「こんな安いのにこんなに美味いなんて、ここのシェフはどんな奴なんだ?」
ここ……ファミレス。
確か、一括製造だったと思うから……シェフはいないと思うよ?
本当に美味しそうに食べるアーサーの食生活が不安になった。
菊ちゃんと食事でかけるときはどんな所に行ってたんだろう。
一流料亭?
少なくともファミレスじゃない事は理解した。
予想より結構遅くなってしまって、菊ちゃん達はどうなったかななんて思いながら帰ってきたら玄関の電気はついていた。
菊ちゃんは帰ってきているようで、くたくたかなぁなんて思いながら玄関を開けてみれば見慣れない靴が2足に見覚えのあるサンダルが1足。
「………」
「ただいま」
靴を見つめるアーサーに気づかないふりして声をかけて家に上がれば居間には予想通り梅花ちゃんがいた。
「メイちゃんいつ、こっちに」
「夕方ヨ。菊さんから助けてくれって昨日メール来たネ」
メイちゃんは菊ちゃんの前では綺麗な日本語をしゃべるんだけど、あたしやにーにの前では少しだけなまってしまう。
菊ちゃんには綺麗な日本語を聞いてもらいたいんだって。
乙女心だね。
なメイちゃんの前にはスクリーントーンと菊ちゃんが必死で書き上げた原稿(夏コミ用)。
「こんばんは、アーサーさん。お久しぶりヨ」
「あ、あぁ。菊は?」
「菊さんなら……」
うん、声が聞こえるよ。
閉めきった居間のふすまを開ければあぁそこには修羅場が存在していた。
「………………こんなことだろうと思ってたんだよ。あたし………」
二、三日前から菊ちゃんは難しい顔をしていた。
夏コミの原稿締め切りはもうちょっと後なはずなんだけれども。
その肝心の日付に今回はベルギーに行かなくちゃならなくなって……早めにおわさなくちゃならなくなったわけだ。
うん、修羅場が目の前にあった。
「フランシスさん、そこの髪の毛はベタでお願いします。アルフレッドさん、彼らの服はそのトーンで。そっちはこのトーンで」
アルとフランシスさんとメイちゃんをアシスタントに菊ちゃんは原稿真っ最中な訳だ。
「なんで、こんなことになってるんだい?オレは苦手だよ。こういう場合全部カラーに」
「カラーはお金がかかります。無駄です」
「お兄さんもカラーは反対だなぁ。っていうか、なんでアルフレドの所の漫画って全部カラーなんだい」
「普通カラーだろ?。カラーじゃないのはコミックじゃないよ」
「これは漫画です」
一体、どういう会話なんだろう。
「そっか、ちゃんは初めて見る光景だったネ。いつもこんな感じヨ。フランシスさんとアルフレッドさんの秋葉原探索に付き合う条件がこの修羅場ネ」
なるほど。
だから今日はわざわざ秋葉原まで行ってきたってわけか。
「アーサー、先にお風呂入って来ちゃって良いよ」
「えっ……あ、いや…」
「一日歩き回って疲れたでしょ?あたしは後でいいから。メイちゃんはお風呂どうする?」
「これが終わってからにするネ」
「あたしも手伝うから終わったら一緒に寝ようね」
「うん。一緒ネ」
「……ばかぁ!!!」
へ?
突然アーサーが泣き出した。
泣き出したって訳じゃないけれど。
「アーティ、何期待してたの?」
ニヨニヨ顔でフランシスさんが言う。
「聞いてんじゃねえよ、フランシスっっ」
「って言うか聞こえてるんだぞ!アーサー」
「うるさいっっ」
何故か口論始める三人。
「フランシスさん、アルフレッドさん、今日は寝かせませんよ!!」
「ちょ、菊何言ってるんだい。オレはくたくたなんだぞ!!」
「お兄さんもくたくたなんだけど」
「でしたら、手を動かしてください。終わらないんですよ!!」
……先生、って呼びたくなったよ、菊ちゃんを。
きっと週刊連載の先生ってこういう修羅場………あれ?そう言えばサボる先生って言う方が多くない?
