣にうずくまっ
ているニコル・アルマフィが、緊張しきった顔をしているのに気づき、軽くその腕を
叩いた。ニコルはアスランを見やり、ややこわばった笑みを浮かべる。淡い色の巻き
毛と大きな目をし、色白で少女めいた顔立ちの彼は、アスランより一つ年下の15歳
だ。
うしろにいた、ラスティー・マッケンジーがからかうようにニコルの背中をどやし
た。
「時間だ。」
カウンターがゼロになり、工場区のあちこちで爆発が起こる。それとほぼ同時に港を
突破したモビルスーツがモルゲンレーテを攻撃し始めた。混乱に乗じて、アスランた
ちも行動を開始した。


カーリー感想

長すぎだと思いませんか?! 思いますよね!?