--再開と過去--

 

 崩れ落ちる建物の中で、髪の色素が薄い青年は、黒髪の男に問い訊ねる。

「先生、僕は、死ぬのかな…?」
「ん〜?あぁ、そうだろうね…」

 あまり興味のない声色で男は青年の問いに答える。

「…そっかぁ…。そうだ、先生。僕、『』に逢ったよ」
「『』?」
「そう、先生が言ってたじゃん」
「あぁ…『』ちゃんね。そう言えば、そうだったねぇ」

 青年の言葉に男は面白そうに笑う。

「先生の言ったとおり、カワイかったよ。でも、アイツ等となんで一緒にいたのかな…。先生、何でだろう」
「さぁ、どうしてだろうねぇ〜」

 楽しそうに、男は青年の言葉に応えた。

「そう言えば、先生の事聞かれたよ。吸魂の術は誰が教えたんだぁって。それからその教えた人はどこにいるのって。でも、先生の事言わなかったんだ」
「ふ〜ん。言っちゃっても、別に良かったけどねぇ」

 だが、その様子は、どこかつまらなさそうにも見えた。

 

 

***

 

 

 わたし達は少し大きな街にたどり着く。
 活気のある声がそこら中に響き、あまり妖怪の影響を受けていないように見えた

「とりあえず、今日の所はココまでですね」

 八戒が町中を速度を落して、宿を探すようにジープを走らせながら言う。

 まだ、午前中(もうすぐお昼になるけど)。

 前の街を抜けたのが、明け方近くの事で、一日の走行距離としては、半分の時間は減らしていると言っても過言ではないけれど。
 それでも、こんなに早くに、一日の行程を終わらせることはなかった。

 しかも、八戒の独断で。

「何を言っている」
「どういう事だ」

 八戒の言葉に三蔵はあからさまに訝しげな視線を向け、悟浄は、声を上げる。
 ちなみに悟空はお昼時のためにへばり中。

「八戒?」
「実は、この先、2.3日は街が無いようなんです」
「ホント」
「マジかよっ」
「また野宿?また、ひもじくなんの?」
「……」

 冗談で済まして欲しい八戒の言葉に、全員が驚く。

「本当の事です」

 その言葉に、全員がため息をつく。

「どうしますか?三蔵。この辺で少し、長めの休憩を取りませんか?」
「……」
「僕としては、ジープの具合が悪いので、2.3日は休み取りたいんですよ。結局、この前は何だかいろいろあったんで、ジープを休ませる事が出来なくなってしまったんですよね」
「なんか、棘感じるんすけど。っつーか……聞く必要あるのかよ、それ」

 悟浄の言葉を無視して八戒は三蔵の返事を待つ。

「聞く必要あるのかよそれ…」って言った悟浄の言葉。
 …わたしも思った。
 って事はみんな思ってる。

 ジープの具合が悪かったら、ココでジープがいなくなったら、西まで歩いていくしかないし(飛行機とか電車とかがあるじゃんって言う意見は却下っ(爆))
 そんなの、絶対ヤダって反対する人たちだし(わたしは、どうでもいいんだけど)。

