無自覚と無意識
「じゃあ、、僕達は買い物に行ってきます」
部屋でくつろいでいた時、八戒が部屋を覗く。
「わたし、行かなくても平気?」
「大丈夫ですよ。ゆっくり休んでいてください。今日、ココまでたどり着けたのはのおかげですからね」
そして、そう、言ってくれる。
この街にたどり着くまでに何故か道に迷った。
どうやら、地震があったらしく地形が変わってしまったらしいのだ。
地形が変わったのはつい最近。
最新の地図って言ったってつい最近変わった地形までは乗ってるはずない。
で、わたしの式神の出番となったわけ。
そしたらかなり距離がずれてたんだよね。
お昼頃到着予定だったのがずれて夕暮れ時。
でも、まだ夕飯にはちょっと早い時間で、先に、買い出しをすませようと言う事になったのだ。
「何か、欲しいものありますか?」
八戒がわたしに尋ねる。
とりあえず、買う物はないかな。
「買わなきゃならないとすれば、銃弾ぐらい?だから大丈夫」
「分かりました。それでは、僕達は行って来ますね。三蔵は、残してありますから」
「…なんかその言い方って、邪魔だからおいてきますって感じだね」
「その通りなんですよねぇ」
わたしの言葉に笑って言う、八戒の目は笑っていない。
どうやら、本当の模様で。
「それでは、行って来ますね」
そう言って八戒はわたしの部屋を出る。
これから、どうしようかな。
暇だから、三蔵の所にでも行こうっと。
「良かったわけ?」
「何がですか?」
宿の入り口で待っていた悟浄が八戒に問い掛ける。
「二人っきりにして」
「…そうですね…。とりあえず、気付いてないから、良いんですよ。これが、悟浄だったら危険でおいておけませんけどね」
「あのなぁ…」
「八戒、悟浄、早く行こうぜ。俺、腹へったよぉ」
「はい、分かりましたよ」
「食意地はってんじゃねぇよ猿」
「猿ゆうな、エロ河童」
「はいはい、こんな所でケンカはやめてくださいね。二人とも」
八戒の笑顔(笑っていない)に悟浄と悟空は一瞬にして大人しくなった。
「三蔵」
扉の外から声が聞こえる。
「入っても良い?」
扉を開けて顔を覗かせたに
「好きにしろ」
と短く答える。
「三蔵はいつもお留守番だよね。考えてみれば」
「買い物は下僕共に任せておけば良いんだ」
何で俺が買い物になんざ行かなきゃならねぇんだ。
めんどくせー。
「お前は買い物に行かなかったのか?」
俺の目の前に座って、新聞を読んでいる俺の方をじっと見ている、に気が散って声をかける。
「う〜ん。特に欲しいものないし。どうせ買い物って言ったって、荷物持ちはわたしより、悟浄とかの方がいいでしょ?一回行った時、あまりの大量さに驚いたんだよね。まぁ、悟空があれだから当然だとは思うんだけど…」
買い込む食料の量と、それでも足らない悟空の食欲を思い出してはため息をつく。
「欲しいのは銃弾ぐらいだけど、まだ平気だし。それに、わたし、三蔵様の様に無駄遣いしない主義だしね」
「ケンカ売ってんのか?」
「べっつに〜」
そう言ってはいたずらっ子の様に微笑む。
ケンカ売ってるようにしか見えないのは気のせいか。
「で、さっきから何だ。人の方ばっかり見て、気が散って仕方ねぇ」
「ん?新聞貸して?」
「は?」
「だから、新聞。わたしも読みたいの。貸して」
「今まで読んでなかったじゃねぇか」
「読んでました。三蔵が知らない間に読んでるのよ。言ったでしょ?情報収集は必要だって」
そう言いながらは新聞を奪い取ろうとする。
ざけんな、今俺が読んでるんだよ。
見ててわかんねぇのか?
「貸して」
「ふざけろ」
「貸して」
「テメェ」
「貸して。すぐ読み終わるわよ」
不意にコーヒーサーバーの方で音がする。
「あ、出来た出来た。コーヒー1杯飲む時間ぐらいで読み終わるから大丈夫。三蔵も飲む?濃いけど」
「チッ」
舌打ちして、どうあっても引かないに、折り畳んで渡し、ついでに空になったマグカップも渡す。
「ありがとね。お詫びのコーヒーだよ」
そう言ってはコーヒーを注ぐ。
コーヒーの入れ立ての香りがしてくる。
「砂糖入れる?」
「いらん」
「そ」
そう言いながら自分のマグカップに砂糖を1杯入れる。
「うん、いい感じに入ったね」
マグカップに注がれたコーヒーは八戒が入れるそれよりも濃い。
悪くはない。
「じゃあ、新聞借りるね」
そう言っては新聞をめくる。
…で何故、テレビ欄から読む。
普通一面から読むもんじゃねぇのか?
