OPERA NIGHT〜極彩色の世界〜

「どちら様です?」
 彼女の言葉に世界は凍り付いた。
「え、え?お、オレが分からないと言うのか?」
「存じ上げませんのです」
 彼は自分がまるで終わってしまったかのように頭を抱える。
「大丈夫ですか?」
 と声を掛ければ、力なく頷く。
「菊兄様。この方をご存じなのですか?」
……私が分かると言うのですか?」
「当たり前です。樋乃の兄上、日本国尊本田菊。間違いありませんのですか?」
「……当たっております」
 それは私の正式な呼び方と言っても良いだろう。
 が知るはずのない、名前だ。
、我はわかるあるか?」
「にーに。明国王耀颯輝」
 ……………。
 あぁ、彼はとんでもない事をしてくれた。

皇帝達の悪ふざけ

「どうかしたのですか?」
「皆さん、知らない方ばかりで驚きです。この方々は菊兄様とどういったご関係ですか?」
「私達の友人ですよ」
 達に意味合いを持たせてもは何ら気づかないだろう。
「ど、どういう事だい?」
 アルフレッドさんが、事態を飲み込めていないのか聞いてくる。
 いや、他の面々も把握していないだろう。
 この事を理解して欲しいとは思わない。
 今まで何も言わなかったのだから。
ちゃんは、菊くんが言うところの『別の世界』から来たんだよねぇ。でも、彼女はなんで『』ちゃんの記憶を持っているんだい?』
 イヴァンさんが聞いてくる。
「……同じだから……です」 
 に言わなかった事。
 他の方々にも居なくなったとき居なかった事、言わなかった事。
はあなた方の知る、ではない。でも、である事は間違いないのです」
 私の言葉に誰もが黙り込む。
 そう言って私はを抱き上げる。
 現代からみても、この年頃の少女にしては細く小さい体のは簡単に抱える事が出来た。
「菊兄様、は菊兄様に抱え上げられるとはおもいも寄らなかったです。イスパニア様ならともかく」
「そうですか?」
「そうです」
 の言葉からおそらくは戦国以降である事には間違いない。
 アントーニョさんが日本に来たのは安土桃山時代以降。
 あの頃の私は、とそう体格が変わらなかった。
 さすがに、今の私はあの頃と体格も身長も違っているが。
「眺めよいですね。でもイスパニア様の時の方がもっと眺めよかったような?」
 ……それを言われると、さすがの私も傷つきますよ。
 アントーニョさんと私の身長は違いますからね。
「では、、皆様に挨拶しましょう。を紹介したいのです」
「でも、菊兄様に、にーに以外の友人がいらっしゃっただなんて……意外です」
「心外ですよ、。私にだって友人の一人や二人ぐらい」
 無理矢理のたまものではありましたが……。
 思わず遠い目をしてしまいます。
 あぁ、皆様が気まずそうな顔なさってますね。
 空気読まない方はへらへらと笑っていますが。
「では、一人ずつ挨拶しましょう。アルフレッドさんです。アメリカですよ」
「アメリカ????どちらにあるのです?」
 世界が再び止まった。
 あぁあああ、知らないのも無理はありません。
 の記憶は戦国時代。
 戦国時代に、アメリカなんて国があるはずもありません!!(モイが見つけたちびメリはいる)。
「HEROを忘れるなんてひどいんだぞ!!」
「ヒーローとはなんですの?」
「正義の味方です」
「よく分からないですが………。人の義を説いていらっしゃる方なのですね」
が言ってる方が分からないんだぞ」
「まぁ、分からずとそのような事を言っている人が人の義を説けるとでも?」
 少女の姿で彼女は大人顔負けの…いや大人以上の言葉をアルフレッドさんにぶつける。
「……菊、彼女は本当になのかい?」
「アルフレッドさんの疑問はもっともですが……彼女はであってでなく、でなくてであるので……」
「よく分からないんだぞ」
 分からなくても無理はない。
