「ふざけんじゃねぇ!!!」
「ちょ、ちょっと待て!!!」
「およしなさい、御馬鹿さん!!!!」
そんな声が優雅な庭園に響いた事をあたしと菊ちゃんは知らないでいた。
皇帝達の休日 〜その一寸先の闇にだってまだ〜
菊ちゃんと二人で仕事も兼ねて(しくしく)ウィーンにやってくる。まぁ、仕事って言っても観光だけど。
あぁ、きっとこういう事が官公庁何やってんの?的な叩かれる原因なんだわ。
と思いつつ、ウィーンの町並みを眺める。
この前はギルと二人っきりだったけど、今回はエリザと菊ちゃんと一緒。
ローデリヒさんも来るはずだったんだけど、急な客の相手をしなくちゃならないとかで、ローデリヒさんと同じぐらいウィーンに詳しいエリザに案内してもらう事になった。
さすが、エリザ。
長い事ローデリヒさんと一緒に暮らしていたせいか詳しい。
ギルみたいにあたしが聞いても「あー多分…」なんて返答はしない。
まぁ……ギルがウィーンに詳しいなんて事は無いだろうから(プロイセンだし)だからそれは仕方ないだろうなって分かってるけど。
「俺様が案内してやってるんだからな!!」って言ったのはギルなんだよね…。
案内してやるって言うぐらいなんだから、分かるって思うじゃないかぁ。
……あの時を思い出して、ちょっとだけため息。
まぁ、楽しかったのは楽しかったから別にいーんだけど。
で、今回はエリザの案内で大満足。
おいしーカフェも案内してもらっちゃったり。
ローデリヒさんとエリザのデートコースなんて言うのも聞いちゃったり。
楽しかったんですよ〜。
で、ローデリヒさんの待つお城な家に戻ってきました。
「後で、シェーンブルン宮殿とかローデリヒさんに解説しながら案内してもらいましょう」
なんてそんな会話をしながらローデリヒさんがいるであろうティールームへと向かう。
「やーーーー。な、なんで追いかけてくるのぉ〜」
子供の泣き声。
「ま、待てぇーーー」
「離せ、このバカァ」
うん、子供の声が聞こえる。
「おや、珍しいですね。子供の泣き声とは。どなたか遊びに来ているのでしょうか」
「誰が?」
「さぁ」
あたしの問いに菊ちゃんは首を傾げる。
「でも、菊さん、子供がいるような方が遊びに来るとは聞いてませんよ」
「そうですよねぇ………」
ともかく、子供がいる。
……どうしてだろう、あたし、今の3つの声に聞き覚えがあるんだよねぇ。
「やー、どーして、ヴィルヘルムは追いかけてくるのー」
「久しぶりに逢ったのにそれは無いだろう、フェリシアーナ」
ちっちゃいフェリシアーノ(メイドさんだ)をルートさん似の男の子が追いかけてる。
ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!!!
「お、おい、ヴィル。あんまフェリちゃん追いかけんなって」
「ギルベルトは黙っててくれ」
「いや、そう言う問題じゃなくってなぁ」
ルートさん似の男の子を追いかけてきたギルが妙に慌ててる。
「ヴィルヘルム、フェリシアーノを追いかけるのはおよしなさい」
「ローデリヒ、久しぶりに逢ったんだ。第一、フェリシアーナを追いかけて何が悪い」
同じく追いかけてきたローデリヒさんが頭を抱えながら言う
「なんや、相変わらず騒がしいなぁ。なぁ、ロヴィ」
「うるせー、離せよ、アントーニョの馬鹿!!!」
……目の前で繰り広げられているのはちびフェリとちびルート(多分)の追いかけっこ。
に慌てているギルとローデリヒさん。
プラス、ちびロヴィを抱えるアントーニョさんと嫌がってるちびロヴィ。
冷静に考えればそう言う状況のはずなんだけど。
……いや、うん、そう考えてるのも冷静じゃないよね。
「ローデリヒさん、ギルベルトさん、アントーニョさん、こんにちは」
菊ちゃんが冷静に3人に話しかける。
「菊、出迎えに出れず申し訳なかったですね。見ての通り取り込んでいたので。エリザも、二人の相手ありがとうございました」
捕まえる事の出来たちびフェリを抱えてローデリヒさんはあたし達をティールームへと案内する。
「一つお聞きしても?」
「どうぞ」
そして菊ちゃん、椅子に座って一言。
「皆様に、お子様がいらっしゃるとはついぞ知らず申し訳ありません。隠し子とは思いもよりませんでした」
心底驚いた様に菊ちゃんは言う。
かくしご………。
「ち、違いますよ。そんな御馬鹿さんな事は言うものではありません」
「菊、誤解してねえか」
ギルの側にはちびルートがいる。
「隠し子か〜。そんなんなぁ可愛いもんでもんちゃうで。せやけど…隠し子か、えぇなぁ」
「ローデリヒさんに隠し子………隠し子だなんてっ。だ、誰との子供ですか?」
「エリザ、何を誤解しているのです。落ち着きなさい、御馬鹿」
かくしご、隠し語…隠し子………。
「隠し子〜〜〜〜〜〜!!!」
隠し子って何ぃ〜それ。
「隠し子って菊ちゃん、おいしい?」
「おいしくありません、とてつもなくまずいです」
「だよねぇ」
ギルと、ローデリヒさんとアントーニョさんに隠し子だなんてっっ。
「お、オイ、!!」
「そんな、そんな、そんな、ひどいですっっ。ローデリヒさんが、私に黙って隠し子だなんて」
「だから、落ち着きなさいと言っているでしょう。エリザベータっ。エルジェーベトっっz」
「っロ、ローデリヒさんっ」
「これは、隠し子でも、なんでもありません。フェリシアーナ……じゃない、フェリシアーノですよ、御馬鹿さん」
「ふぇ、って事は、フェリちゃんとの」
「あぁっ。アルトゥル・カークランド、貴方が説明をなさい。貴方が原因なのですから」
アルトゥル?