 …それにしても否応無しだと思う。

「………ジープの具合が悪いのなら、仕方がない。2.3日この街に留まるぞ」

 そう、三蔵は言葉をはき出すようにいった。

 いつも思うけど、八戒の掌握術っていうのは凄いと思う。
 掌握って言うのかな?
 ともかく、八戒は策略家タイプよねきっと。

 宿屋を見つけて、部屋を取る。
 大きな街だからか、部屋数が多い、宿を取る事が出来たおかげで、この街にいる間は一人一部屋だ。

「さーて、宿も決まって、部屋も割り振ったし、ココから個人行動って事で。俺、ちょっと出かけてくるわ」

 いったん、三蔵の部屋に集まり、今後の予定について&他に関して話てる最中に悟浄がそう言う。

「また、ナンパですか?」
「んにゃ、ちょっと、買い物。タバコが切れてさ」
「オイ、悟浄」

 八戒の問いに答えて、部屋を出ようとした悟浄に三蔵が声をかける。

「あ?何だよ」
「マルボロ赤1カートン」
「……おい、テメェ。自分で買ってきやがれっっ!!I!」
「貴様の分を買うついでだ。金だったら、後で払う。文句は無いな?」
「文句ありありだね。何でついでにテメェのなんざ買って来なきゃならねぇんだよ」
「テメェが買いに行くんだろうがっっ」
「いつそんな事決めたっ。俺は、散歩がてらに買いに行くんだよ」
「散歩がてらに俺のも買ってこいって言ってんだ」
「てめぇ〜」

 ……いつものごとく始まる悟浄と三蔵の言い合い。

 どうするって?目を八戒に向けたら、八戒は苦笑して首を横に振る。
 毎度の事で呆れるやら、止める気がしないやら。

 ちなみに、悟空は、三蔵の部屋にあったお茶菓子を頬張り中。

 止める気がしない、言い合いとはいえ、この後本当に永遠とたとえ三蔵が

「死にたくなきゃ買ってこいっっ」

 って発砲して部屋に穴開けても。

「銃弾めり込んじゃいましたねぇ。修理代いくらかかるんでしょうねぇ。三仏神の方々にはいつも申し訳ないですねぇ」

 なんて八戒の心にもない言葉を聞きながらも止まらない、悟浄と三蔵の言い合いは、本当に誰かが止めるしかない。

「………三蔵、マルボロの赤だったよね。わたしも出かけるから、三蔵のはわたしが買ってくるよ」

 二人のケンカを止めるようにわたしは言う。
 八戒のにらみで止めるって言う手もあるんだけど、こうした方が一番、平和的に解決出来るのよね。
 出かけるのは本当だし、タバコ買うぐらい、苦にはならない。

「出かけるって、どこへ?」
「銃器屋さん。2.3日街に入れないのなら、銃弾を補充しておこうと思って」
「一人で…大丈夫ですか?」

 八戒の言葉と同じように心配そうな全員の視線がわたしに集まる。

「あ、あのさぁ。子供じゃないんだから、平気に決まってるでしょう?」
「それは…そうですが…ねぇ」

 八戒が同意を求めると、全員頷く。
 だから、何よぉ、その同意はっ。

「と、ともかく出かけてくるねっっ!!!」

 そう、宣言して、一人宿を出る。

 一体…なんだろう。
 この前の山の一件から全員過保護になっちゃってっっ。
 わたし、そんなに無茶しないわよっっ(時々するけど)。

 この地域としては最大級の街。
 ヒサシブリのにぎやかさに思わず目を細める。
 やっぱり、寂しいのよりにぎやかな方がいいな。
 銃器屋を見つけて店内に入り、9mm口径用の弾を買い求める。

「……ここか…」

 背後で声がして振り向いたら、三蔵がいた。
 き、気がつかなかった…。

「さ、三蔵、いつの間に」
「今、来たところだ」

 そう言って入ってくる。

「S&Wの召霊銃仕様の弾」
「……お坊さまが、拳銃を携帯するなんて、随分、物騒だねぇ」
「貴様には関係の無い事だ」
「確かにね。召霊銃のだろ?ちょっと待ってくれよ」

 店主はそう言って奥にさがっていく。

「面倒な仕様なのに、無駄遣いする三蔵ってちょっと問題だと思うけど」
「実弾も持っている。それなら問題ねぇだろ」

 ……実弾……ねぇ。
 …ってまてよ。

 対妖怪用が召霊弾だとしてぇ…、いつも、悟浄とか悟空に撃つ場合は…実弾…って事?