 アルフレッドさんが初めてあったこの娘は…おっとりしてしまった開国以降なのだから……。
 戦国の頃のは、上司が上司だから血気さかんな所もないとは言えなかった。
「じゃあ、お兄さんは知ってるかな?」
「フランシスさんはフランスです。その隣で落ち込んでるのはアーサーさんですよ。イギリスです」
「フランス……御館様がお持ちの地球儀でそのような名前を見た事があるような?」
「欧州に行ったときお逢いしませんでしたか?」
「欧州?は欧州には行ってませんのですよ?行っては見たいのですが」
 ………行ってないって事は……あれの前ですかぁ〜〜。
 アントーニョさんやロヴィーノ君が我が国に来た頃でしょうか。
「菊兄様、どうかなさいましたか?」
「いえ…」
「それより、この方の髪もきらきらなさってるのですね。の髪とは大違いなのです。眼が海の色をしてます」
「お兄さんの目はサファイアブルーなんだよ」
「そうなんですか。菊兄様、イギリスとはどちらの所です?御館様がお持ちの地球儀にはそのような名前はなかったような」
「……正式名称は忘れたのか」
「アーサーさん、の記憶は戦国時代まで戻ってますよ」
「面倒だな」
「アーサーさん、そのような事言ったら、が泣きます」
「イギリスとはドコですの?」
 あぁ、今度はそこですか〜〜。
 戦国時代のイギリスは、グレートブリテンryではない。
「イングランドです」
「イングランド、それでしたら、地球儀で見ました。立派な眉毛ですのね」
 あぁ、もうこの娘は失言が多すぎます。
「アハハハハ!!!眉毛だって。確かにアーティの眉毛は立派だねぇ」
 フランシスさんを皮切りに皆が爆笑。
 失礼ながら私も笑ってしまいました。
「眉毛っていうな」
「でも、綺麗な緑の瞳。翡翠のようです。菊兄様、は翡翠が好きです」
「え?」
 の言葉にアーサーさんは顔を真っ赤にする。
「べ、別にオレの目より、の目の方が……」
 いつものツンデレはドコに消えたんですか?アーサーさん。
 あぁもう、ツッコミが追いつかない。
「チャオ、ちゃん」
 ルートヴィヒさんとやってきたフェリシアーノ君がに声をかける。
 突然割り込んできたからかアーサーさんが怒り出すがそれをルートヴィヒさんが止める。
 ルートヴィヒさんは盾役ですか。
「………!!!」
「ちっちゃくてもかわいいねぇ。ちゃん、おいで。オレの方が菊より背が高いから、眺めいいよ」
「……ロヴィ君?」
 はフェリシアーノ君を見てロヴィーノ君の名前を呼ぶ。
「え?兄ちゃん?」
「兄ちゃん?そう言えば、ロヴィ君には弟が居るって言っていたのを思い出したのです」
 は以前ロヴィーノ君に聞いたのだろう。
 弟が居ると。
 もちろん、それはフェリシアーノ君の事なのだが。
 今のはそれを知らない。
「兄ちゃんの事を知ってるの?」
「貴方がいう兄と、ロヴィ君が同じならば。ロヴィ君の目は君と違って緑なのです。でもが知ってるロヴィ君は小さいのですよ」
「そうなの?まぁいいや、兄ちゃーん」
 フェリシアーノ君はアーサーさんがブリ天化してから逃げてしまったロヴィーノ君を呼ぶ。
 ついでにやってきたアントーニョさんも一緒だ。
「イスパニア様!!?」
 はアントーニョさんの顔を見るなりそう言って驚く。
 の年代は安土桃山時代。
 西班牙、葡萄牙が日本にやってきた頃だ。
 ロヴィーノ君の事を知ってるのは宣教師だろう。
 アーサーさんの事を覚えていないと言う事は、まだイングランドやオランダが日本に来る前の事。
 スペインvsイングランドの戦争がまだ行われていないと言う事だ。
 そして、まだ本能寺の変が起きていない。
ちゃん、えろう小さなってもうたなぁ。親分の事分かるん?」
「ハイ、イスパニア様」
「イスパニア様……めっちゃ昔の呼び方やん。これからは親分って呼んでや」
 勝手に呼ばれ方を変えないでください。