部屋にかすかに充満するコーヒーの香りと、外から漏れ聞こえてくる喧噪とが静かに時間を演出していく。
……悪かねぇな……。
こういう………。
に目をやるとコーヒーをのみながら新聞に目を通す。
情報収集は必要。
そう言った彼女らしく、しっかりと目を通している様だった。
静かな空間に聞こえてくるのは…。
「ただいま帰りました」
紙面をめくる音と
「済みません、遅くなってしまって」
何に納得しているのか感嘆のため息。
「どうぞ、たばこです」
目に入るのは
「マルボロ赤ソフト。今回、2カートンじゃなくって1カートンです。知ってました?たばこが値上がりした事。マルボロもそうなんですよ。いくら三仏神のカードだからって早々無駄遣いは出来ないですからね」
長い髪を押さえる指と
「どーしたよ」
「いや、何か見てておもしろいなぁと思いまして」
伏せられた目とそこにかかるまつげと
「何が?」
「まぁね」
紙面をめくる指。
そして時折、マグカップにのびる手。
「ふ〜ん、珍しいんじゃねぇの?」
「ハハハ、確かにそうかも知れませんね」
突然、八戒と悟浄の笑い声と
「腹へった〜、飯行こうよぉ」
悟空のわめき声が耳に飛び込んでくる。
いつの間に、帰ってきたんだ?
「あれ、お帰り?」
振り向いてひらひらと手を振るに何故か苦笑している悟浄と八戒。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないですよ」
「そうそう、気にすんなってな、三蔵」
そう言って悟浄がニヤニヤとした顔をこちらに向ける。
「うるせぇ」
悪態つきながら河童に向かって銃を撃つ。
気付かなかった。
こいつ等が帰ってきた事に。
「自覚ありすぎて意識しすぎるのも問題だとは思いますけど、自覚なさ過ぎって言うのも問題ですよ。三蔵?」
「どういう意味だ」
「そのままです。まぁ、僕としては貴方は気付かないでいて欲しいんですよね」
自覚されたら勝てる見込みなさそうですし。
そう付け加えながら八戒は自嘲気味に笑う。
「フン」
「でもまぁ、負けるつもりはありませんから、精々自覚しないで、考えてください。僕はそこまで親切じゃないですからね、三蔵」
そう言って八戒はを促して部屋の外にでる。
「三蔵、早く、ご飯行こ?わたし、お腹すいたよ」
「猿と同じ事言ってんじゃねぇよ」
部屋の外に出る前に振り向いては言う。
「お腹すいてるのはわたしだけじゃないもん。早くしないと、おいてくよ」
「待て」
「へ?」
消えようとしていたを呼び止める。
つまり、こういう事か?
「今、行く」
待たせておいて、部屋を出て
「いつまで呆けてんじゃねぇよ」
悪態ついて
「何よぉっっ。待てって言うから、待っててあげたんでしょ?それなのに、その態度って何よぉ」
ぶつぶつ言いながらついてくる態度に愉快になって。
「文句言ってんじゃねぇよ」
振り向いて頭に手を乗せる。
猿と同じぐらいの背の高さだから乗せやすい。
「あのさぁ、子供じゃないんだから手を乗せるのやめてくれない?」
「うるせぇよ。飯食いに行くんだろ?早くいかねぇと」
「悟空に全部食べられちゃうね」
「そう言う事だ」
先に行った三人(特に猿と河童)が騒ぎを起こす前に行った方がいいはずなのに。
何故か、この居心地いい時間を手放すのは惜しかった。
「何してんだよ、三蔵。、めちゃくちゃ上手そうなのがあったぞ」
邪魔してんじゃねぇよっっ。
その気持ちを込めて、来た猿にハリセンを見舞った。
あとがき
ハハハハハハ、自覚寸前の三蔵様。
自覚してんだか、してないんだか。
この人、書いてておもしろい。
爆睡ヒロインの後の話。
そしてとばっちりを喰らう悟空。
ごめんね、悟空…。
コーヒー濃いのが好きなのは私。
新聞をテレビ欄から読むのも私です。
と言うわけで、コーヒー苦手な方ごめんなさい。
ヒロイン、大のコーヒー好きとさせて頂きます。
紅茶は飲めません。ついでにウーロン茶も。
だから、コーヒーを飲んで「苦いよ」なんてシーン存在しません。
ついでに、壁紙。
探し続けてなかったので自分で作成。
えっと…元素記号表のマグは私のです。もう片方は100均で買ってきたマグ。
誰かのです。
乱入!!
長月:本日のゲストはとばっちりを食わせてしまった悟空です。
悟空:セリフが二言ってどういう事だよぉ。しかも、三蔵に殴られるしっ。
長月:ごめん。無自覚三蔵を書いてたら必然的に君は…ごめん<m(__)m>。
悟空:チェ〜。
長月:後で、おいしいもの食べさせてあげるからさ(餌付け)
悟空:え?マジ!やりぃ。絶対だかんな。
長月:絶対(おぉ、釣れた釣れた)
次回予告
:三蔵に譲れないモノがあるように、わたしにだって譲れないモノあるのよっ。
三蔵:ざけんなっっ。
:わたしはそんなの納得出来ないから動く。そう決めてるのよ。
三蔵:いい迷惑なんだよっ。
:そんなの知らないわよっ。それ三蔵の理屈でしょっっ!!
八戒:二人とも全く引く気配がないですね。
悟浄:まぁ、頑固だからな。にしろ三蔵にしろ。
悟空:次回、原理と譲れないモノ前編!須く看よ!