「………………………」
アーサーは何故顔を真っ赤にして、あたしの目の前に座った。
……暑くて赤くしている訳じゃない(なんたって今日から11月。日本は寒くなってくるのです)。
彼は別の意味で赤くしているのだと、あたしはアーサーの言葉を最後まで聞いてようやく分かったのだ。
ハロウィンパーティーから一夜明けて。
あたしの体は無事、元の大きさに戻っていた。
めでたし、めでたし。
と言うわけではなく、まだ、話には続きがある。
菊ちゃんに起こされたのはいつもと同じ時間じゃなくって、逆に日曜タイムの10時だった(日曜でも10時には起こされる)。
身につけていたはずの着物もドコに消えたのか、あたしは昨日、菊ちゃん達がやってきた時と同じ格好してた。
部屋着だ。
いつもは同じ部屋に泊まっておしゃべりとかするメイちゃんやエリザは離れに泊まったらしい。
男連中を離れに泊めるべきだとは思うのですが……まあ、いっか。
起きてきたら、テーブルがあたしの誕生日の時みたいにたくさん横に並んでた。
「おはよう、菊ちゃん」
「おはようございます、」
菊ちゃんが台所仕事の手を休めてあたしを見る。
「、戻ったのですね…」
「うん、戻らないと困るよ」
「そうですね」
あたしの言葉に菊ちゃんは苦笑いを浮かべる。
「皆は?」
テーブルが横に並べてあるので片付けてないか…まだ居るのか?
「まだ、いらっしゃる方もいますよ。皆さん、森が気になるようで朝食後にそちらに散策に行かれましたよ」
ふーん……。
そ、そうか、今、朝の10時だもんね。
皆、朝ご飯ぐらい食べてるよね。
あたし…ご飯どうしようかな……お昼まで待とうかな?
「スコーンでも食べますか?」
ご飯を気にしていたのに気がついたのか、菊ちゃんが勧めてくるモノは…スコーン。
スコーン。
食物兵器スコーン。
いや、アーサーが作った奴限定だろうけど。
まさか、
「アーサーが作った奴?」
どうしよう。
噂の食物兵器。
「まさか、私がに食物兵器を出すとでも?」
ハハハハ。
「私が作ったものですよ」
菊ちゃんが、チョコチップが入ったスコーンとコーヒーをテーブルに置く。
「アーサーが見たら……何となくだけど、怒り出しそうなおやつだね」
「何故ですか?」
「スコーンには珈琲じゃなくって紅茶だろう。って」
「あぁ、確かにそうかもしれませんね」
あたしが珈琲を飲むところを見ながら菊ちゃんは笑う。
とは言ったって仕方ない。
あたしは紅茶が飲めないんだもの。
結局、7月にアーサーが滞在してたときには飲ませてもらってない。
その時はそんな会話しなかったんだよね。
アーサーが作った紅茶飲んでみたいなぁと思ってたりする。
菊ちゃんとそんな会話をしながらまったりとした時間を過ごす。
皆はまだ戻ってこない。
「ねぇ、所で大丈夫なの?森に行ったって言ってたけど」
「耀さんも一緒ですので、大丈夫ですよ」
「あぁ、にーには入れるんだっけ」
風水で家相とか見てもらったとか。
元々は天海上人が見たものとか………らしい。
「そう言うわけではありませんが。結界解きましたし」
今、なんと?
言ったのですか、この人は。
「結界、解いたって」
あそこ……どういう山なんだっけ?
「あそこは異界ですから、普通は入れないんですよ。……神社の裏山に門を通じて……。なので彼らは神社の裏山にいるはずですよ」
どーなってるんだ、この家の山は!!!