「ロヴィ君、いつの間に大きくなったのですか?は驚きなのです」
 そう言ってはロヴィーノ君を見る。
「マジでちっちゃい…」
「何を言うのですか、ロヴィ君の方が小さかったはずなのに……。って言うか、ロヴィーノ君ですよね?菊兄様、違ったらどうしよう……」
「違わねえよ」
「では、あのホントに小さくてかわゆらしかったロヴィ君ですか?は悲しいです」
「なんで悲しいんだよ」
「あんなに小さくってが抱き上げるのが出来るぐらい小さかったのに。ロヴィ君、大きくなっちゃったのです。は寂しいのです」
 は小さかったはずのロヴィーノ君を思い出しているのか悲しんでいる。
 あれからどのくらい経っているのかこのは知らないのだ。
「大丈夫ですよ、一晩寝たら、元の大きさ。がかわいがっているロヴィ君と同じぐらいの大きさになります」
 というか、が元通りですが。
「ホントですか?菊兄様!!!ロヴィ君、小さくては大好きなのです」
、オレも好きだぞ」
「ハイ」
「兄ちゃんばっかりずるい〜、オレもちゃんの事大好きだよ」
「そうなのですか?ありがとうございます。も好きなのですよ。ロヴィ君の弟ならスゴくかわいいのです」
 …こ……これは、良いのだろうか。
「これはええのん?」
 アントーニョさんも同じ事を危惧したのか、私にこっそりささやいてくる。
「このマカロニ兄弟、何どさくさ紛れに言ってんだ!!!」
「うわ〜〜〜、ルーイ、アルトゥーロの事押さえててよ〜〜」
「何してんだ、このムキムキ!!眉毛がくるじゃねえか!!!」
 イタリア兄弟の告白をアーサーさんが黙って聞いてるとは思ってみませんでしたが。
、オレも、す、好きだからな」
 なんて言うとは思いませんでした。
「べ、別に、オレの目が好きだからって言われたからって訳じゃねえからな。お前の目の方が好きだからな」
 抜けていないお酒と、の『好きです』の言葉にいろいろ何処か消えちゃったんでしょうねぇ。
 もう一人……はどうなのだろうなぁと思うのは私だけでしょうか。
「うーん、反応しないねぇ」
「おや、フランシスさんもそう思われますか?」
「まぁねぇ。あれはどうなんだろうなぁ」
 そう言っていつの間にか私の腕から降りたを取り囲んでいる3人を見てその先に見えるモノを視界に入れる。
「アホやんな〜」
「お前に言われたくはないと思うけど。ねぇ」
「………さぁ」
 フランシスさんの言葉には一応曖昧に答えておいて。
「菊兄様」
 3人に囲まれていたがこちらに戻ってくる。
「そう言えば、杜若(尾張ちゃん)が言ってましたけれども欧羅巴には騎士が居るとか聞きました。菊兄様、騎士とはなんですか?武士とは違うのですか?」
「同じですよ。武士道と同じく騎士道と言うモノがあります。たった一人の方に忠誠を誓うと言うのは同じかもしれませんね」
「なるほど。では、だけのというのは難しいのですね……」
 寂しそうには言う。
「何故ですか?」
だけのがあればいいなと……思っただけなのです。我が儘なのは分かってるのです……」
「お、オレがなってやっても良いんだからな。別に、お前が欲しいと言ったからじゃなくてオレの国は女王の騎士だからな」
「え?アーサーは騎士だったのかい?紳士、紳士って言ってたけど、紳士じゃないんだへぇ。やっぱり君は紳士じゃないじゃないか!」
「ばかぁ、オレは紳士だ!!」
 ふぅ。
「まぁ、アーティが言ってる事はおいといて。ちゃんも、女の子だねぇ、やっぱり………ん?ちゃん、ちょっとごめんね」
 そう言ってフランシスさんはの首元に手を入れる。
「フランシスさん!!!」
 止めるのも遅く、彼は彼女の首もとから鎖を取り出す。
「……お兄さん、ちゃんがこうなった理由少し分かったかも」
 全て取り出さずにそれだけを見て彼はそう言う。
 の首にかかっているのは、例の『あれ』だ。
 私は、本体を見ていないのだが。
「多分ね、アーティの邪魔したんじゃないかなぁと思うんだよね。オレが思うに」
「誰が、オレの邪魔をしたんだ!!」
「まぁ、アーティは知らないでいいよ。ちゃん、それしまって良いよ」
 フランシスさんの言葉には首を傾げる。
「その首の鎖です」
「………コレは………の大事なものですね。菊兄様」
「えぇ、多分。貴女をまもってくれるモノ。………のつもりだと思いますよ。多分」
「曖昧すぎます、菊兄様」
 曖昧にしたいんですよ。
 それに関しては。
「ならば、一つお聞きしてもよろしいですか?菊兄様」
