ファルダーガー

  第2章・3部 急展開  

 ファナの体調が思ったよりも早く回復した。
 けど、大事をとってそれから二日間、ロマーニャの城でお世話になりさっき、ロマーニャの市街地に入り始めた。
『サガの所行。空間転送人はここです』
 と、いうプラカードを持った男が一人。
「何やってるんだい、ラテス」
「そうよ、第一、何故あなたがサガの居所知ってるのよ」
「そう、怒らない怒らない」
 ファナとカーシュの言葉にプラカードを持っていた男…ラテスはにっこり笑う。
「ラテス…本当に知ってる?あたしラプテフにいるって言うのしか聞いてないの…」
「大丈夫。ちゃんと知ってる。ラプテフにいるって言うのもあってるよ」
 あたしの質問にラテスは満面に笑みを浮かべて頷く。
「安心していいよ、オレは本当に知ってるんだから。ま、実際の所サガに頼まれたんだよねぇ。さ、行こう、サガが待ってる」
 ラテスの言葉に半信半疑のファナとカーシュを説得しあたし達は覚悟を決めて、ラテスの言う通りにしたのだ。

 ふと気が着くとあたりは木々が鬱蒼と生い茂っていた。
『ここで迷うと…二度と出て来れない…』
 そんな気がした。
「ここは霊峰フーキのふもとの樹海だよ」
 樹海…ねぇ。
 ん…?
 んん!!
 霊峰フーキって確か…富士山よね。
 富士山のふもとの樹海って言ったら青木ヶ原の樹海って言ったらぁ…、自殺の名所じゃないのよぉ。
 しかも、一度迷ったら二度と生きては帰れない…。
 こんな所にサガはいるのぉ?
「そう、ここは大地の黄昏と言う所。ガイアはここにきて世をはかなう」
 …ガイア様が?
「そう…この先にガイアの奥宮がある。奥宮って言っても洞くつになっていて、そこにサガがいるよ。…………ん?!」
 突然、ラテスの顔が厳しくなる。
「早いなぁ、まいたと思ったんだけど…。急いで、サガの所に行け。下手するとサガが危ない」
 ラテスの言葉にあたしは戸惑う。
「どう言う事なの?」
「ミラノ何ボーッとしてんだよ。いくぞ!」
 カーシュにせき立てられあたしは走り出す。
「ねぇ、どう言う事なの。」
「ラテスはあたし達よりも先に邪悪な妖気を感じ取って…多分そいつらは『暗黒集団”魔界衆”』」
 …『暗黒集団”魔界衆”』ってチレニアの皇帝の側にいた人だよねぇ。
「そう、今は『魔界八人衆』と名前を変えているんだ」
 『魔界八人衆』…。
「どうして、あいつらが?」
「おそらく……『大地の剣』」
 どうして?
「それは分らないわ。でも、私の所にもカーシュの所にも剣を求め『魔界八人衆』がやって来たの。だから、『大地の剣』を持っているサガも危険なのよ」
 と、ファナは説明する。
 そして、洞くつが見えて来た。
「あそこにサガが…」
 あたしの言葉に二人は頷く。
 洞くつの中に入ると心無しか涼しく感じられた。
 中央までいくとそれは思ったよりも広い空洞を構成していた。
「遅いぞ、お前達」
「サガ?」
「ミラノ久しぶりだな」
 との声と共に奥からサガがあらわれる。
 『大地の剣』をたずさえて。
「元気そうだな、ファナ、カーシュ」
「まぁね、サガは寂しくなかった?」
 サガの言葉にファナは笑いながら聞き返す。
「見つけたわ」
「ホント、やっと会ったわねぇ」
「おばさん、あたしの前に立たないでくれる」
「…だっ誰がおばさんでって、ラリー」
「へぇ、ベルは自分でおばさんだって分かってるんだぁ。誰もベルがおばさんだなんて言ってないのに」
「………」
 『魔界八人衆』のネイ、ベル…そして……ラリー。
「あ〜ら、久しぶりねぇ、ミラノ」
「何しに来たのよ、こんな所に」
 三人を見回す。
 ネイとベルはあたしを睨み付け…ラリーは目をあわす事をしない。
「決まってるではないですか…、久しぶりですね勇者ミラノ様」
「…ホルム…」
 ホルムまでもが出て来た。
「4本の聖剣を頂きに参りました」
 その言葉にサガは剣をぬく。
「サガ、ここでやるつもりなのですか?ここはガイアの奥宮ですよ」
「……っ」
 しかし、サガはホルムの言葉に黙り込む。
 どうしようも出来ない状態でいる。
 なら、突破口を作るのみ!。
 幸い出入り口の穴は広い。
