雪が降る。

 昨晩からそう、言われていた。
 だから、今日の出発は無理。

「雪が降る」

 と聞いた時点での決定事項。

 今にも降り出しそうな雪雲。
 あまり見かけない雪に対して、すこし心がはやる。

 雪が解けたときの面倒はとりあえず横に置いて。

「いい加減窓を閉めろ」

 相部屋の人間にそう言われても、カーテンを閉じることだけはなかなかしなかった。

 

 

 

Don't Look Back

 

 

 

 あまりの寒さに目を覚ます。
 カーテンを閉めずに眠ったのが作用したらしい。

 そして目を開けたときに感じたのは強い光。
 飛び起きて、外の様子を見てみたら、一面の銀世界だった。

 日の光は出ていない。
 雪雲の空だった。

 窓を開けると、冷たい空気が、部屋に進入してくる。
 相部屋の人間が起きるかと一瞬ドキっとしたけど、そんなことなく、穏やかに眠っていた。

 はらはらと舞い散る雪。
 もう少しで、やみそうだった。
 腕を伸ばして、舞い散る雪を手に受ける。

 一瞬にして雪は解け、微かな冷たさだけが手に残る。

「寒い」

 不機嫌な声が背後から聞こえる。

「おはよう、三蔵」
「寒いって言ってるのが聞こえねぇのか?」

 にこやかに挨拶したのに、相部屋の三蔵は憎々しげにわたしの顔を見る。

 そんな顔しなくてもいいのに。
 なんて思いながら、窓を閉める。

「今日の出発は延期だ。この分じゃ、ジープも動けやしねぇ」
「そうだね」
「分かってんだったら、大人しくしてろ」

 …?
 その理論が分からないのですが。
 目が覚めちゃったし。
 寝ててもなんかもったいない気がするし。

 外にでも出てみようかな、なんて思い立つ。

「どこに行く」

 着替えて、コートを着込んで外に出ようとしたとき、三蔵に呼び止められた。

「どこって、外だよ。三蔵も行く?」
「何で、このくそ寒いのに外に行かなきゃならん」
「雪見に」
「ガキじゃねぇんだ、大人しく部屋にいろ」
「…つまんないし。せっかく、雪降ってるし。たまには雪と戯れてみようかなと思いまして」
「…勝手にしろ、俺はまだ寝る」

 そう言って、三蔵は布団をかぶる。
 最初っからそうしてればいいのに。
 変な人。

 中庭へと続く扉を開ける。
 まだ、朝早いのか、周囲の音が聞こえない。

 それか雪が音を吸い込んでいるのかもしれない。
 どうして雪が降っているときはこんなにも静か何だろう。

 庭に出て、まだ誰も後をつけていない雪に、足跡を付けていく。
 かなり、降ったらしく、雪の深さは結構ある。

 歩くのは結構つらい。

 空を見ると、はらりはらりと雪が舞い降りてくるのが分かる。
 午後にはやめばいいけれど。
 そんなことを思いながら、降る雪を手に受ける。

 冷たいな。

 そんなことを感じる。
 感じることができる今は幸せなのかな?
 前はそんなことすら、感じていなかった。

 雪は降って積もって解けるもの。
 ただ、それだけの認識。
 冷たいとか、綺麗とか、音がないとか、そんな感情を持っていなかった。

 よほど、状況に麻痺して、自分が自分でなくなっていたのかもしれない。

 わたしは、ここにいてもいいのかな?
 時々、ふっとそんな感触におそわれる。
 いてもいいって皆言ってくれてる。
 わたしは皆を守ってあげられてるのかな?
 助けてあげられてるのかな。
 おもむろに、雪の中に倒れてみる。

っっ」

 やむようでやまない雪を全身で受けながら、倒れた拍子に舞い上がる積もった雪を受けながら、考える。
 このまま雪に埋もれてしまえば、凍って何も考えなくても済むのかな?

っ」
「……??悟空?」

 不意に、不安げな悟空の声が聞こえる。
 起きあがると、悟空が泣きそうな顔して、わたしの隣に座っていた。

「悟空?どうしたの?」
「……、どうかした?なんか、合ったのか?痛いところ、ない?」
「だ、大丈夫だよ。どうしたの、いきなり」
「いきなりって、それは俺のせりふっっ。急にが倒れんだ、ビックリしたに決まってンじゃん。三蔵だって、驚いてたんだぜ?」

 そう言って、悟空はほっと息を吐く。
 三蔵も、驚いてたって…じゃあ、一瞬呼ばれた声は、三蔵だったのか…。

「本当はさ…。起きて、外見たら、雪が降ってて、庭見たら、がいて。…で…さぁ、なんかが消えそうで怖くなったんだ。雪って白いから…のコートも白いから…音がないから…音を消してくから…が…消えそうで」