「えぇ、構いませんが」
「この鎖についているモノはどなたがくださったモノなのですか?」
「………………」
 こ、答えたくない!!
 のためを思って下さったのは充分に分かる。
 だがしかし!!!
 しかしだ、今、その『フラグ』を立たせるわけには行かないのですよー・
「お兄さん知ってるよ」
 ニコニコ(いやニヨニヨと言った方が正しい)笑顔でフランシスさんは言う。
「ん?、申し訳ないんだが、見せてはもらえないだろうか。オレに心当たりがあるのだが」
 ルートヴィヒさん止めて下さい!!!
 彼は『それ』を知らなかったのか、表に出してそれを見つめてるにルートヴィヒさんは言う。
 ちなみに、に告白をしやがった3人は見えてない。
「よろしいのですよね、菊兄様」
「……よくありません」
 私は、その下さった人物を知ってるからです!!
 もちろん、言えるはずもないのですが。
「何故ですか?菊兄様」
 うっっ、うっっ。
「きちんと答えて下さらないのであるならば、お聞きします。ルートヴィヒ様、外すとどのように身につけたらいいか、分からないので、こちらに来ていらっしゃると助かるのですが」
「構わない」
 ルートヴィヒさんはに近寄りしゃがんでの視線に合わせてそれを見る。
 ついでに、私とフランシスさんも。
 本体を見るのは正直初めてです。
「ねぇ、ねぇ、ルーイ。オレも見たいよ!!!」
「オレにも見せろ!ムキムキ」
「てめぇ、一人でって離せ!!!」
 騒いでるアーサーさんは無理矢理外しかねないのでアルフレッドさんとイヴァンさんに押さえてもらって……。
「やはり、これだったか……」
「そう言えばルイは、知らなかったの?」
「まぁ、こそこそやっていたからな」
「オレは聞かれたのよ。どうしたらいい?ってロドリグにも聞いてたみたいだけど」
「ローデリヒはたまたまだ。その作業をしていた時にのぞき込んでいたらしい」
「……………ココまでのモノとは思いませんでした。もらったときも恐縮したでしょうに」
 豪華なモノと言っていいだろう。
 黒曜石のベースに中央のサファイア。
 周囲には銀と要所要所にはダイアか、まさかそこまでではないでしょう。
 スワロフスキーとかキュービックジルコニアとかだと思いますが(と思いたいですが)……あぁ、とんでもないモノまで付けてる。
 は気づいてないですよコレ……。
 気づけるはずもないでしょうけど。
「ルートヴィヒ様、フランシス様もご存じなのですね。ではに教えて下さいませ」
「え……いや」
「ルイ、教えてあげないの?」
 教えなくて良いです!!
 フラグは、フラグはまだいらないですよ〜〜。
「じゃあ、お兄さんが教えてあげよう!!」
 フランシスさん、ニヨニヨしながら言うのは止めて下さい。
 あぁ。
「さっきちゃん、騎士が欲しいって言ったよねぇ」
「フランツっ。それは、いいのか?菊!!」
「だから止めて下さい」
「止めないで下さい。フランシスさん、その通りなのです。は欲しいのです。の」
「いいよ。あのね、それくれた人は自分は騎士なんだ!!って言ってるような奴なんだよ。全然そんな感じじゃないんだけど、まぁ、騎士国家(って言うか軍事国家だけど)って事は認めるけどね。お兄さんみたいに優雅じゃないよね」
「一応、オレの兄なんだが」
「まぁ、悪い奴やないで」
 確かに、悪い方じゃないです。
 それだけは認めます。
「アントニ、連れてきて」
「えぇで」
 いや、もうどーでも良いです。
「な、なんだよ」
 こちらに来たそうだったのに、来なかったギルベルトさんがアントーニョさんによって連れてこられる。
ちゃん、こいつが張本人」
 半分わけも分からず連れてこられたギルベルトさんをフランシスさんが紹介する。
「この方が……綺麗な銀糸と綺麗な紅玉の瞳なのです。先ほどから気になっておりましたのです」
 う、忘れてました。
 が好きな二次元キャラは『銀髪紅眼』でした。
 にも通じちゃうんですか?
のお願い聞いて頂けますか?」
「こ、コレどうなってんだよ!!」
 ちっちゃいに懇願されてあたふたするギルベルトさんって言うのも面白いですねぇ……。
ちゃんのお願い聞いてあげてよ。ジル」
「だから、」
「大人しく聞いたったらええねん」
「……兄さん、オレからは何とも言えないんだ……」
ちゃん何言うつもりなの?」
「芋兄ってどういう事だこのやろー」
「ざけんな。、そいつは止めろ!!」