 そう思ったあたしは『光の剣』を取り出し、今日、初の『光波動剣』(命名あたし)を繰り出したのだ。
 『光の剣』から発せられた光はまっすぐに入り口へと向って行く。
「なにぃぃぃぃ!」
 味方からか敵からか発せられたのかは分らないけど、みんな驚いている。
 光は入り口の壁にかすらずに外に出て行く。
「うわぁぁ。すごぉい」
 光がおさまった後、ホルム達の姿が見えなかった。
 ま、気にせずに。
「ふぅ、今のうちだよ」
「……今のうちじゃない、何考えてんだよ、お前はぁ!」
 え…何ってカーシュ。
「洞くつが崩れたらどうしようとか考えなかったのか。しかも、ここは仮にもガイアの奥宮だぞ」
 えぇん、サガのバカぁ。
 そんなふうに言わなくっても、いいじゃないかぁ。
 力……セーブしたし、やっちゃえばこっちのもんだって……ゼルが…。
「ミラノ、ゼルが言ったの?」
 ファナの言葉に恐る恐る頷く。
「なに考えてるのよ…あの人は」
「あの筋肉ゴリラ、よけいな事吹き込みやがって…」
「と…取りあえず、でようよ」
「お前が言うな!」
 えーん。
 三人に怒られながらも洞くつの外にでる。
 ふぅ、何かゼルってそこら中で不評かってるような気がする。
 取りあえず洞くつの外に出ると『魔界八人衆』に守られるように立っている男が、あたし達が出てくるのを待っていた。
「…誰…なの」
 不安と恐怖が入り交じった様な感情が立ち篭める。
 なんか…嫌な感じがする。
「ロマ様。この者があなたの憎む神が遣わした者どもです」
「何…ロマ…だと?」
 ホルムの言葉にあたし達は衝撃を受ける。
 彼の…ホルムの隣にいる男がロマだと言う事に…。
 でも…目がうつろだ…。
 なにか…魂がない様に感じる…。
 そう、人形みたい…。
「何故、ロマを復活させた!」
「クックック…。復活…ですか。すばらしい表現ですね。復活とは…」
 サガの言葉にホルムは無気味に微笑む。
 ふと、一つの疑問がついて出る…。
「ねぇ、本当にロマなの?」
「何を証拠にそんな事言うのよ!」
 ネイがあたしの言った事にヒステリックに反応する。
「…どう言う事だ…」
「本当に…ロマじゃないのかも…」
「ネイ…落ち着け」
 ネイの反応の仕方に一同騒然となるが、相変わらずロマは目がうつろだ。
 …と、いうよりも…微動だにしない。
 どうして…?
「剣を…渡してくれる様子がないみたいだな」
 地の底から…聞こえる…声。
 今までピクリとも動かなかったロマが話す。
 でも…ロマが話している様に感じない。
 その瞬間だった。
 ロマが大地を滑るようにあたしの所にやってきて、手に持っている大剣を振り降ろす。
『あっっっ』
 どうしようも出来ないと思った瞬間、咄嗟にサガがロマの大剣をとめる。
「ミラノ、何やってるんだ!」
 ロマの剣を払いながらサガは怒る。
「サガ、ごめん」
 そう言いながらあたしは『光の剣』を出す。
 そんなあたしの剣をみながらロマは来た時と同じように地を滑るようにして戻って行く。
「ロマは…本当に偽物かもね」
 ふと、ファナは呟く。
「…マジかよ…」
「勘よ、勘!」
「不安だ」
 でも、ファナの勘、あたしは当ってると思う。
「…ミラノ、それは勘なの?」
「…もあるし、人って…そんなに簡単に生き返る事ができるの?」
 あたしの言葉に皆はロマを見直す。
 それに、もう一つ疑問に思っている事…。
「『魔界八人衆』が…襲ってこない…まるで、何かを試してるみたい」
「………ロマ……をか?」
 そう、サガが呟いた時だった。
「クルア・セルノ・トーイ・ルーイ・パルス・ミラ・カース・ケイ……」
 地の底から響いてくるロマの声。
 あの呪文は?!
「ミラノ!?」
「カーシュ、どうしよう」
「あの呪文は防げない。術士を倒すしか…」
 あたしはカーシュの言葉が終らないうちにロマの元に走り始めた。
 今、ロマが詠唱している呪文は冥府の王ルシファーのスペシャル呪文。
 ルシファーしか使えなくって、防ぐすべはルシファーしかしらない。
 そして、その呪文は国一つが滅んでしまう程の強大な呪文。
 ……でも、ルシファーしか使えない呪文を何でロマもどきが使えるんだ?
