ファルダーガー

  第5章 ・6部 新世界へ  

 エラン様にお会いして次の日、ラテスの姿が見えない。
 結構、本格的に行方不明。
 朝食の時、モルちゃんに聞いてみたらどこに行ったか分からないと言われたからだ。
 ちなみにエラン様も姿が無いらしい。
 だから今日の朝食はモルちゃん作。
 なんだか、申し訳ないような。
 結局あたしの昨日からの疑問が解決されてない。
 これから何処に行くというんだろう。
 って言うかドコに行けばいいんだろう。
 リグリアについてすぐは一人旅だぁって思ってどこ行こうなんて考えてたけど。
 いざ一人にされると不安って言うか。
 エラン様の話を聞く限りではトマスビル大陸みたいだけど。
 結局、昨日はラテス教えてくれなかったし。
 秘密主義ってやつみたい。
 ワール・ワーズは仕事で既にエラン様の神殿から外の場所に移動しているのでもう、ここには、居ない。
 ねぇ、ラテス何処にいくの?
 そう聞いても教えてくれなさそうだ。
 今更だけど、カーシュがラテスの事嫌っている理由が分かる。
 ラテスってよく、
「後でね」
 とか。
「ミラノちゃん、どうしたの?」
 なんて、ラテスは全部分かってる筈なのに。
 秘密にされてること多いからちょっと嫌なんだよね。
 ラテスは神様だからしょうがないってなんとなくは分かるんだけど…でもなぁ。
 助けてくれるのは嬉しいんだけど…。
 なんだろう、この感じ。
「ミラノちゃん、どうしたの?」
「カーラ?!」
 なんでまだエラン様の神殿にカーラがいるんだろう…。
 ワール・ワーズと一緒に出かけたんじゃなかったのかな?
 そんな疑問に気づいたのかカーラは教えてくれた。
「何時も一緒に行動してるわけじゃないんだよ。一緒の時も多いけどね」
 意外だよね。
 いつも一緒のイメージがあるから。
「よく言われる。でもワール・ワーズにはあたし以上にやらなくちゃいけないこといっぱいあるから忙しいんだよ」
 ちょっとだけカーラは寂しそうに言った。
 カーラとワール・ワーズは仲がいいから余計にそう思うのかな。
「カーラは、これからどうするの?」
「あたし?あたしは一回アルタミラに帰るよ。今回のことミディア様に報告しないとね」
 と、カーラ。
「ミディア様って古代月の女神?ミディア様のこと?」
「うん、そうだよ」
 カーラは嬉しそうにあたしの質問にうなずく。
 そう言えば、カーラはミディア様の神官でミディア様はエルフの守護神なんだっけ。
「ねぇ、カーラ。あたしも一緒に行ってもいい?」
 まだラテスに言ってないけど別にいいよね。
 どうせ、居ないんだし。
 大丈夫だよね?
 いろんな神様に逢えって言ったのラテスだもんね。 「うん、いいよ。アルタミラに行こう。アルタミラの都も凄いけど側にある湖も凄いんだよ。それにミディア様の神殿は創造神オリア様の神殿でもあるんだよ」  楽しそうに話すカーラの案内ならなんか楽しそうな気がした。

「構わないのか?」
 闇が包む部屋で彼は彼に問い掛ける。
「どうして?」
「お前は彼女を殊更気に入っているようだからな」
「確かに気に入っているよ。見てると面白い。何も知らない子供の様で、見ていて飽きない。そのくせ、どきっとする事を彼女は言う」
 彼は彼女達の映っている鏡を見つめる。
「このまま、何も知らないまま、いて欲しいって願うんだよね。でも彼女はね、ちがう世界の人間だからって甘えては困るんだよね」
「俺の見ている限りではそんなことはないようだが」
「そうだね…。けどオレは彼女にとって優しい神じゃない」
「我らが息子よ。我らはお前が進む先を見守っている」
「ありがとう」