 なんか叫んでいますが……もうどうでもいいです。
「ギルベルト、ちゃん泣かしたら殺すから」
 エリザベータさんがフライパンを装備してそう言う。
 大丈夫ですよ、その前に私が殺りますよ。
「だから、何だっていうんだよ!」
「あの」
 がギルベルトさんにいう。
「あなたは、騎士だとフランシス様に伺いました。のお願い聞いてくださいますか?」
「構わねえけど……」
「では、の騎士になって下さいませ」
 再び世界が凍る。
 ニヨニヨと笑ってるのはアントーニョさんとフランシスさんのみ。
 私は頭を抱えるばかりです。
「あ、へ?」
「ダメなのですか?はずっと、騎士が欲しいと思っていたのです。ロヴィ君やイスパニア様に欧羅巴には騎士が居るとお聞きしていたのです。だから、いつか行ってみたいとも思っているのです」
 ………そんな理由だったんですか?
 御館様に言われたからじゃなかったんですか?
「それだけじゃないのですよ。菊兄様。で、どうですか?ダメですか?」
 の言葉にギルベルトさんは止まってます。
 いや、他の面々も。
「菊兄様、ダメみたいなのです……」
…泣かないでください」
 ……困りました。
 ギルベルトさんの返事如何ではは泣きかねません。
 が泣くのは堪えます。
 どうしたらいいんでしょうかねぇ。
「と言うわけで、ギルベルト君、に返事お願いします」
「って言うか、菊、半分、キレてねえか?」
「まさか、そんな事あるわけないでしょう?」
 今にも刀を抜きたいところですが!!!
「ったくよぉ………」
 ため息ついて、頭を軽くかきギルベルト君はの手をとり片膝をついて
『Wenn Sie wünschen, konnten Sie mich zu Ihrem Ritter machen?』
 そう言った。
 案の定、はぽかんとしている。
「ドイツ語で言ってどうするんだ、兄さん」
「恥ずかしいんだよ!!」
「全く、そこまでしておいて、潔くないですよ、御馬鹿」
「うるせー」
 ドイツ語を理解出来るルートヴィヒさんやローデリヒさんがあきれてため息をつく。
 全く、私もため息をつきたいモノですよ。
「あの、なんとおっしゃいましたのですか?は、その言葉がよく分からないのです」
「しゃあねえなぁ。私を………騎士に……してくださいますか?」
 そう言って彼はの指先に口づけを落とす。
『ボンっ』
 何かが爆発したような音がして、が硬直していた。
 真っ赤な顔。
 照れるのは分かりますが、少し様子がおかしいですよ。
 不意にきょろきょろと辺りを見渡す。
、どうしましたか?」
「……き…く…ちゃん……?」
 戻った!?
 は我に返りぱっとギルベルトさんの手から逃れ辺りをもう一度見渡し
「フェリシアーノ!!!」
 とフェリシアーノ君の手をつかんで庭を走って、何処かに消えていきました。
「って、どういう事だ、これは〜〜〜!!!!!
「戻ったんですよ。あの娘は」
「どういう事だ!菊。オレの魔法は、解けるときは全部一度に解けるはずだ!」
「いろいろ重なったんですよ。えぇ、いろいろ」
 全て重なったせいで、あの娘の記憶は、体だけ魔法にかかったまま、現代に戻ってきてしまったんですよ。
「それよりも、平気なのか?が行ったのはあの森じゃねえのか?」
「何でてめえがあの森を知ってんだよ。ギルバート」
「はっ、何でてめえに言わなきゃならねえんだよ」
「アーサーさん、彼もあの森で迷った事があるだけです」
「は、迷ったとは、だらしがねえなぁギルバート」
「だから、「もっ」て言ってるじゃないですか」
「うっっ」
 アーサーさんとギルベルトさんが言う森は、我が家の裏に広がる迷いの森。
「え?森なんてあったの?」
「あるんだぞ、すっごく暗いんだ!!フランクは知らないのかい?」
「知らないよ。ルイ、知ってた?」
「いや……………」
 知るはずがない。
 アルフレッドさんも迷った内の一人だが、揺らぎがあるときに入り込める。
「場がおかしいとき入れるあるよ。菊が、ココに家を造るときに我が場を見たアル」
「場って…?」
 知らない面々が場について聞いてくる。
「場は場ある」
 開国した頃だ、江戸に来た耀さんについでだからと見てもらったのは。
「ともかく森があるのですよ。鎮守の森なのです」
 そう言って私は森の方を見る。
『カー、カー』
 カラスが鳴いて、バサバサと森から飛び立った。
 夜のとばりは辺りに落ちていた。

