「捲簾大将?こちらにおいででしたか?上級神の方々がお探しでいらっしゃいましたよ。貴方がその様では部下の方に示しがつかないでしょうに」
揶揄する声が木の下より聞こえる。
良く通る凛とした声。
誰だかすぐに分かる。
少しだけ目線を下げると目に入るのは深栗色の艶やかで長くふうわりとした髪。
そして銀の虹彩が入った紺色の瞳が見たくなって。
「誰の真似だ?おおかた天蓬にでも言われたか?」
そう呼んでみたら、相手はおかしそうに笑い出す。
「私は天蓬元帥の真似をしただけ。捲簾、そこは気持ちがいい?」
問い掛けられた言葉に俺は、地へと降り彼女を抱きかかえる。
「捲簾?」
「試してみるか?」
そう意地が悪そうに問い掛けた言葉に彼女は柔らかく微笑んだ。
百花繚乱〜桜花幻舞〜
「気持ちいいのね」
少しだけ怯えながら、木の枝には座る。
俺が支えていても、かなりの高さがある。
それで、少し怯えているのだろう。
「気持ちいいって言いながら怖がってりゃ世話ないな」
「ひどい。別に怖いって言う訳じゃないのに。初めての高さに、足がつかないのが怖いのよ」
軽くからかったら、少しだけ本気では怒る。
本当に怖かったらしい。
「わりぃ。そう言うつもりで言った訳じゃねぇよ。いかがですか?お姫様、ここからの景色。悪くないだろ?」
「そうね。木の上から見る景色もなかなかいいものね。桜が、桜の色が景色を染めている感じがするわ」
そう言っては辺りを見渡す。
そして、舞い散る花びらを物珍しそうに手に受けて、それを天に向かってかざす。
「面白いか?」
「綺麗よ。捲簾」
「まぁ、そうだよな」
楽しそうに、花びらをそして、桜を眺めているを見ながら、腰にぶら下げている、酒瓶に手を伸ばす。
「捲簾、ココで飲むの?」
「いいもんだぜ?花を見ながら、酒を飲むっていうのは。本物の酒飲みっていうのはな、いい景色だけで、酒が飲めるんだよ。肴なんざいらねぇんだ」
杯に注いだ酒に花びらが舞い落ちる。
「風流だろ?」
「本当ね、スゴく綺麗」
そう言って微笑んだを見ながら、俺はその酒を飲む。
「あ、勿体ない」
「勿体ないって、…飲まねぇほうがよっぽど勿体ないだろうが。、お前も飲んでみるか?」
「…いいの?」
「いいのって…、物欲しそうに見てただろうが」
俺が飲む様を見逃さないように、は俺をじっと見ていた。
だから、緊張する。
「見てないわよ」
「いいから、ほら」
そう言って、俺はに杯を渡す。
「こぼすなよ」
酒を杯に注ぎながらいう。
それと一緒に、桜が数枚、花びらを杯に注ぐ。
「ありがとう、捲簾」
「どういたしまして」
俺の言葉に、ふうわりと微笑んで、は杯に口を付ける。
「おいしい」
「だろ?」
「捲簾って、いつも、こんないいお酒飲んでるの?」
「いや、今日は特別。桜の元で飲む時は、いい奴って決めてるのさ」
「ふ〜ん」
は杯に口を付けながら、感心する。
「捲簾」
「ん?」
「おかわりっ」
……はまった?
はニッコリと微笑み、俺に杯を差し出した。
「何をしているんですか」
不意に、下から声が聞こえる。
「て、天蓬っ」
「姿が見えないと思ったら、こんな所にいたんですね」
さわやかな笑顔に反して、嫌みな声が聞こえる。
「あら、天蓬、元気?」
「……、飲んでますね」
「うん」
陽気な声で、は天蓬の言葉に応える。
…確か…、3杯目?ぐらいか。
度が高かいが、口当たりがいい為、酔いやすいからか、の顔はほんのりと、赤い。
「…捲簾のお酒ですか?…」
天蓬の声が…1トーン低くなる。
「そうよ」
天蓬の様子に気付いてないのか、は陽気に答える。
「…天蓬、お前怒ってねぇか?」
「何故です?何故僕が怒らなくてはならないんですか?」
1トーン低い声で、反論する天蓬。
どう聞いたって、怒ってるようにしか聞こえねぇんだよ。
「あなたが、を酔わせたことで、僕がどうして怒らなくちゃならないんです?」
…怒ってんじゃねぇか。
天蓬は周りが異様だと思えるほど、を気に入っている。
ある時から、ずぼらな天蓬が、部屋を一人で整理し、身支度をきちんと整え、いそいそと、どこかでかける姿が見られるようになったのは、周知の事実だ。
そして、それが、のいる『九曜殿』であることは俺が問いただした。
無理矢理、天蓬の後をついて、に逢った時、天蓬が気に入るのも無理はない、そう思えた。
深栗色のふんわりとした長い髪。
闇色の瞳に銀の虹彩。
夜空をその瞳の中に映しているようだというが、まさにその通りの瞳を持つ。
全体的にふんわりとした印象を持ちながら、いつも、しっかりと前を見据えている。
この天界の未来を見る『星見』という役目を持っているからだろうか。
それとも、彼女自身の考えなのだろうか、時々、ハッとさせられるような言葉をいう。
天蓬には悪いが、俺も気に入ったのは間違いなかった。
「そこは、気持ちいいですか?」
「まあな」
天蓬の意図も読まないで、俺はそう答えた。
「だったら、捲簾、ちょっとどいてください」
?????