まぁいっか。
「そうだ、アル。これあげる」
手提げバッグの中から包み紙を取り出す。
「何だい?これは」
「日本時間じゃもう終わりに近いけど、アメリカ時間じゃまだまだでしょ?アル、誕生日?でいいのかな?おめでとう」
何にしようかと思ったけど、菊ちゃんから聞いていたのでそれを買った。
昨日出た新刊の限定本だ。
「っっ」
そう言ってアルフレッドはこっちに来てあたしを抱きしめる。
苦しいんですけど!!!
「さすがはだ。オレはもの凄く嬉しいんだぞ!!ありがとう、!!」
「そこまで喜んでもらえるとは思わなかったんだけど……くるしいよ。アル」
「だってに祝ってもらえるなんて思わなかったんだぞ。アーサーの野郎といるとは思わなかったし。くたばれ、アーサー」
「てめぇ、から離れやがれ。しかもどさくさに紛れて何言ってんだ、この野郎!!」
うん、だから、いい加減、苦しいんだよね……あたし……。
「だからって、は君のじゃないんだぞ」
「そ、そう言う問題じゃねえ。が嫌がってるんじゃねえか!!!」
アーサーが無理矢理アルを引きはがしてくれた。
「、大丈夫か?」
「うん、何とか」
なんか前もこんなシーンあったなぁ。
これはデジャブか?
「お兄さん、こんなシーン見た事あるんだけど」
「どちらでですか?」
「ん?ドイツだよ。アントニが言語崩壊起こして、ジルベールがペリって引きはがしたんだけどね……。アーティ、ちゃんになついちゃったねぇ」
「そのような事がドイツで……。アントーニョさんにパエリアをいただいたというのは聞いたのですが……。所で、何もなさってないですよね」
「うん、ないから。ホントに。何もしてないからっ」
「まぁ、よろしいでしょう」
菊ちゃんとフランシスさんの会話の間もアルとアーサーは喧嘩してる。
「菊さん、トーン張り、終わりましたよ」
「ありがとうございます、梅花。あなたのおかげで原稿は首一枚つながりました。後はこの方達ですね。と一緒にお風呂に入ってきたらいかがですか?外の露天でもなかなか良いですよ」
「ハイ、そうします」
って、先にあたしとメイちゃんが入る事になってるけど…。
「アーサーが先じゃなくっていいの?」
「この調子ですし…、先に入ってのんびりした方が良いですよ。今日は疲れたでしょう?」
「そんな事ないよ」
デートみたいで、楽しかったし。
「デートですか………」
そう言って菊ちゃんは黙り込んでしまう。
「じゃあ、先に入っちゃうね。メイちゃんも一緒に入ろう」
「了解ネ」
で、あたしはメイちゃんと露天風呂に入ってそのまま眠る事にしたのだ。
原稿終わってると良いけど。
*****
「菊ちゃん、ちょっと」
「何ですか?フランシスさん」
「……あれ、良いの?アーティとちゃん」
「……アーサーさんはどうか分かりませんが。は単なる友人としか見てないとおもいますよ。それよりも、ドイツでの出来事ですよ。一ヶ月は、長かったですよっっ」
「……ジルか」
「えぇ、あれは無意識なんですか?アーサーさんよりもあっちの方が危険すぎます」
「………お兄さんもちょっとよくわかんなくってさぁ。……アーティよりはジルをお薦め……………………していいか分からないけど……どっちもどっち?菊はどう思ってるわけ?」
「私は………あの娘が幸せになれるのであれば誰でもいいのです。私の夢はあの娘を嫁に出す事なので」
「何、その夢」
「良い夢でしょ?あの娘を枠に閉じ込めてしまった。せめてもの償いです」
「でもさぁ、誰でも本当に良いわけ?アーティの所は飯まずいし、ちゃんかなりのグルメだよ」
「でしょうね。あの娘は『東京』ですし。ミシュラン登録ありがとうございました。樋乃に替わって礼を言います」
「ホント、たくさんおいしいところあるから、美食の都譲ってもいいかもなんて」
「せかーいで一番グルメ都市。そう言う扱い心得てよねですね(WIMのメロディーで)」
そんな会話が菊ちゃんとフランシスさんの間でかわされてたなんてあたしは知らない。