*****

ちゃん?」
 森の中で立ち止まって息を整えてたらフェリシアーノが声をかける。
「ビックリしたよ。急にオレの手をつかんで森に走り込むんだもん」
「うん、ゴメンね」
ちゃん、元に戻ったの?」
 フェリシアーノは不思議そうにあたしに聞いてくる。
「………元に戻ったって?」
「えっと……説明しずらいや」
 これは…元に戻ったって言うんだろうか。
 視線がかなり低い。
 フェリシアーノの腰ぐらいまでしかあたしの身長がない。
 それに、なんであたし着物なんだろう。
 それ以上に。
「フェリシアーノ、さっきのなんだったの?何であたし着物なの?」
 さっき、あたしギルに傅かれてたよ……。
 わぁ、思い出したら、顔が赤くなってきた。
 あつい〜〜、マジですっごい照れる〜〜〜。
ちゃんがちっちゃいのは、アルトゥーロの魔法?のせいなんだよ」
 アーサーの魔法?
 って事は、最後のあれで確実にかかったってことか。
「で、何でもどれないの?」
「それはオレにも分かんない。けどさ、ちっちゃいちゃんかわいいね」
「かわいくないよ」
 ちっちゃい頃のあたしはかわいくないんだよ。
 たとえかわいいと言われようが西洋のお子様の可愛さには完敗です。
ちゃん、そんな事ないんだよ」
 そう言ってしゃがんだフェリシアーノに抱きしめられる。
ちゃん、オレちゃん大好きだよ〜。ちゃん、俺の事大好きって言ってくれたよね。オレ、すっげー嬉しかったよぉ」
 ???は?
「俺の事大好きって言ったよ」
 ………言ったっけ?
 記憶にないよ。
「俺の事好きだよね」
 え?
「覚えてない?俺の事好きって言ってくれたよ………。ヴェー」
 そんな、泣きそうな顔しないでよぉ。
「フェリシアーノの事好きだよ?」
「アルトゥーロよりも?」
「?アーサーよりも?」
「そう」
 ………同じぐらいって言ったら…だめかな。
「オレと兄ちゃんどっちが好き?」
 いや、だから同じぐらいじゃダメ?
「それじゃ、ダメだよぉ。オレはちゃんの事が大好きなのに、ちゃんが俺の事大好きじゃないのはだめ」
 そう言う問題じゃない。
「じゃあ、聞き方変えるね。イタリアとイギリス、どっちが好き?」
「イタリア」
「即答だね」
 そりゃあ、イタリアは一番好きな国だもん。
「じゃあ、イタリアと日本は?」
「………日本はあたしが生まれた国だよ?生まれた国が一番じゃないのは悲しいよ」
「ゴメンね。じゃあ、日本以外で一番好きなのはイタリアなんだよねぇ。じゃあ、北と南、どっちが好き」
 それ、すっごく悩む。
「もう、選べないよ。北も南も両方好きだよ」
「………じゃあ、オレとアルトゥーロじゃあ、オレだよね」
 そうなると………うーーーーーーーーーー。
 もう、どうして選べない事を聞いてくるんだろう。
「なんでそこで選べないんだか分からないよ」
 私も選べないんだか、分からない。
 でもね、皆と居るの楽しいの。
「だからね、もうちょっと………楽しんでたいんだ」
 折角、世界と友達になったんだ、その中から素早く一つに決めちゃうのはなんだか勿体ない。
「………あたし、八方美人だね」
「うーん、そうかも。でも、ちゃんが最後に俺の事選んでくれればそれで良いんだよね。うん」
 そうなの?
「ヘヘヘ、今独占中」
 フェリシアーノはすっごく嬉しそうに言う。
 良いんだか、分からないんだけど。
『カチャ』
 何か金属が鳴る音がしてスーと光る何かが目の端を通る。
「フェリシアーノ君、に何をしているんですか?」
「ヴェ、ヴェ〜〜!!菊、刀しまって〜〜〜〜〜〜」
 日本刀の刃。
 峰じゃなくってそのまま刃の方がすーっと通ってる。
「じゃあ、を離して頂けますか」
「離す、離すよ〜〜〜」
 解放されたあたしが見たのは、そこには刀を鞘に戻す菊ちゃんと、ギルだった。
 って、何でギルが居るのぉ???
「フェリシアーノ君、迎えに来ましたよ」
「大丈夫だよぉ」
「じゃないです。では、、先ほどはギルベルトさんに失礼な事をなさったんですから、きちんと謝ってくださいね」
「ちょ、菊ちゃんあたし、何も!!!」
「逃げ出したじゃないですか」
 って……あれは。
「それでは戻りますね」
 そう言って菊ちゃんはフェリシアーノと共に戻って行ってしまった。

