9話 希望のダイアモンド 0 絶望からの浮上
ゆらゆらと世界が揺れている。
ゆらゆらと揺れている世界の奥に深く沈んでいく。
「探して…守って…希望を……」
目に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうな彼女がオレを見つめながら言う。
「探して…それを…」
耳に残る声。
オレは、あの地に関係ないだろうに……。
「……でも……」
何処かで見ているいつかの風景。
「――」
騎士がオレの名を呼ぶ。
いつも無愛想な奴だった。
「――」
姫さんは姫さんらしく可憐で、側にいる相棒とはまた違った。
その二人がオレを呼ぶ。
いつも側にいる相棒と共にオレは二人の元へと向かう。
国がまだ平穏だった頃もこうして向かっていた。
お嬢さんが姫さんになって、女王になっても二人はあの頃と同じように呼んでくれる。
変わらないことは安心であり、不安でもある。
友人であり、親友でもあり、仲間で……。
でも、オレは、あの場を………………。
襲いかかる魔物。
燃える家々、逃げまどう人々。
それらを助けながらオレは二人の元へと向かう。
いつもの笑顔で二人はオレを出迎える。
「――、――」
オレは二人の名を呼ぶ。
「――」
二人は笑顔でオレの名前を呼ぶ。
あぁ、闇はそこまで近づいているというのに。
どうして二人は笑顔でいられるというのだろうか?
オレは懸命に今の状況を説明する。
今、この国が迎えている現状。
オレの言葉に彼と彼女は全て分かっていると頷く。
そして、その原因も。
オレは、その原因を知らない。
原因が何か理解している二人はだからこそ………という。
二人の意志は変えられない。
それでもオレは二人に言う。
笑顔で首を横に振る二人。
そして二人はオレの名を呼ぶ。
オレの名は………。
「ディル…、ディル!!」
目を開けると、ヒリカがオレの顔をのぞき込んでいた。
「どうしたのディル、疲れてるの?起こしても全然起きないから、心配したよ?」
ヒリカの言葉にまだ頭はぼんやりとしている。
「夢を……見ていた」
口に出そうとは思っても居なかった言葉がついと出る。
誰だって夢を見る。
当たり前のことを驚いたかのようにオレは言う。
「…ディル?」
「今じゃない……」
じゃあ、いつ?
「ココじゃない」
じゃあ、ドコ?
「二人がいて……」
姫と騎士と………オレ?
「いや、アレは、オレじゃない……」
オレは、姫も、騎士も、知らない……。
でも、何でオレは『知っている』?
「ディル?」
訝かしげにヒリカはオレの顔をのぞき込む。
ゆらゆらとゆったりとした揺れ……。
波の音がする。
「どこ……?」
「今?もうちょっとでシルキリアの運河だよ」
少ない言葉でヒリカはオレの言いたいことを理解する。
ホントの意味は違うけれど……。
それで、オレは思い出した。
今オレ達はトエルブス大陸の港アトゥマクルからクゼル王の船に乗ってシスアードに戻る所なのだと。
今はまだクゼル王の船の中なのだと。
「ディル、大丈夫?」
「あぁ、寝ぼけてただけだって」
「なら…いいけど…」
オレの返答に不安そうに見ていたヒリカは安心する。
オレは夢の内容を忘れたふりをしてヒリカと一緒に客室から甲板へと出る。
昔も見たような夢。
いつの夢か覚えていない。
いつ見たのかも覚えていない。
でも、彼女の言葉だけは覚えている。
「ダイアモンドを守って」
「探して、希望のダイアモンドを」
その言葉だけは……。
オレが、光と闇の七ツ石に興味を持ったきっかけなのだから。
彼は腕を広げる。
その背後の彼女は彼に腕を伸ばす。
世界はそこで終焉する。
誰にも語られることのない……その世界は、今も眠っている。