「当たったら、どうするの?いたいよ」
「別に、お前に向かってうっている訳じゃない」
「…って悟空や悟浄に向けて撃ってるじゃない。わたしだって、その場にいる場合だってあるのよっ」
「猿と河童にしか当たらないように撃っているから安心しろ」

 ……って言われても。
 そう言う問題じゃないと思う。

「待たせたね」

 店主が召霊仕様弾を持ってくる。

「寺院にも納品してるヤツだからね、安心してつかってくれ」
「問題ない」

 弾をひとつ取り観察して三蔵は言う。
 そして、通常弾も三蔵は購入する。
 そう言えば、三蔵がココにいるのに、悟空達はどうしてるんだろう、ふと思った。

 

 

***

 

 

「あ〜〜〜三蔵一行みっけっっ!!!今日こそ、経文を渡せ…?あれ?ハゲ三蔵は?」

 街を散策している悟空達の目の前にものすごい勢いで現れた褐色の少女。

「げっ李厘!!!!」
「このごろ現れないと思ったら、お久しぶりですね」
「生臭坊主だったらココじゃないぜ」

 少女の登場に悟空、八戒、悟浄の3人はどことなく不機嫌そうに対応する。

「三蔵はどうした」

 李厘の後ろに現れた赤毛の青年。
 李厘と同じように褐色の肌を持つ。
 紅孩児。

「さぁ?」
「さぁってお前達は自分達のリーダーがどこにいるのかも知らんと言うのか」
「って言われてもなぁ」
「今、自由行動中だし?一々三蔵の行き先なんざ知らねぇっつーの」
「予想はついてるんですけどね」

 不機嫌そうな3人に紅孩児、李厘、そして独角じは気付く。

「随分不機嫌じゃねぇのか?」
「何かあったのか?」

 問い掛ける、紅孩児に、

「あったと言えば、ありましたと素直に答えますけど。内容まではお断りさせていただきます」

 と、八戒は、にこやかにでもどこか不機嫌そうに対応する。

「口に出したくもねぇって奴?」
「ずりぃな、三蔵。ぜってーと上手いもん喰ってるって」
「…?」

 悟空のつぶやきに李厘が反応する。
 その時、不意に八戒が気付く。

 この一人、足らない事に。
 いるであろうもう一人の人物がいない事に。

「そう言えば、八百鼡さんはどちらに?」
「八百鼡とは今、別行動だ。この街で昔の知り合いを見つけたらしい」

 そう紅孩児は八戒の言葉に応えた。

 

 

***

 

 

様?」

 店を出た途端、不意に声をかけられた。
 辺りを見渡すと、色の白い綺麗な女の人。
 特殊な文様が書かれている銀の腕輪に気付かなければ、彼女が妖怪だとは思わないだろう。

「八百鼡ちゃん?」
「はい、八百鼡です」

 八百鼡ちゃんはニッコリと微笑む。

「無事…だったの?」
「はい、おかげさまで。あの後、紅孩児様に助けられたのです」
「…そっかぁ…」

 ふんわりと微笑んでいる八百鼡ちゃんを見て、わたしは心底安堵した。

 妖怪の八百鼡ちゃん。
 数年前、助けたくても、当時どうしようも出来なくって助けるからって約束した人、それが八百鼡ちゃんだった。

 所で、紅孩児???
 聞いた事ある名前なんだけど。

 その名前じゃないよね。
 八百鼡ちゃんが嬉しそうに言う『紅孩児様』とわたしが思い描いている『紅孩児』が結びつかない。

 きっと、別の人なんだろう。

 そう思った時だった。

「…どうして、貴様がココにいる」

 ようやく店の中から出てきた三蔵が、八百鼡ちゃんにむかって言う。

「…三蔵さん」

 ん?
 二人、知り合いなの?

「八百鼡ちゃん、三蔵と知り合いなの」
様、三蔵さんとお知り合いなんですか?」

 …はぁ?
 何?