*****

「菊〜〜何で一緒に帰らないの?」
 フェリシアーノ君が聞いてくる。
「ご不満かもしれませんが、を連れ帰ったところで、また恥ずかしがって逃げ出す事は目に見えてます。あの娘には軽く逃亡癖がありますからね」
 庭に残っている面々にも説明した事をもう一度言う。
ちゃんも逃げ足速い?」
「さて、確かめた事はありませんが。ともかく、ギルベルトさんを連れてきた方がが逃げ出す事はないと言う事ですよ」
「どうして?」
「迷いの森なんです。この森。ご存じでしたか?ある事を」
「そう言えば…ちゃんに連れてこられて初めて知ったよ」
「この森には私と、そして姉上しか入れません。迷うからです」
「ホントぉ?」
「確かめてみますか」
 私の言葉にフェリシアーノ君は暗い森を見渡して首を振る。
「ね、は逃げ出すわけには行かないんですよ。ギルベルトさんを迷わせる事になりますから」
「じゃあ、他の人でも良かったんじゃないの?兄ちゃんとかさぁ」
と一緒にさせたかったですか?」
「やだよぉ。兄ちゃんとが一緒だなんて」
「…は、ギルベルトさんに一番に懐いてます。ドイツで1ヶ月お世話になったと言う事もあげられますけどね」
「それでなくても無防備なのに、それ以上なの?」
「結構。でも、兄の様に見ている様ですから、心配なさらなくても大丈夫ですよ」
 そう言って私はフェリシアーノ君を安心させた。
 本当の所は、の奥を覗かないと分からないでしょうが。

*****

「…………
 ギルがあたしを呼ぶ。
「……あのさっきはごめんなさい。驚いただけで」
 顔を上げないであたしはギルに言う。
「分かってるって。お前恥ずかしがり屋だからな」
「うー」
 でも、何であんなことになったんだろう。
「大丈夫か?」
「うん……あのね、ギル。あたしなんで」
「菊の話だと、アルトの魔法と、耀の術と菊の術と俺様がにやった十字架のせいだそうだ」
 ……これ、マジで、効いてるの?
「あのなぁ、俺様が祝福かけてやってんだぞ、効くに決まってんじゃねえか!!」
 いや、ホントに効いてるとはおもいも寄らなかったよ。
「アルトが望んだように小さくならなかったのは俺様の祝福のおかげなんだからな!!」
「着物着てるのと関係するの?」
 そう聞くとギルは答えづらそうに辺りに視線を這わせる。
「…多分……な」
 そっか……。
「覚えてねえのか?」
「全然」
「まぁ、覚えてねぇ方がいいぞ」
 そんなにまずい状態だったのか?
「って言うか、ギル、さっき何してたの?」
「へ?」
 あたしの目の前で。
 ビックリしたんだよ、指先にキスされたから。
「あ、あれは!!!!」
「あれは?」
 なんだろう、ギルの顔が赤いような気がする。
「後で教えてやる!!」
「今、知りたいのですが」
「………………………今で良いのかよ」
 え???
 何、今の間。
「お前、混乱するの目に見えてるけどな。ケセセセ」
 混乱って……。
「お、そうだ」
 何かを思い出したようにギルはあたしの首もとに手を入れる。
「って、何してるのよ!!!」
「俺様がやった十字架を取り出そうとしただけじゃねえか!!フランツもやってたぞ」
 ま、マジデカ〜〜〜。
「って、何で取り出そうとしてるのよ!!」
「もう一度、祝福かけるんだよ」
「ホントにかけられるの?」
「俺様に不可能はない!!!」
 どっか嘘くさい。
 ギルは本気っぽいし………一応。
「まぁ、お願いします」
 身長が……小さくなってるせいか、十字架の鎖も長い様な気がする。
 黒い十字架を囲んでるキラキラとしたのはなんだろう。
 いつ見ても悩むんだ。
 ダイアモンド……のはずはないから、スワロフスキーとかキュービックとか………かなぁ?  ともかく、首から外さずに、ギルに十字架を渡す。
 それに祝福を……口づけを落とすギルは何処か神聖で………。
 再び、コレを見る事になるとは思わなかった。
「おし、これで良しと。さて、戻るか。あんま遅くなると菊がうるせーからな」
 そう言ってギルはあたしを抱き上げる。
「ちょ、ギル!!!なんで!!!」
「抱えてった方が早く戻れるからに決まってんじゃねえか」
 恥ずかしい〜〜〜。
 おろして〜〜〜。
 ギャー〜。
「少し大人しくしやがれ、こら」
 と強く抱きしめられる。
 ねぇ、だから〜〜〜。
 なんで、抱きしめられてるの?
「お前が大人しくしねえからだっつーの」
 うー、小さいと不便。
「今までも小さかったけどな。ケセセセ」
 あー、もうムカつく〜〜。
「下ろしてよ〜〜」
「逃げるからダメに決まってんじゃねえか」
 に、逃げないわよ
「お前が逃げると、菊に文句言われんだよ。ドイツでの事ばれてよぉ」
 ………バレたって。
「あ、お前が逃げ出したって事だけだぞ。他の事はばれてねえからな」
 ………。
「まだ……菊には言えねえか…?」
「菊ちゃんと一緒にいるって言った。……だから、言えない」
 言えるはずない。
「……そうか……。あの時も言ったけどよ…いつでも聞いてやるから…一人でため込むなよ。いろんな事」
「うん……ありがとう」
 ギルの肩に顔を埋めてあたしは泣くのを我慢した。
 いつもは俺様なのに、時々スゴく優しくなるんだ。
 ……すっごい、ムカつくぐらい。
 ギルの体温が暖かくて、あたしはそのまま目をつぶった。