ローデリヒさんが向ける視線の先には気まずそうなアーサーが一人ぽつんと座っていた。
「おや?では、アーサーさんとの隠し子ですか?」
「お、おいっっ。それは断じて違う。に何を菊、っっ言っているんだ!!!」
アーサーとの隠し子。
ありえそーと思ったらダメですか?
「そんな、アルトゥールとの隠し子だなんてっっ。それにしては、眉毛が普通」
「確かに、眉毛が普通ですねぇ」
ホントだね、眉毛が普通。
「眉毛って、眉毛って、オレは別に眉毛じゃ」
「眉毛はもしかして隔世遺伝してしまうかもしれません。気をつけましょう」
「そうですね。菊さん」
「隔世遺伝……100年後とかだったらその子がかわいそすぎる」
「樋乃まで……ぐすん」
なんか、泣き出してしまったアーサー。
ちょっと…眉毛いいすぎたかも?
「あぁいい加減、誰かまともに説明せなあかんなぁ。貸しはでかいで、アルトゥロ」
「くっっ」
「自分は悪ないなんて言うたらあかんで。根本的な原因はお前なんやからなぁ」
悪そうな、アントーニョさんの声が聞こえる。
って言うか、結局、このお子様達は…。
「まぁ、アーサーさんもとい、ブリタニアエンジェルのあの(はた迷惑な)奇跡(とやら)で小さくなってしまった、フェリシアーノ君とロヴィーノ君……そして……ルートヴィヒさんでよろしいでしょうか?」
菊ちゃんがキチンと状況を整理する。
その菊ちゃんの言葉にギル、ローデリヒさん、アントーニョさんの3人は頷く。
「菊、さりげなくひどくないか?」
「気のせいだと思いますよ、アーサーさん」
菊ちゃんはにっこりとアーサーに微笑む。
「菊、お前分かってたんじゃねえのか?」
「まさか。アーサーさんに気がつくまではホントにあなた方の隠し子かと……」
ギルの言葉に菊ちゃんは視線をそらす。
って事は、マジでちびたりあなのか?
「一体どうして、ブリタニアエンジェルが発動する状況に」
「こいつらが話し合いの邪魔をしただけだ」
「話し合いの邪魔はしてへんで。勝手に、お前が俺らの話に割り込んできたんだけやん」
「あぁ?オレはロダリクとルイスと話があったのを、お前達がっ」
アントーニョさんと言い合っていたアーサーと視線が合う。
何?
「別に、俺らは悪くねぇぜ。アルトゥール、お前が勝手にキレただけじゃねえか」
「そうやで、俺らのせいにされたら敵わんわ。俺らはロドの家に遊びに来ただけやで」
「うるせー」
まぁ、話を要約すると、傍らで話し合いをしていたアーサーとローデリヒさんとルートさんの邪魔をした?ギルとアントーニョさんとフェリシアーノとロヴィーノ。
にキレたアーサーが「ほあたっ」っを掛けたら、ルートさんとフェリシアーノとロヴィーノにかかってしまったというわけ?