「あぁ、八百鼡ちゃんみっけ!!!」

 遠くから、少女が走ってくる。

「李厘様。悟空さん達には逢えましたか?」
「うん、見つけたけど、ハゲ三蔵がいないんだ。あっ、ハゲ三蔵みっけっっ!!!」

 そう言って、少女は三蔵の上に飛び乗る。
 ……ってこの娘。
 褐色の肌に、金色の髪に特徴ある目。
 妖怪だねぇ。

「三蔵、モテモテだねぇ」
、…死にたいのか?」
?お姉ちゃんが、なのか?」
「うん、そうだけど」

 問い掛けられた言葉に、わたしは頷く。
 一体、何なんだろう。

「あ、と三蔵だっ」
「や〜っと見つけた」
「ココだったんですね、銃器屋さんは」

 悟空、悟浄、八戒の3人もやって来る。
 その後ろから、赤髪の男の人と、黒髪の男の人。
 な、なんなんだ???

「八百鼡、昔の知り合いとやらには逢えたのか?」
「はい、紅孩児様。紹介します、様です」
「……お前が、か」

 赤い髪の男の人がわたしを見る。
 ……この人も、妖怪。

 そして、悟浄と話している人も、妖怪。
 狂ったように人を襲う妖怪とは違う、いわゆる自我を持った妖怪。

 悟空や八戒の他にもまだいるとは思わなかった。

「八百鼡が…世話になったそうだな。俺からも礼を言う」

 …周りとは違う、上級の妖気。
 そうか…同一人物か。

「…気にしないで、わたしは何も出来ていないから」

 紅孩児。
 牛魔王の一人息子。

 牛魔王に関しての話と言うのは、悪い物しかみた事無いけれど、紅孩児はいい人そうね。

 八百鼡ちゃんが幸せそうに話すのもなんか、分かる気がするな。

「八百鼡ちゃん。『紅孩児』って、思った以上に、悪い人じゃなさそうね」
「はい」

 わたしの言葉に、その場にいたメンバーは八百鼡ちゃん以外一様に首を傾げる。

「じゃあ、わたしもう少し、散歩してくるわ」

 そう言って、その場を離れる。

「彼女は…何者だ?」

 がその場を離れた後、呆気にとられていた紅孩児はある疑問を八百鼡にぶつける。

「どういう意味ですか?」
「気配がただ者じゃない」
「当然です。様は、天道師『李聖藍』ですから」
「何?!!!彼女が『李聖藍』だと」

 紅孩児の言葉に三蔵一行は頷いた。

 

 

***

 

 

 良かった。
 八百鼡ちゃんは、幸せそうだった。

 あの時、ある『組織』を壊滅させようと思い立ったある日、わたしは八百鼡ちゃんに出逢った。
 涙を流していた八百鼡ちゃん。

 その『組織』の悪行は人だけではなく妖怪にも及んでいた。

 八百鼡ちゃんはその『組織』に目をつけられた一人。
 あきらめたよう、に俯いた顔していた八百鼡ちゃん。

 でも、はらはらと涙を流していた彼女を見て、誰かを助けようと思ったのはあの時が初めてだった。
 天道師として何が出来るのかとずっと考えていたわたしに、道を見つけてくれたのは八百鼡ちゃんだったのかも知れない。

 そして、わたしはその『組織』を壊滅させようと誓ったのだ。

 

 最も、その『組織』は別の人間によって壊滅させられてしまったのだが…。

 

 それはまた別の話で。

 散策しているとちょっとした広場に出る。
 公園の様なその場所は、道の奥にあるせいなのか、人の姿がない。

 建物にまわりを囲まれているのに陽のあたりがいいのは、囲んでいる建物が低いからだろう。

 その場には季節外れと言うのか…花が咲いている木があった。
 静かにその場にたたずんでいる木は、満開の花。

 白くもありピンクでもあり、どこか紅くもある。
 綺麗でいるのに、どこか禍々しい。

 

 いやな感じだ…。

 