 あ!ロマもどきにしちゃった。
 ま、いいか
 多分、人形か何か。
 でも、とめる方法はただ一つ。
「……キース・トラリアーノ・ビルア・スルト・モール…」
「ハアアアアアアアアアアアアアアア」
 ロマが呪文を唱えている間にあたしはロマの間合いに入って行く。
『ズサッ』
「……」
「……ロマ様?」
 ホルムの驚きと共にあたしは剣を引き抜く。
 次の瞬間だった…。
 ロマが…膨張を始めたのは…。
「ミラノ!!逃げろ」
 突然、カーシュが叫ぶ。
 でも…足が動かない…。
 自分が、今行った行為とロマの突然変異に驚いて足が動かなくなってしまったのだ。
 いくら…悪人でも…ロマは…人かも知れない…。
「しっかりしろ、ミラノ」
 あたしの異常な様子に気がついたのか、サガが側にやって来た。
「……サガ」
「大丈夫か?お前の気持ちは分かってる。ロマを見ろ、あれは人でも亜人種(デミヒューマン)でもない」
 サガがロマをみる。
 異常なロマが、さっきまでロマだったかも知れない物体がそこにあった。
 しかも、まだ膨れ上がり続けている。
 そして周りには『魔界八人衆』はいない。
「サガ、早く。何か嫌な予感がするわ!」
 ファナが叫ぶ。
「分かってる。ミラノ、動けるか?」
 サガの言葉に頷く。
「よし」
 その言葉でぎこちなく走り出す。
 カーシュ達の所へついた瞬間だった。
 最初で最後の本気のロマの声を聞いたのは。
「はぁ!私は死なんぞー!」
 そう、ロマが叫んだかと思うと大きな音を立て爆発したのだ。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
 そして、爆風があたし達を襲った。

 気がつくと側にはサガが横たわっていた。
 息…してる。
 無事…みたい。
 …ファナとカーシュがいない!
 起き上がってあたりを見回すと、あたりは、さっきの樹海とは違うみたいでどこかの森の中。
 そして、ラテスが立っていた。
「おはよう、ミラノちゃん」
「ラテス…どうしてここにいるの?カーシュとファナは?」
「二人は、転移させた」
「…そうか…」
 背後でいつの間に気付いたのかサガが立ち上がっていた。
「どうするんだい?サガ」
「取りあえず…オレのうちへ。ここは、どこだ、ラテス?………多分」
「ここはショルドのキアヌフの森(新宿御苑)だよ」
「そうか…ミラノ、大丈夫?立てる?」
 サガが手を貸しあたしを立たせてくれる。
「ここからは、すぐ近くだ、うちに行こう」
 そうサガが言った。

「さて、詳しく話したい事もあるんでいいかな?」
 サガの家に付きラテスが口を開く。
「…ミラノ、ロマは消滅したけど、君は帰る事が出来なくなった」
 …どういうこと?
 ロマを……殺してしまったから?
「違う」
「…ロマが膨張して爆発した時にできたあの穴のせいか」
 サガの言葉にラテスが頷く。
 穴なんて…あったの?
「あったよ、お前に見せなかっただけ」
 サガがあたしに言う。
 爆発する瞬間、サガはあたしを体全体で守ってくれた。
 その時、みたんだろう。
「ねぇ、ラテスどう言う事なの?」
「…実は、ロマが魔法を唱えた時の魔力が『光の剣』が突き刺さった反動で本来出るはずの魔力が二つの相互により…って言う事もあるんだけど、これは一つ問題があって、『光の剣』が闇の魔力を霧散してしまうんだよ。じゃあ何故、霧散せずにロマの体内に入り込み、ロマ自身が爆発したのか…」
 …じゃあ、ロマは何なの?
「人間じゃない…ってことか?」
「やっぱり人形か何かなの?」
「人形ではないね。反魂の術はたやすくできるものじゃなくって、唱えた術士本人の犠牲を元にするし…。あの術は法皇クラスの呪文でね。…二人ともチレニアの皇帝を覚えてるかい?」
 チレニアの皇帝って…。
「キマイラになった?」
「そう、キマイラは合成獣だ。チレニアの皇帝は魔法付加による偶然とタイミングの産物だ。……ここで一つ昔話しようか……。昔…とある魔力研究所で行われていた実験には三体の動物が使われた。そして、魔法付加による実験で、彼等は叫んだ。『これなら知識ある生物が作れる』とね」
 知識ある生物………?