*****

 庭に戻れば、皆が居る。
 仮装してる。
 何で?
「始まってんじゃねえか」
「始まってるって?」
 ギルの言葉にあたしは首を傾げる。
、戻ってきましたね」
「菊ちゃん、出かけるんじゃなかったの」
「今日、何の日か忘れましたか?」
 何の日?
ちゃん!!トリック・オア・トリートやで〜〜」
 …………ハロウィン!!
 まずい、お菓子持ってない。
「どうぞ、アントーニョさん。の代わりに差し上げます」
 そう言って菊ちゃんはアントーニョさんに飴玉を渡す。
「なんや〜、折角ちゃんにいたずら出来ると思うとったのに」
「すんなバカ!!」
「ヒーちゃんと菊ちゃんがおったら何も出来ひんやん」
 オオカミ男の格好してるアントーニョさん、
 菊ちゃんは狐?
「そうですよ、妖狐です。ローズウィップ出しますよww。は、そのままでも充分かもですね」
 そうかな?
「さしずめ妖怪のお姫様という所でしょうか?」
 なんか、微妙だな、それも。
「さぁ、ハロウィンですよ。お祭りを皆さんと一緒に楽しみましょう」
「しかし、何でもやるな日本は」
「楽しければ、何でも良いんですよ。それが何であろうと。年がら年中お祭りがあった方が楽しいじゃないですか」
「そう言うもんか?」
「そう言うものだよ」
 ギルの言葉にあたしは菊ちゃんと顔を見合わせ言う。
「トリック・オア・トリートって誰に言ってこようかな」
 とりあえず、お菓子あたしも持たないとね。

 ちなみに、あたしが元の身長に戻ったのは、『一晩寝れば呪文は解ける』という定説と共に、元に戻りました。
「すまない、もう酒は飲まない!!!!」
 アーサーの土下座と共にその言葉を聞いたのですが……。
 皆首を振ってました。
 多分、飲むんだと思います。
 ふぅ。

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あとがき

菊ちゃん裏設定ギルに対して切れると『ギルベルト君』になる。と言うのを本日完成させました!!!
『場』って?
にーに昔の特殊設定。特技風水。今は香くんとか湾ちゃんの方が得意。
お掃除ゲームをやってない(やれない)ので、詳細を分からないのですが。プロイセン君と呼んでるらしいですね。
『Wenn Sie wünschen, konnten Sie mich zu Ihrem Ritter machen?』貴女が望むのならば、私を貴女の騎士にしてくださいますか?
………翻訳かけるときは恥ずかしくないんだけど、他の面々が言うときは恥ずかしくないんだけど、ギルが言おうとするともの凄く恥ずかしくなる。フェリシアーノの告白はニヨニヨしながら書いてるんだけど。
……ただ、単にギルにドイツ語をしゃべらせたいという欲求で行動してるんだけどなぁ……。
もうちょっと続きます。