 とある屋敷の一室は暗闇に覆われていた。
 ここに来るたびに彼女はため息を着く。
 彼が此処にいる人間を構うからだ。
 今日ここに来たのは自分が相手をすれば彼は今までよりここにいる人間を構わないだろう。
 そう思っての事だった。
「気分はどう」
「思っているほど悪くはない」
 彼女の問いに彼はそう答える。
「ところであんたは誰だ」
「ホルムから聞いていない?」
「別に」
 彼は彼女の問いに素っ気無く答える。
 それを聞いて彼女は、ホルムが彼をどうしようとしているのか分からなくなる。
「アタシはネイ・ラパス・サンラファエル。ホルムの…そうね、片腕とでも言っておこうかしら」
 そうネイは言う。
「こんなに暗くても分かるんだな。あんたの髪の色。紅い色」
「あんた、暗闇に目が慣れすぎ」
「ここにいたほうが落ち着くから。暗闇は嫌いじゃない」
「あたしも嫌いじゃないわ。見たくも無いものも隠してくれる」
「見たくないものか…。俺は見せたくないものの方が多い」
「…誰に?とはまだ聞かないでいてあげるわ」
「ありがとう、ネイ。オレはリュウ…そう名乗る様に言われた」
「なら貴方は、リュウ・ルトレイク・ノックスと名乗りなさい。ルトレイクは闇の奥。ノックスはその入り口。両方とも堕ちる事を意味するわ」
「あんまりいい名前でもないな。でもソレがオレには相応しいのかも知れない」
 自虐的にそう言葉を吐き出すリュウにネイはただ事務的に言う。
「ココから移動するわよ。もうこの場所は必要ないから」
 リュウはネイの言葉に頷き先に部屋を出た彼女の後を追って部屋を出る。
 今まで居たその部屋を一度だけ振り向きすぐに前に戻す。
 その様子を見てネイはその表情のなさにため息をついた。

 エラン様の神殿の奥に有る空間転移の扉。
 そこにあたしとカーラはモルちゃんに案内してもらいやって来た。
 空間転移の扉は場所と場所を繋ぐための扉じゃないらしい。
 制御者が繋ぎたい場所へと繋ぐ事が出来るらしい。
 …って事は、あたしが始めて空間転移の扉を使った時にマルマラ共和国に行ったのは偶然じゃなくって、バキア様が決めたって事?
 あれ?知ってたの?
 バキア様はマルマラの大統領が襲われるって事…。
 まさかそんなことないよねぇ。
 あそこにはカーシュも…ってカーシュはブタン山脈の反対側にいたんだっけ…。
 じゃあやっぱりバキア様は知ってたって事になるのかなぁ。
 考えすぎかなぁ。
 …ラテス…。
 三聖人は…ラテスと知り合いなんだよね…。
 ラテスか…。
 ラテスは気付いてたのかな?
 ただの偶然?なんか気になったら気になって来ちゃったよ?
 今になって思う。
 カーシュが、ラテスの事気に入らないっていう理由。
 どうしよう…あたし、ラテスの事信じられてない。
 これって不味くない?
 え?あれ?
 でも気になる。
 空間転移の扉が制御者の望むまま、につなげることができたら。
「ミラノ、どうしたの?」
 一人考え込んでいたあたしにカーラが聞いてくる。
「カーラ、空間転移の扉って好きな所に行けるの?」
 聞いてどうするんだろう。
「場所にもよるかな?どこの?」
「カバネルなんだけど…。マルマラに着いたら大統領が狙われてるっていうのが分ったから、偶然じゃなくってもしかしてバキア様は知ってたのかなって……」
「カバネルだったら好きなところいけるかな?でも、気にしすぎだよ。なんでそんなこと思ったの?」
「最初に着いたのがマルマラ共和国だったから……。ドレスデンの近くでね。ファナが大統領府に行こうって……」
「ミラノ、やっぱり考えすぎだと思うよ?ファナが大統領府に行こうって言ったのは、カバネルのウォールナイトが休暇でもないのにマルマラにいたら何事かって思われる訳だし?その為の滞在許可と、あとミラノの軽いお披露目?みたいなモノ?もあったと思うよ」
 そ、そうだよね。
「もう、なんで急にあたしこんなこと思っちゃったのかな。ラテスが勝手に決めたのかななんて思っちゃったからさ。ほら、ラテスって三聖人と知り合いだったし」
 はぁ、カーラに話してすっきりしちゃった。
 これから先のことで不安になってたのかなあたしって。
「わかったぁラテスが居ないから不安になったんじゃないの?」
 突然楽しそうにカーラは聞いてくる。
「不安?まぁそうかもね。ほらいろんな所引っ張り回されてるから急に放り出されたって感じ?」
「なんだ好きとかそう言う恋愛感情じゃないのか」
 そう答えたら反面カーラはつまらなそうに言う。
 なんで恋愛感情。
「じゃあ、ミラノの好きなヒトって誰?」
 い、いきなりなんでそれ〜〜。
「ほら、フェル王子に迫られたとき好きなヒト居るっていってなかったっけ?」
 あ、あれは〜。
 な、なんて答えたらいいのぉ〜。
「いい加減に行かないと、ミディア様が待ってるよ」
 なかなか扉の中に入ろうとしないカーラ(あたしも含めてだけど)にモルちゃんは言う。
 助かったよ、モルちゃんのおかげで。
「そうだね。では、行こう!トマスビル大陸最大都市アルタミラに!!」
 カーラのかけ声にあたしはうなずく。
 どんなことが待ってるんだろう。
 楽しそうなカーラを見ていたらわくわくしてきたよ。
「行ってらっしゃい、二人とも」
 モルちゃんの言葉にあたし達はうなずき、扉の中へと身体を滑り込ませた。

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