 直感的に感じる。
 木からは何の妖気も感じないのに、どこか禍々しい。

 何か…いる。

 木が怯えいてるような気がした。

「…誰?」

 こちらと反対側の木の幹に隠れている人物に声をかける。
 気配を探っているのが、木を見ているうちに気がついた。

「気付かれちゃったか」

 どこか卑下した笑い方と共に、男が木の幹の向こう側から現れる。
 闇色の髪と、黒縁の眼鏡の奥にある闇色の瞳。

「どうやって気付いたの?すごいなぁ」

 しゃべり方が、声が

「気付かれないように、隠れていたのに、」

 耳につく。

「サスガだねぇ…ちゃん」

 名前を呼ばれる。

「誰っ?」

 結界の神咒を短く素早く唱えておく。

 知らない、人間。
 どこか禍々しさを感じさせる気配。

 警戒はすればする程いい。

「誰…か。忘れちゃったのぉ?」

 ニヤニヤとしながら笑うその男。
 でも、目が笑っていない。

 口元だけが笑っている。

「嫌だなぁ。僕はしっかりと、君を覚えているのに。君って案外失礼?」

 腕が伸ばされる。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。僕は何もしないから」

 腕一杯のばしても、その男は届かない距離を保っている。

 でも、一歩前に出れば届く距離。
 危険な範囲だ…。

「ねぇねぇ、ホントに、僕の事忘れちゃった?ちゃん」

 声としゃべり方が、記憶の奥を引っ掻いていく。

「困った子だねぇ。僕の事忘れるなんて思いもしなかったよ。ちゃん。僕と君があったのは15年前って言ったら分かる?あの日は、綺麗な月夜だったねぇ」

 15年まえ…。
 わたしが、5歳の頃。

 赤い…。

 何かがよみがえる。
ちゃん、本当に忘れちゃった?」

 声に記憶の奥が引っかき回される。

 赤い物が足下に流れていく。

 まだ、夜中。
 後数時間で夜明けではあるけれど、まだ夜中。
 月が、中天で輝き、遮る物が何もないその場は明るい。

っっ』

 声が聞こえる。
 せっぱ詰まった誰かの声。

 両親の声。

 赤い物が目の前を流れる。
 赤い水が降る。
 手が赤く染まる。
 髪から赤い雨がしたたり落ちる。
 さびた鉄の匂いと、生暖かい雨。
 月が出ているのに、雨が降ってきた。

ちゃん、またね」

 そう言って、男は去っていく。

 手は赤い。
 雨も赤い。
 さびた鉄の匂いと生暖かい赤い雨。

 それらが全て血だと気付いた時には全てが赤く染まっていた事に気がつく。

っっ」

 せっぱ詰まった声が耳元で聞こえる。
 遠くなる意識の間際に見たのは金色に輝くたくさんの糸と、不安で揺れる紫の瞳。

っ、しっかりしろっ」

 玄奘三蔵だと気付いたのは意識を失ってからだった。

 記憶の奥にしまった記憶。
 無理矢理封じた記憶。

 本当は覚えていたけれど、忘れようとした記憶。
 わたしは…両親は……。

 

 

***

 

 