菊ちゃんから聞いてた事は、菊ちゃんやあたしや西の姉様とかともかく、日本関係者以外は迷うって…。
「裏門の結界を解いただけです。異界に足を踏み居られては困りますからね。特にアーサーさんには。魔法が使えるとおっしゃるあの方には…異界は魅力的でしょうし」
いや、いや、いや、よく分からないんだけど。
「、この日本にはまだまだ不思議なところがいっぱいあるんですよ。ご存じなかったのですか?」
…………………現代日本にそのような所があると言ってしまう貴方が怖いです………。
数あるオカルトスポットは、噂だけではなくってリアルスポットなのですか??
ぎゃ〜〜〜〜〜!!!!!
あたし、怖い話ダメなんだってばぁ。
「まぁ、それは冗談ですよ」
泣き出しそうなあたしに菊ちゃんは笑顔で言う。
「ホントに?」
「はい」
ホントか嘘か分からないけれど、とりあえず今は冗談として受け取ろう。
「なんて、冗談ですけど」
は聞こえないふりして。
******
それから皆が帰ってきたのはすぐだった。
で、今、あたしの目の前にはアーサーが座っている。
と言うか、隣に座ってあたしはアーサーの方を向けさせられてるって言うか。
不満そうに見ているフェリシアーノとロヴィーノはあたしのすぐ後ろにいる。
「何かあったら助けてあげるからね」
「心配すんなよな」
そう言う二人の側には保護者然としているルートさんとアントーニョさんがいるのはいつもの事だ。
「何?アーサー」
「………」
「…………」
いや、無言ってどうよ。
「………。昨日は、済まなかった!!!!」
土下座して頭を床に付けてアーサーは叫ぶ。
いや、叫ばれても困るし、土下座なんてしなくたって。
「もう、酒は止める。もう、二度と飲まねえ」
うわ、断酒宣言!!!
「何、言っちゃってるのアーティ。お前には無理だよ」
フランシスさんのあきれ声と同時にその場にいた者全員が頷く。
アーサーのお酒好きも、酒癖の悪さ(まだあたしは知らない………いや、昨日の騒ぎで知ったか)もその他いろいろも、皆ちゃんと分かってるから。
アーサーの断酒なんて不可能な事だ。
「信じてもらえないよな……」
え?
すっごく微妙な事を聞かれる。
あたしは、なんと答えて良いか正直悩む訳で。
「オレは………には信じて欲しいんだ。………嫌われたくない………」
……………この人、何言ってるの?
しかも、最後は何を言ったか正直聞こえなくって。
「いや、別に信じるも信じないも…アーサーのお酒好きは直らないだろうし、酒癖も直らないのは分かるから」
直るんだったらもう、とっくの昔に直ってると思う。
「……いや、だから………オレは、お前の事が気に入ってるから、気に入られないのは気にくわない」
…………………????
アーサーのその回りくどい言い回しにその場にいた全員が一瞬、首傾げた。
最初に笑い出したのはフランシスさんと菊ちゃんだ。
「アーティ、どうしてアハハハハハハ」
「いや、その笑ったら申し訳ないですよ」
「どうしてそう言う言い方が出来るんだか分からないよねぇ」
うん、あたしもそう思う。
「はっきり言って、アーサー」
「はっきり?」
アーサーが何を言いたいんだか、分かるようで分からない。
「オレは、、お前の事が………………」
アーサーは顔を真っ赤にしてる。
「……アーサー?」
「一つ、聞きたい。お前は…オレの事をどう思ってる?」
不意に聞かれる。
フェリシアーノにも聞かれ、アーサーにも聞かれるとは思いも……。
アーサーは何かの罰ゲームでもしてるのか?
何となくそう思いたい気分。
そう思いながらも、とりあえず、後でにしようと無視をする。
「アーサーの事、嫌いじゃないよ」
「嫌わないか?あんなことがあったって言うのに」
「うん。そんな事ぐらいじゃ嫌いにならないよ。押し倒されて犯されそうです!!なんてレベルまで行くんだったらマジで嫌いになるかも知れないけど」
「……………」
なんで、そこで無言になるのよ!アーサー!!!
「ほ、ホントに嫌いじゃないのか?」
「嫌いになる理由がないよ」
どっちかって言うと好きかな?