「どう…いう意味だ」
 あたしのサガの疑問にラテスは謎かけるように答える。
「高度な知的生命体と凶悪な魔物との合成」
 ……ま…まって。
「まさか……人と…モンスター……か……」
 サガとあたしの恐怖にラテスは静かに頷く。
「そうだ、人間とモンスターを合成させようと研究が開始された」
「待てよ、キマイラの作成は全面禁止のはずだ。ましてや人との合成だなんていう話は聞いた事ないぞ」
「そう、サガ、君のいう通りだよ。…今、オレがした話は現在の歴史では存在する事を許されない時代の話だからな」
 ラテスの言葉にあたし達二人は呆然となる。
 存在を許されていない歴史なんてあるの…。
 消え去った歴史なんて……。
「……あるよ、歴史は都合の悪い事は消える運命だからね……」
 そんな…。
「………!。フィナール暦か…。セリアから聞いた事がある。セルフィラ暦とスコピア暦の間にある現存してはいけない歴史だと…」
 サガは静かにいう。
「そう…空白の歴史は三つに区分される。キマイラの誕生とキマイラの成長期。そしてキマイラ対人間の争い。…と歴史は区分されるけどすべては三つ目のキマイラと人間との戦いに集約される」
 まって、ラテス。
「何、ミラノちゃん」
 今、思い出したんだけど…スコピア暦の最後って突然文明が消滅してるわよねぇ、もしかして、これでなくなったの?
「その通り。キマイラ対人間の戦い。この三つ目が一番長くて約二百年ぐらいの歴史しかないけど、百年程戦ってるんだよ」
 ラテスは一息入れる。
「でも、決着がつかない…。というよりも人間の方が圧倒され始めた。神々は黙ってみていた。人がおろかに滅び、キマイラも消え去る瞬間を」
 ラテスの言葉が静かに響き渡る。
「どうなったの?」
「おろかな人間は持てる英知をすべてかけ、キマイラを滅ぼした。でも、その為に人は文明を、知識までもを失い、もう一度進化をたどる事になった。そして、ロマの事を説明するね、ミラノちゃんの感情を元に戻す為に」
 ラテスの言葉に頷く。
「ロマはキマイラとバイオによって作成された疑似生命体なんだよ。能力的にはロマの半分以下だろうな。付加によって作成されたキマイラがルシファーの魔力の付加と『光の剣』の付加に絶えきれなくなったせいだろうな」
 その言葉を聞き凄くほっとした。
「で、あたしが戻れない理由は何?…」
「ごめん」
 いきなりラテスが謝る。
 な、何?
「ロマを倒せば平和になるなんて嘘」
 うそ?
「ロマを倒せば平和になるなんてラテスから聞いてないよ」
「三聖人が言ったんでしょう。でも、あれはオレが言ったようなものなんだよ。三聖人に君を召喚させたのもオレなんだ」
 ………じゃあ、どうなんの?
「君の力が必要なんだ。きっとこの世界がそう思って君の世界に通じる穴を閉じてしまったんだよ」
 なんか…無茶苦茶なんですけど…。
「分かってるむちゃくちゃだって言う事も。でも、多分そうなんだよ。ごめん」
 ふぅ…。
 ラテスは平謝りばっかり。
「じゃあ、これからどうするの?」
「ともかく、後はサガにまかせた!じゃあ、ファナとカーシュに無事だって事言ってくるね。じゃあね」
 なんか、最後の方を適当にラテスは何処かへ消え去ってしまった。
「まったく、ラテスは適当だな。ミラノ、取りあえず、オレの所いな。一人じゃ、不安だろう」
 サガはあたしの方をみながら言う。
 それも、そうだね。
 そんな時だったラテスが突然現れたのは!」
「ミラノちゃん、君が戻れないもう一つの理由が見つかったよ」
 もう一つの理由?
 そんなのあったの。
「あったんだよ。君と同じ世界の人間がここに入り込んでるんだよ。その人間が帰ろうとしない限り君も帰れない」
 はぁ?
 どう言う事それ。
「君の近所で行方不明になってる人いないかな?多分その人がこっちに来ているんだよ。それじゃあね」
 …………そういって嵐の様に消え去ってしまった。
 そしたら…一人しかいないじゃないの。
「……思い当たる人いるのか?」
 幼馴染み…。
 龍太郎、あなたはここにいるの?
 前見た夢は正夢なの?
「好きな人か何か?」
 サガは静かに聞く。
「違う。いつも遊んでいた幼馴染み。いい奴で、男の親友って感じだった」
 ネイにさらわれた夢を見たのを思い出す。
 じゃあ、『魔界八人衆』なの?
 ……じゃないよね。
「ミラノ、部屋に行こう。すこし休むといいよ」
「ありがとうサガ」
「……大丈夫だよ」
 サガはあたしに勇気づけるように言う。
 本当にありがとう。
 サガのおかげで元気になれるわ。
 でも、本当にここにいるの?
 疑問を抱きつつ、サガに連れて来てもらった部屋で休む。
 まだあたしはその疑問があるとき確信に変わる事知らずにいたのだった。

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