 怖くなったんだ。
 悟空はそうつぶやいた後、うつむく。

 …わたしの不安が移ったのかな?
 悟空って見かけによらず、感じやすいから。

「悟空、目をつぶって」

 わたしは、小さな声で悟空に言葉をかける。

「え???」
「いいから」

 驚いている悟空に対して強引に目をつぶらせて、小さな声で悟空にささやく。

「わたしの声、聞こえる?」
「……?な、何言ってんだよ。聞こえるに決まってんじゃん」
「うん。わたしも悟空の声聞こえる。わたしは、ここにいるでしょ?」
「……いる…」
「悟空も、ここにいる」
「…あぁ…」

 悟空の声が、しっかりと聞こえる。

 大丈夫。
 わたしは、わたしでいられる。

「…だから、大丈夫。わたしはいなくならないよ。どうして、消えなくちゃならないの?みんなといるのこんなに楽しいのに」

 結局、そうなんだ。
 皆といることが楽しい。
 だから、わたしは、皆といる。

 ふと見上げると、何故か、三蔵、悟浄、八戒の3人が部屋から、わたし達の様子を見ていた。
 どこか、ほっとしている様子で。

「……俺、の事絶対に守るから」

 悟空が、不意につぶやく。

 …わたしって弱そうに見えるのかな?。
 一応、天道師なんだけど。

「ありがと。でもね、わたしは守ってもらうほど弱くない。でも…つもりだから、助けて欲しい時は助けて?」
「わかった。絶対に、そうする」
「うん」

 そうして、悟空とほほえみ合う。

 一緒にいられるように、いつも守れるように、心が強くあれるように。
 そう、思わずにはいられない。

 

 

「悟空、いつもの仕返ししない?」
「仕返し?」

 雪の中にいて、ふと思ったことを口に出す。

「誰に?」
「そりゃあ、あの3人組」

 のんびりと、何かを話している三人組に顔を向ける。

「……平気?」
「大丈夫、サバイバルだもん」
「サバイバルって何するつもりなんだよ」
「そりゃあ、サバイバルな雪合戦」
「はあ??」
「どうよ。いつもの恨みをあの三人にぶつけるためのサバイバルだよぉ?いつもふんぞり返ってる三蔵や、エロガッパな悟浄や、くろ〜い八戒にいぢめられてるのってつらくない?」

 結構、つらい思いしてるんだよね、わたしと悟空って。
 からかわれ、いぢめられ、クロ〜い気配に怯えてるんだから(笑)

「……確かに?」
「どう?」
「…のった」

 悟空が乗ってきました。

 と、言うわけで、サバイバル雪合戦の始まり。

 最初は、軽く悟空と戯れて、悟浄に仕掛けて、悟浄が三蔵に

「生臭ボーズ」

 って雪あてて

「ふざけんなこの、くそガッパ」

 って三蔵が参戦してきて、傍観者だった八戒がとばっちりを食らってからが本番!!
 で、結果はどうなったのかと言うと。

「雪合戦のこつはですね、どれだけ相手に当てることができるかなんですよ?」

 なんてシレッとした顔で言った八戒が優勝でした。

 一番さんざんなめに合ったのは。

「…かぜひ〜た〜。猿、てめぇのせーだかんな〜」

 とまぁ、悟浄でした。

 

 

 

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あとがき

き〜せ〜つ、はずれ!!!!!!
な、雪話し。
この話をかこうと思ったのがRELORD2巻を読んで、ともだちの結婚式のために乗った新幹線の中!!!!!

どんな状況じゃっ。

あの、雪を怖がっている悟空の為に何かしてあげたいと思ったのが、運のつき。
こんな話ができあがりました。

メインは悟空。おいしいところを持っていくのも悟空。

一応、最遊記を書くときのメインテーマがglobeの『Dont look back』。「凍えて〜かじかむ手にはまだ少しあなたを助けるぬくもりはあるかな」です。
「どうせなら降り積もる雪に埋もれて、涙さえも凍ってガラスのように砕け散って。早くあなたのため、力になりたい。私だけのために生きていきたくない」とかね。
結構、いい感じなんだわ。

乱入!!!!
悟空:俺、誕生日記念?
長月:一応。
悟空:あんま、そんな気がしないのは気のせい?
長月:…ごめんっ。気のせいじゃないかもしんない。
悟空:ひでぇ。
長月:でもね、愛はあるよ。一応、誕生日記念だし。コレを悟空用って決めてたから。季節はずれでも!!!
悟空:…まぁ、悟浄や、八戒の時よりはましだよなっ。
長月:まぁね。連載に組み込んじゃったし。誕生日だって事で決めた話じゃないし。
悟空:だったら、いいや。