「気がつきましたか?」

 ゆっくりと目を開けた彼女に僕は声をかけた。

「僕の事、分かりますか?
「……八戒…?」

 静かには声を出す。
 意識は…しっかりしているようだった。

「そうですよ」

 名前を呼んだに僕はゆっくりと微笑む。

「ココは?」
「宿の部屋です」
「……部屋?」
「驚きましたか?三蔵が血相を変えて、倒れたあなたをココまで連れてきたんですよ」

 あの瞬間を思い出す。
 散歩のついでの買い出し。
 三蔵にカードを貸してもらい、食料品以外の備品を買い込んで、宿屋に戻ってきたときのことだ。

 道の向こうから、三蔵が血色のないを抱きかかえて戻ってきたのは。

「三蔵?何があったんです」
「倒れた」
「何だよ、それ」
「何で、倒れたんだ?」
「俺が知りたい」

 矢継ぎ早に浴びせる質問に三蔵は不機嫌そうな顔をして短く答える。

「何があったかも、分からないんですか?」
「…あぁ」

 僕の質問に三蔵は短く答えた。
 が散歩に出ると僕達と別れてすぐに、後を追うように三蔵も向かった。

 その時にに何かがあったんだ。

 は…この桃源郷で呪術の権威でそこら辺の妖怪に負ける事や、呪術を掛けられる事なんて…あり得ない。
 もしそうだとしても、三蔵が分からないなんて事があるのだろうか…。

 考えても仕方ないので、を部屋で眠らせる事にした。

「…八戒…、何も聞かないの?」
「……何をですか?」
「どうして…倒れたのか…」

 は視線を少しだけ外して、僕に聞く。

「…貧血…じゃないんですか?」

 貧血じゃないと分かっているくせに、僕はわざととぼけた。

 聞いても、答えてくれないような気がした。

 

 何故だろうか…。

 

 視線を外して聞いた言葉に僕はそれを感じたのかも知れない。

「…少し、寝てください。みんなも心配してましたから、伝えてきますね」
「八戒」

 部屋を出ようとした僕に、は呼び止める。

「…どうしたんですか…」
「…一人に…されたくないの……。一人にしないで…」

 せっぱ詰まった声に、僕はに何かあったのかを確信した。

 彼女は、こんな事を言わない。
 何があったのかは分からない。
 けれど、間違いなく何かがあった。

「…安心してください。すぐに戻ります。全員呼んできますか?」
「…ありがとう…」

 は力のない笑みを僕に見せた。

 

 全員で部屋に戻ってきて、いつもの調子でを元気づける悟空と悟浄を見ては爆笑する。
 その様子を見て僕と三蔵は同時にホッとして、それを見た悟浄がからかって、三蔵はいつものように発砲して。
 が楽しそうにしてるから、それでもいいと思えて。

 ただ、

「そろそろ、向き合わなくちゃならないのかもね…」

 そう言ったの言葉が…気になった。

 

 

 

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あとがき

と言うわけで、ニィ先生登場編です。
紅孩児一行も登場しました。
独角じのじがひらがななのは漢字がないからです。
ちなみにニィ先生も同意。
滅多にそう言う事はやらないんですが、ちょっとだけHTMLの特性を利用して、数カ所、文字の色を変えました。
どうしても、色を変えたかったので。

ヒロインの過去編です。
何が彼女にあったのでしょうか。
それは、今後に…。

ちなみに、八百鼡ちゃんの件と八戒の事件は同時期だと思うんだけど、どうかね。
八百鼡ちゃんが紅孩児と会う前にに会っていた。
って言う設定にしたいのですが。

乱入!!!!
八戒:…リロードが始まったというのに、どうしてココはリロードが始まってないんですか?
長月:…今回からリロードです。
悟浄:そうだったのかよ?
長月:そうだったんです。ねぇ、所で何で乱入してきたの?
八戒:三蔵ばっかりおいしいところを持ってかれているので、こう言うところでは僕が持っていこうかななんて思ってみたりしてるんですよ。
悟浄:お〜い、俺もいるって事わすれんなよ。
八戒:忘れていいですか?
悟浄:…え???

次回予告
三蔵:…雨…か。
八戒:不思議なものですね。でも言い換えれば完全防音って所なんですよね。
三蔵:今までいかに安いところに止まっていたのかが分かるな。
悟空:でも、飯はうまかったぞ。
悟浄:基本はそれかよ。ま、いい女もいたけどな。
:……わたし……。
八戒:どうしたんですか?
:次回予告しなくちゃ。
悟空:あっっ俺がする。
三蔵:次回、『陰と陽』。雨は…嫌いなんだがな…。
:だったら、いなきゃいいのに。