「じゃあ、オレの事好きなんだよな?」
え?
は?
「ちゃんはアルトゥーロの事好きじゃないよ。ちゃんが好きなのはイタリア。オレと兄ちゃんの事」
「、オレもの事好きだからな!!!」
って何でフェリシアーノとロヴィーノの二人に抱きしめられるのよぉ〜〜〜。
「二人ともいい加減にしろ!!!!」
ルートさんの一喝&
「戯れは止めてくださいね」
と抜き身(は、やめて菊ちゃん!!!)の剣をすっとフェリロヴィの前に出した菊ちゃんはにっこりと微笑む。
「ヴェ、き、菊それは止めて〜〜」
「危ねーじゃねえかちぎー」
「てめーらのせいで、に何も言えねえじゃねえか!!」
「ちゃんに聞かせたくないよ」
「なんでてめえの話をに聞かせなきゃなんねーんだ」
なんか、今、みんな、感動してる。
フェリシアーノとロヴィーノの二人がアーサー相手に喧嘩してる。
さすが、女の子の前なら強いぞ!イタリア!!
って所?
「ふざけんな〜!!てめえらが邪魔する筋合いはねえ!!、イギリスに来い」
へ?
「っ。べ、別に来たくないって言うんだったら構わないが。オレはをイギリスに連れて行きたい」
……………………………………。
ど、どういう事だよ!
「だから、の事が好きだって言ってんじゃねえか!!ばかぁ」
今、初めて聞きました。
しかもなんで泣きそうなのアーサー。
「ちゃん、イギリス行っちゃうの?ダメだよぉ」
「行ったら許さねえからな」
うん、だから、話が突拍子もなさすぎてどうして良いか…もぉ。
「一応、お兄さんがまとめてあげる。アーティはちゃんの事が好きなんだって。だからイギリスに来ませんかと」
「旅行って言う意味で?」
「な訳ないでしょう」
フランシスさんが呆れてため息ついてる。
ちゃんも困るよねぇ、なんてため息ついてアーサーを小突く。
「アホやなぁアルトは。ヒーちゃん、アホがおるわ」
「アホって言ってやるなよ。可哀想だろ」
「ギルバート!!てめえに可哀想って言われたくねえよ」
「うるせーよ。だいたいの返事は決まってんじゃねえか」
うん、決まってるけど。
ギルに言われるのはアーサーも気の毒なような。
「だからね、アーサー、あたしこの前ウィーンで言ったよね。菊ちゃんの側にいるからドコにも行かないって」
「でも、好きな人が出来たらって言ったじゃねえか」
「言ったけど、あたしの一番は今は菊ちゃんなの」
そりゃ……先はどうなるか分からないけれど。
誰にも視界に入れたくなくってあたしはうつむく。
アーサーに言われるとは思わなかった……。
嫌いじゃないよ、アーサーはイギリスだもん。
好きな国の一つだもん。
「だからね、みんな好きじゃダメ?」
と聞いてみる。
「っ……」
ダメだよねぇ。
再びうつむいたのあたしの頭を誰かが撫でてくれた。
その手が優しくて泣きそうになった。
*****
午後、急に寒くなってきたせいか、コタツを出した菊ちゃんの隣に座り込む。
「どうしたのですか?」
「うん…」
菊ちゃんの言葉にそのまま頷く。
コタツのテーブルの上は原稿が広げてある。
冬コミの準備だ。
「邪魔?」
菊ちゃんに寄りかかり聞いてみる。
「いえ、邪魔ではありませんよ。」
「何?」
「大丈夫ですか?」
「うん…」
その問いにあたしは素直に頷く。
大丈夫じゃない気がするけど、ただ甘えたかった。
「冬コミの原稿、手伝ってくださいね」
「うん」
何も聞かない菊ちゃんの優しさが嬉しかった。
次にアーサーや皆と会う時は笑ってられたらいいな。
そう、思った。