は?
どういう事だ?
「は幹に掴まっていたいですか?」
「大丈夫よ」
少し、酔いが回っているのか、はそう言う。
「じゃあ、ちょっと失礼しますね」
そう言って、天蓬が……。
「って言うか、何で、おまっ、登ってくんじゃネェよっっ!!!!折れたらどうするんだっっ」
木に登って、枝に座った。
3人乗っても、大丈夫な、枝…だったらしい。
折れずに、体勢を保っている。
「大丈夫です、は僕が守りますから、安心して落ちてくださいね?捲簾」
「…、落ちるの、俺一人かよ」
「当然でしょう?捲簾、あなたはに怪我をさせるつもりだったんですか?」
「んなわけねぇだろう?」
「だったら、一人で、落ちてくださいね」
「お前ねぇ」
天蓬の言葉にため息が出てくる。
の事を大事にしすぎていると言うよりも、俺のことを邪険に扱いすぎてるっていう方が正しいような気がする。
…一応、俺、こいつの上官何だけどなぁ…。
「軍の階級とかは関係ないでしょう?厳密に言えば、僕はあなたの上ですよ」
「ハハハハハ…、そうですね」
はぁ、ため息が出てくる。
「天蓬、あんまり、捲簾のことからかっちゃダメよ」
「…あなたがそう言うなら…からかうこと…少しはやめます」
少しかよ。
しかも、に言われて…。
って言うか、せっかく、と一緒の時間を過ごせていたって言うのに、なんで邪魔されなきゃならないんだ?
「捲簾、落ち込んでる?」
が俺のことをのぞき込みながら言う。
「まあな」
滅茶苦茶、落ち込んでます。
「私は、楽しいわよ」
「楽しい?」
「えぇ、捲簾おすすめのお酒を飲めるし、こうやって捲簾や、天蓬に囲まれてるんだもの、楽しいわ」
本当に楽しそうには微笑む。
「こんなんで、本当に楽しいのか?」
「楽しいわよ、二人は楽しくないの?」
が不安そうに聞いてくる。
楽しくない訳なんてない。
ただ、あまりにも普通だから。
「普通でいいのよ、捲簾。毎日、毎日、事件が起っていたら、疲れるわ。私は、それが全ていいとは思わない。何もないこともいいとは思わないけどね」
そう言って、は微笑む。
未来を知ることの出来る、星見だから、そう考えるのだろう。
「捲簾、お願いがあるの。天蓬にも、言ったのだけれど…」
「お願い?」
天蓬の方を見ると、少しだけ、困った顔をしている。
「捲簾、あなたが見たものを私にも見せて欲しいの」
「…」
「私は、外を知らないわ。こうやって外にいるのは天蓬が連れだしてくれたおかげだもの…。あまりにも、私は外をしらなすぎる。だから、外を知りたいの。天蓬にも頼んで、そして捲簾にも頼んでいるのは、二人が見ているものは違うものだってあるわけでしょう?私は、その違う物も見てみたいの。見えているもの、見ているものが一つだけだと偏ってしまう。…私は、それを避けたいの。それって、我が儘かしら」
「いや、違うと思うぜ。確かに、天蓬が見たものと、俺が見たものは違うものだってあるな。俺で良かったら、見せてやるぜ」
「有難う、捲簾」
ふんわりとは微笑む。
天蓬が困った顔をした理由が分かった。
自分が見た景色を見せて欲しい。
は恐らく、純粋な好奇心として言っているんだろう。
そして、その好奇心が天蓬から俺に移ったと天蓬は思ったから、少しだけ困った顔をしたんだ。
単純な、嫉妬だな。
あの、天蓬がねぇ…。
本が何よりも好きな天蓬が…。
まぁ、変われば変わるもんだな。
「これから、よろしくね、捲簾、天蓬」
……って俺一人じゃないわけね。
まぁ…しょうがないか。
「これから、もっと楽しくなりそうね」
夜色の瞳を輝かせながら、は言う。
こんな、穏やかな時間が、これからも続けばいい。
そう、思った。
からすれば、『それは、不可能かも知れないわね』なんて、軽く一蹴されそうだけれども…。
ホントに、そう思った。
あとがき
ページタイトル通り邪魔されケン兄。
桃源郷版でが悟浄と見た風景がこれ。
第2弾はケン兄の登場です。
見た順番は悟空・悟浄・八戒・三蔵ですが。
書いてる順番は、天界編で見た順番つまり天蓬・捲簾・悟空・金蝉の順番になります。
ケン兄って、こういう『風流な遊び』って言うのが似合う。
お茶や遊びとか似合いそうっっ。
想像したら、いい感じで似合う。
天ちゃんとかさぁ、金蝉は似合わないんだけどさぁ、ケン兄は似合うっ。
捲簾と悟浄のかき分けはしやすいですね。
軽いのが悟浄。軽くないのが捲簾。
かんた〜ん。
だからケン兄は悟浄より書きやすかったです。
……って言うか、コレを悟浄のBD記念として…アップさせてもいいのだろうか…とふと不安に思ってしまったり…。