「その通りですよ。全く頭の痛い事です」
そうぽこぽこなりながらローデリヒさんはため息をつく。
「あの、ローデリヒさん。あの人達は誰ですか?」
ローデリヒさんの足下からちびフェリらしい声が聞こえる。
「……フェリシアーノ、挨拶なさい。彼らは私の友人です」
とローデリヒさんはフェリシアーノにあたしと菊ちゃんを紹介する。
「は、初めまして。僕はフェリシアーノ・ヴァルガスと言います。ローデリヒさんのおうちで働いています。……本当のおうちは、イタリアのヴェネチアにあります」
と恥ずかしそうに言う『ちびフェリ』。
かわいい。
なんて、可愛いんだ!!
「良くできたわね、フェリちゃん。ローデリヒさん、フェリシアちゃん達の記憶はまさか……」
「おそらくは昔に戻ってしまったようです。菊、貴方がこのはた迷惑な奇跡とやらの被害に逢ったときの話を聞かせてください」
「…私が直接このような状態になったわけではなく、ヨンスさんが小さくなってしまって…」
言動が変わらなかったあれか。
「記憶はあったの?ヨンス」
「いえ……精神的にも記憶としてもその小さい当時に戻ってしまったようです。うっすらと現在の記憶も無いわけではないのですが…。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
菊ちゃんはおそらくあたしが抱いている疑問と同じ疑問を持っている。
「アントーニョさんが抱きかかえていらっしゃるのはロヴィーノ君ですね」
「せや。ロヴィーノやねん。はぁ、どないなんねや」
ため息付いた瞬間腕の力がゆるんだのか、『ちびロヴィ』はアントーニョさんから逃げ出す。
「あ、こら、おま、どこ行くねん」
「アントーニョがいないところに決まってんだろー」
そう言って『ちびロヴィ』はこっちに駆け寄ってくる。
「………お前、菊?なんか、おっきくなってねーか?」
「………そうですか?ロヴィーノ君が小さくなったんじゃ」
「小さくなってねぇっ」
顔を真っ赤にして怒り出すロヴィーノも可愛い。
「菊ちゃん、『ちびフェリ』と『ちびロヴィ』が可愛い」
これが、楽園?
そうか、コレが噂に聞く楽園。
楽園なのかぁ〜〜〜。
「お前、?だよな」
ちびロヴィはあたしを見上げながら言う。
ちびロヴィの言葉にみんな驚く。
ん?ロヴィーノはあたしの事覚えてる?
って言うか、記憶残ってるんじゃ。
「…ロヴィーノ君、彼女は貴方が知ってる人ではありませんよ」
「そうなのか?でも似てる?」
ちびロヴィは首を傾げる。
「………菊ちゃん?…ねぇ」
あたしの問いかけに菊ちゃんはにっこり笑って……。
「私を覚えていると言う事は………安土桃山時代(1568[信長公、上洛]〜1603[江戸幕府開府])まで戻ってしまったと言う事ですね」
って…話変わってるしっっ。
えっ?日本で安土桃山時代って……ヨーロッパだとどの辺よ!!
「大体そうですねぇ……。イタリア戦争(1521〜1544)の後から、30年戦争(1618〜1648)の前…ぐらいですかねぇ」
いや、だからイタリア戦争がいつだか覚えてないし…30年戦争だって頭にないよぉ。
「で、そのギルベルトさんの足下にいる彼は…どちら様でしょうか」
「ルートさんじゃないの?」
なんか、衣装的に神聖ローマっぽいけど。
まさかねぇ。
「、フェリシアーノ君とロヴィーノ君が今私が言った時代だとして、ルートヴィヒさんだけ、別の時代と言う事は全く考えつきません」
やっぱり?
「ギルベルト、ルートヴィヒって言うのは誰だ?」
何かを思い出していたような顔をしていたギルは神聖ローマ???ルートさん???の言葉に困ったような顔をする。
「あぁ、なんつーかな。ああ……ローデリヒ、てめえが説明しろ」
「何を言うんですか、ヴィルヘルムに説明するのは貴方の役目でしょう」
「なんでオレなんだよ。この頃の教育係はテメーだろうが」
と、突然喧嘩を始めたギルとローデリヒさん。
そんな二人にエリザはため息をついてギルにフライパンを投げつけた後ルートさん??に話しかける。
「はぁ……君は…もしかして…」
「久しぶりだな、エリザベータ」
「やっぱり、君なのね…」
エリザはちびルート?神聖ローマ?の正体を知っている。
「この二人は誰だ?ドコの国だ……お前?……」
ちびルートさん?はあたしの顔をみて怪訝な表情を見せる。
「彼らは遠く東の方から来たのよ。ローデリヒさんのお客様なの」
「…そうか、それは失礼した。オレはヴィルヘルム・ループレヒト・ヴィステルスバッハ。神聖ローマ帝国だ」
そう言った彼はルートさんの面影を残しながら、少しだけ寂しい笑顔を見せる少年だった。